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第4話 感動しきれない再会。

 五分もしないのに、玄関からぴろんぺろん、とでも形容したらいいような、謎の音がした。


 姉ちゃんが来たにしちゃ随分早いけどどこから来たんだこれ?

 いや、偶然実家にいたのなら判らんでもない時間だけど……


「さっすがアズちん!早いわー」

 リケラの方は何の疑問もない様子でニッコリ笑うと、玄関に姉ちゃんを出迎えに行く。

 つまりさっきの音はドアベルとかインターホンの類か?


 オレ?ちょっと小腹が空いたもんで、おやつ貰ってた。

 昼間は開いているというコンビニで買ったというポテチ。

 迷宮ができてから周辺は割と物騒なうえに、夜は昼間以上に色々危ないらしくて、迷宮を抱えてしまった町では、夜間営業してるお店はほぼないんだってよ。


 つまり、この世界に出現した迷宮、お漏らし(スタンピード)するタイプか、厄介な。


 財布の中身をどうにかできたら、おにぎり食いたいな……コメ、食えれば千三百年ぶりくらいになるんだよな……二つ目の世界では唯一コメ作ってた国が収穫期寸前に滅ぼされて食い損ねたし、昨日までいた世界にはそもそもコメがなかったからなあ。


 いや、逃避してる場合じゃないな。姉ちゃんから見ても五年ぶりの再会だそうだし、顔くらいちゃんと見せねば。


 ドアからこちらを覗き込むのは、見覚えしかない姉の顔。

 なのはいいんだが……


 なんすかその恰好?既婚女性のするもんじゃなくね?

 しっかりボリュームのある胸を覆ってるソレ、所謂ビキニアーマーって奴では?

 勿論ヘソ出し、太もももばっちり出し、だ。幸か不幸か、アンダーはレオタード系じゃなくて超ミニながらもスカートだったけど。


 似合っているかそうでないかで言えば、何気に似合っているのは……姉ちゃんそういや学生時代はコスプレイヤーやってた、ね……体型も運動部だったせいか、腰回りはしっかり引き締まってる系だしね……


 いやそんな記憶、別に思い出さなくていいんだぞ、オレ?

 凡そ千年ばかり、ひたすら陰険アンデッド野郎とのバトルに明け暮れてたせいで、そこらへんの姉弟セットの黒歴史、割といい感じに忘れたと思ってたのに!


「……なんでこんな時間にコスプレ」

「コスプレじゃないわよ!ちゃんとした装備よ!見た目はともかく性能いいのよコレ!

 じゃなくて!!!安宿あすか!あんた五年もどこ行ってたの!!!」


 思わず馬鹿正直にコスプレ呼ばわりしたら、想定外の反論が来た。

 というか姉ちゃん本人もこの装備の外観は不本意なのか。

 まあそうだよなあ、五年経ってるならアラサーだよなぁ、姉ちゃん……全くそうは見えないけど……


 で、えーっと、鑑定……うわほんとだ、『霊銀の水着風防具』一式?!

 防御力たっけえ!ガチのビキニサイズなのに!


「ホントだ、すげぇ防御力……えーっと、五年経過はオレとしても想定外です」


 いかん、思わず鑑定結果を口にしてしまったけど、これ隠した方が良かったのでは?

 いや、リケラには恐らくスキルもばれてる、今更だ。


「……想定外、か。つまり、迷宮事変そのものには関係ないのね?」

「うん、こんなことになってるのはホントについさっきまで知らなかった」

 この回答も本来ならどうなんだ。『この世界にいなかった』ことを自分で肯定してしまってるぞ、オレ。


 いやいいか、どうせ姉ちゃんには嘘ついてもばれるし。


 弟の嘘はどんな簡単なものでも、どんなに厄介なものでも全部見抜く。

 それが俺の姉ちゃんだ。

 おかげで初回の召喚から帰って来た時は、無理にあれこれ誤魔化そうとしたのもきっちり見透かされて、地味に険悪になったりもしたんだよな……


 それにしても、姉ちゃんの方も、五年も年取ったようには到底見えないし、なんなら新婚当時より若く見えるんだがどういうことだ?

