第2話 想定外のタイムラグ。
ここからはヤグスの一人称。
「……マジか、また半年以上経ってる……」
何故か深夜営業はしていないらしい、灯りの消えたコンビニのガラス窓に貼られているのは、『恵方巻のご予約承り中!』の文字。
二度目の召喚に巻き込まれた時のそれは、『冷やし中華始めました』だったのに!
それにしちゃ、今の気温は……恵方巻ご予約の季節にしちゃ、暖かいな?
ステータス画面では流石に気温は表示されないが、体感としてはさっき出てきた世界のあの場所と、あまり変わりない。
あっちは、春の始めだったはずだ。
収穫期に入ると手伝ってくれる皆が忙しいからなるはやで、って言われて今日に決めたんだし。
いやでも、今回はまだこれでもきっとマシな方だ。
なんたって、主観時間でいえば、うっかり不老不死をゲットしたばかりに、千年くらいの期間、戦い続けてきた時期があったわけだし?
幸い不老不死なんて厄介なものは、一つ前にいた世界に置いてこれたし、勇者称号も『元』になってるから、今のオレは断然、普通の人間のはずだ。
今度こそ、普通の学生ライフを送って、普通の会社員とかやるんだ!
……でも半年、いや推定九か月経過だとまた留年確定だよな、これ……
二度目の召喚は、実家近くの大学の薬学部に入学して、履修登録を済ませてもうすぐゴールデンウィークだな、という季節だったはずだ。
近年は温暖化とやらで、ちょっとずつ冷やし中華のスタートが早くなっているって話だったしな、確か。
これは当時のバイト先のラーメン屋で聞いたんだから間違いないだろう。
ああ、あのラーメン屋にもすっかり不義理をやっちまったよなあ。
謝る機会があるといいけど、言い訳をどうしたもんかな?
無意識に足を向けてしまったらしい。
気が付いたらそのラーメン屋があるはずの場所にいた、んだが……
……ラーメン屋どころか、一階にラーメン屋が入り、二階に居酒屋が入っていた雑居ビルの建物自体が、ない。
くるりと周囲を見回す。それ以外の建物は、ところどころ微妙に記憶と違う、ぶっちゃけ補修跡があっちこっちにあるけど、位置情報自体は間違っていない。
……マップ機能も使えるんだな、今のオレ。マジでなんでだ?
ラーメン屋と雑居ビルのあった場所は、空き地、とも言い難い謎の状態だ。
敷地はがっちりした金属製の柵で囲まれ、白っぽい砂利だけ敷いた四角い更地になっている。
その中央にでん!と、これも見るからに四角いコンクリ造りの、両開きのいかにも分厚そうな金属扉が何やら厳重に閉ざされた、地下道かシェルターの入り口のようなもの。
で、コンクリの塊の隣に張り付くように建てられた、大きめのプレハブ製の現場事務所っぽいモノが一棟。これも灯りは消えているので、恐らく営業時間外だろう。
まあ夜中だしな。ステ画面によれば現地時間深夜2時だそうだし。
そのプレハブ事務所のドアの横には、縦書きの看板が掛かっている。
敷地の四隅に立てられた街路灯の灯りはあるので、その文字はどうにか読める。
「……迷宮管理事務局・茂崎第二支所……?」
迷宮?迷宮ってアレか?ダンジョンってやつ?
うちの世界にそんなもの、なかったはずだろう?!
ここはもちろん、今まで行ったことのある世界、どれにもダンジョンなんてものは存在しなかった、はずだ。
特にその件を説明されたことがないし、そもそも『迷宮のような』、みたいな修飾辞すら最初の二つの世界にはなかったんだよ。
直前にいた世界なんて、魔法が使えるファンタジーっぽい世界の癖に娯楽としてのラノベが普及してるなんて謎世界で、ラノベにこそダンジョンものってジャンルはあったけど、知り合いになった大巫女のねーさんも、それどころかそこの国々のひとつを守護する神様も、核があったりマスターがいたり階層を重ねていたりするようなダンジョンはその世界には存在しない、と断言してたからなあ。
「……んー?少年、ジモティーにしては魔力やたら多いねー?どっから来たん?」
唐突に背後から声を掛けられる。あれ、今さっきまで誰もいなかったよな、この通り?
