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第1話 異世界からの帰還。

 はい新作でーす。おとモフ世界から帰還した元勇者の、元の世界でのお話。

 第1話だけ三人称+ちょっと短め。

 足が地面に付いた、その感触を信じて、恐る恐る目を開く。


 見覚えのある、路地裏。

 時間は真夜中、人影はなし。


「……よし!」

 小さくガッツポーズを取るのは、やや手入れの怪しい、この世界の人間としては気持ち硬めに見える黒髪を首の後ろで無造作に縛り、生成りの長袖カッターシャツと茶色いコットンパンツという、どちらかといえば春秋の装いの、背の高い青年。

 足元……編み上げのショートブーツだけは随分と無骨で頑丈そうなつくりのそれだが、アウトドア派、と言われれば納得できる程度の存在感だ。



 彼の名は、夜楠やぐす 安宿あすか

 以前――彼個人の時間軸で言えば、もうずいぶんと昔――に、この世界から異世界に二度も召喚され、勇者として複数の世界で戦い、挙句の果てに更に別の世界に飛ばされたという、波乱万丈の人生を不本意ながらに送ってしまった、いわば見た目だけ青年、だ。


 一回目の世界は、勇者としての素養を無理やり心身に叩き込む、という、特撮番組の改造人間みたいな目に遭わされた事以外は、意外と常識的で親切な世界だった。

 なのでその世界からは、魔王を倒すという目的達成の後、彼ら自身によってこの世界に戻して貰った。

 残念ながら時間が同期した世界だったようで、こちらで半年行方不明だったことになって留年したのだけはいただけなかったが、それだって、その後に起こったこととその結果を思えば、充分、誤差の範囲だろう。


 二回目の世界が、だいぶ、いや、かなり、いや、とんでもなく……酷かった。

 勇者召喚をした国は召喚成功した直後に魔族に滅ぼされ、辛うじて逃げ出すことのできた先の国は、よりにもよって同じ人間の国に滅ぼされ。

 見捨てて帰ろうにも自力で帰る手段はないからと、ちょっとくらいまともそうな人間を寄せ集めて研究を繰り返し、世界内転移はものにし、人類圏の平穏は確保したものの……

 人類も魔族も扇動していた黒幕、いわば『人類の悪意の煮凝り』とでもいうべき外道野郎を滅ぼすのに、なんと、凡そ千年もかかってしまい。


 結果、その世界は跡形もなく滅びて毀れ、その結果として、夜楠は今度は別の世界に漂着する羽目になった。


 幸か不幸か、諸事情で二つ目の世界で不老不死を獲得してしまっていた彼は、魔王の存在しないらしい漂着先の世界でのんびりと三百年ばかりを過ごした後、ついに帰還のための異世界転移魔法陣を作ることに成功し、友人たちの助力の元、たった今、やっとこの世界に戻って来たのだ。


 なお不老不死は面倒なことになるのが目に見えていたので、その移転三つ目である世界で、偶然それを必要としていた者がいたから譲渡してしまったし、その世界で彼は勇者から()勇者にグレードダウンした、はずだから、今後は普通にこの世界で暮らせるはずだ。



 問題があるとすれば……今回の転移先の時間軸が、召喚された時点とどのくらいずれているのか。そして――


 ――今、正確な時間を確認しようとしたら、何故か開くことができてしまった『ステータス画面』をどう解釈するか、だ。


 いや、このステータス画面は最初の召喚時に『勇者能力詰め合わせプリセットデータ群』、略して『勇者セット』として付与されたもので、以降どの世界でも、なんだかんだで便利に使っていたものではあるのだが……


 元居たこの世界において、フィクションの世界、つまり小説や漫画やゲームの中以外に魔法は存在しなかった。魔力なんてもってのほか、のはずだ。


 だというのに、今開いた、見なれたものではある半透明ウィンドウ式のステータス画面では、魔力も、スキルも、魔法すらも。

 これまで、世界を渡るたびにそれぞれに合わせて覚えてきた、その大半が使用可能として表示されているのだ。

 しかも、帰還に使った異世界転移の魔法は、自分だけで発動するには魔力が足りないものだったからか、きっちりグレーアウトしているけれど、世界内の、通常転移の方は使える表示になっている。


 但し、通常転移は表示こそ使えるように見えたが、実際に項目を開いてみたら、飛べる場所が空欄だった。

 魔法が使えない状態で認知していた場所にはフラグが立たないということだろうか、と夜楠は首を傾げる。


 まさか、戻ったつもりでパラレルの別世界に飛び込んだんじゃないだろうな?


 直前までいた別世界でできた、これも違う世界の出身者たちだという友人たちとの会話の中で出てきた、パラレルワールド、とか平行次元、とかいう単語がふと思い出される。


 いやでも、魂が覚えている。この世界は、オレの元の世界、オレの故郷だと。


 そんな確信をもとに、元勇者ヤグスは、人っ子ひとりどころか、生き物の気配のない路地裏から、帰還の一歩を踏み出した。



 彼の、その人生の長さに比べるまでもなく短い不在の間に、世界に大変動があったことを、彼自身はまだ、知らない。

 日本系だけど固有名詞がずれた世界なんでちょっとめんどくさいかなあと思ったんですが、どうせ作中では日本から出ないからいいや☆で済ませることにしました^^


 先に答え合わせだけしておくと、間違いなく彼のもといた世界です。パラレルじゃないです。

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帰れたのか。 良かった良かった…?
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