 髪の毛とかキューティクルつやっつやだし、お肌もぱりっとつやっと!だし。


「……その返事だと、そもそも日本どころか、この世界にいなかった、のね?」

 そして姉からは当然のように、さらりとそんな台詞が出る。


 まあオレが自爆してっからな、当然か。


「うん。異世界召喚ってフィクションだと思ってたんだけどね。さっきやっと帰ってきたとこ」

 姉ちゃんもサブカル系おたくだったから、その辺は以前でも普通に通じたと思う。


 でも今の、ぶつかった異世界が完全に認知されてるらしいこの世界でなら、この言葉、他の人にもそこそこ普通に通じるんだろうなあ。変なことになっちゃったなあ。


「そこらへんの事情も隠すつもりならサングラス導入した方が、いや、迷宮適応でごまかせるかなぁ?」

 ん?隠す?何を?姉ちゃんの台詞の意図が、良く判らんぞ?


「……男の子、鏡見ないから気付いてないんじゃ?」

 そしてリケラからもそんな言葉が。


 あれ?オレ確か元の身長まで戻ったから、見た目は変わって……ってやっべ、髪の毛伸ばしたまんまじゃん!いやでも髪の毛とサングラスは関係ないな?


「……鏡を見てないのは判ったわ。見せたげて」

 そして姉ちゃんは、はぁ、と溜息を吐くと、リケラに鏡を要求した。


「はいよっと。ほら、見てみ?」

 どこからともなく取り出され、俺の顔の前に差し出されたのは、ごく普通の二つ折りタイプの四角いコンパクトミラーだ。

 ほぼ同じものを姉ちゃんが持ってたのは記憶にある。


 ……あっれえ???


「なんだこの色」


 自分でも、ついそんな言葉が漏れる。


 だってオレ、自分の顔、ホントに何百年も見る機会、なかったし。

 最近までいた世界では、俺の容姿の話なんて、誰もしなかったし。

 身長が縮んだり伸びたりって話だけはしたけど。


 髪の色も目の色も、子供の頃からオレはかなり黒い方だった。ほぼ真っ黒。

 それが、目だけがライムグリーンっていうのかな?明るい黄緑色に変わっている。


「うむ!自覚なしだ!これは変色の理由自体もわかんないかもなあ」

「リケラに判らないんじゃ誰にも判らなさそう……」


 女子二人はオレの顔をしげしげ見ながら割と酷い事を言っている。

 とはいえ、実際オレもいつそんなことになったのか、どころか、そんなことになっていた自覚自体がないからなあ。


「……直前までいた世界で変わったんじゃないのは確かかな。

 そこそこ仲のいい友人が複数いたから、変化したならツッコミの一つや二つは入ったはず」

「直前?あんたいくつ経由してきたの」


 そしてまたもやすっかりうっかりで口を滑らせるオレ。


 いかんな、帰還できた喜びと、姉ちゃんがいつも通りの姉ちゃんだったのとで、完全に気が緩んでる!


「……直近はふたつです。その前半年行方不明になってた時はひとつ」

「はぁ?!あれも召喚だったの?!」

「異世界3か所経験者!エルディムでも見たことない奴キタコレ!!」


 しょうがないので腹を括って、経緯のおおまか、全部ぶっちゃけることにした。

 思わず丁寧語になったのは、姉ちゃんの顔が、ちょっと怖いから……いやこれ怖いっていうか、心配してる、んだろうか……?


 でも、これは今、ちゃんと全部説明しないとだめ、そんな気がするんだ。


 ……流石に改造人間なとこと千年バトルは端折るけどな!!

 あとリケラさん、好奇心自重!!

 実は自爆系男子。※帰還+姉ちゃんと再会できたのでかなり気が緩んでる。

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