「地元っちゃ地元だが、しばらくぶりに遠出から帰って来たところ……」
声は年配の女性のそれのようにも聞こえるものだったから、振り向いて相手を確認しようとしたんだが。
……相手は、どうみても地球人類じゃなかった。
「ん?エルフなんて最近はそこら辺に結構いるっしょ?
ってそっか、遠くに行ってたってことは最近のここいらの事は知らない?」
そう述べる相手は、声の雰囲気に比べて、随分と見た目が若い。少女、とまではいかないけど、オレの推定される現在の見た目と同世代に見えなくはない。
言い回しが回りくどい?百年単位で鏡なんて高価なモン、見てねえんだよ!判らん!
その自称エルフの髪は腰に届く、夜目にも鮮やかな銀色、耳はといえば、やや大きく横に張り出している。
鮮やかな瞳の色は爽やかな青空の色だ。
但し、幅のある革のベルトにウェストポーチと鞘に収まった短剣とSFチックな銃っぽいものこそ下げているけど、着ているのはちょっとくたびれた、ユニセックスな某メーカーのスウェット上下だし、足元はサンダル履きだけども。
エルフなのに、スウェットの上からでも判るレベルにおっぱいがでっかいのはちょっとなんか違和感あるな、と思ってしまったのは、一つ前の世界だとエルフ族は全体的に胸がささやかな種族だったせい、のはずだ。
「いや流石に地元でエルフは見たことないよ?」
「お、地元以外ではあるんだな?ちょっと話聞かせて貰っていい?多分、君の為にもなるよ!
あ、アタシはテリケラ・テクリケラージェ、姓はない。リケラって呼んでちょ」
「オレは夜楠 安宿。姓でも名でもどっちで呼んでもらってもいいよ。近所に同じ姓の人間はいないはずだし」
うっかりちょっと口を滑らせたら、なんかそういう事になった。
オレの今使える技能をフル回転させても、このエルフのねーさんには特に何の問題もないって判定だからなあ。
それに、オレが知っている限り、いくら真夜中、丑三つ時だからって、一般市民が武器の携帯なんてしちゃいけない国だったはずの我が日本で、堂々と短剣だのなんだの下げてる異人種が、そこらのカーチャンか休日のおっさんみたいな恰好で歩き回ってる、という時点で、ダンジョンどころの騒ぎじゃない何かが起こっていることは、想像に難くない。
いや、むしろダンジョンが原因の可能性もあるけども……多分それは鶏が先か卵が先かって話になる可能性が高そうだよな、現状だと。
ならまずは友好的な相手から情報を貰うのが王道だろうさ。
そもそも今のオレ、実は日本円入った財布、持ってないんだよね。
二回目の召喚の時にあっちで失くしちゃったから、さ。
なのでなんにしても親切な誰かにすがるしか、ないのだ。
さっきまでいた世界の通貨が使えたらラッキーだろうけど、恐らく通貨単位が違うから、良くて地金価格だろうし、そもそも商工会に預けてた分は向こうのあっちこっちに寄付しちゃって、持ってきてないからなあ。
「じゃあ一回うちで話そっか!今日は大丈夫なはずだけど、ここ、迷宮前であんまり安全じゃないしね!」
「いろいろ教えてくれると助かる」
これがとにかく、とことん幸運な出会いだったのを知るまで、今暫し。
なお第一世界(仮称)にはエルフはいたけど接触機会なし、第二世界(仮称)ではエルフはずーっと前に滅んでて伝説にも残ってなかった(蝙蝠執事のおっちゃんなら知ってるけど……)
次回以降は別作品『5D!~トップゲーマー観察日記?~』と交互に掲載になります。隔日更新です。
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