第27話 地上へ帰還する。
そのあとリケラがうまく姉ちゃんを丸め込んでくれたので、ダンジョンコア層を見学して帰ることになった。
ここも、魔法陣で飛ばないと階層クリアにならないんだってさ。
ボス指定解除が討伐と同等扱いになるよう早速世界樹さんがルールを改変してくれたので、魔法陣自体はさっくり開通だ。
【暫くは世界樹様と新しい運用仕様を詰めますが、反映はそこそこ先でしょうから、当面は今までと同じ感じになりますのう。
熱帯エリアが早急に必要であれば、リソースを確保でき次第、第二か第三を拡張しましょうかのう?
確かにカレーがコピー品しかないのが寂しいのは判りますし】
コアの元に案内してくれつつ、精霊会長がそう述べる。
リッチだった頃よりふっくらして健康そうな見た目になったけど、ステッキはついたまま、服装も変わらない。
姉ちゃんによれば、半透明に透けていなければ、生前の会長そのまんま、なんだそうだ。
「姉ちゃん、会長と元から知り合いだったん?」
「そりゃあたしの勤務先、輸入食品系商社だったもの。地元だからお前が行けって営業に出されたりしてたのよ」
【アズちゃんの持ち込む案件、移民の方に良くウケてねえ】
あーそうだ、姉ちゃんエスニック料理好きであの会社選んだんだったね、さもありなん。
自分が使いたいもの選んで持ち込んだな?
茂崎は田舎すぎて地元民が大半の町だったけど、垂水には結構な数の外国人、出稼ぎだったり移民で正式に国籍をこっちにしたりの人たちが住んでたからね。
そういう人たちも今は元気に探索者だ。
面白いのは、探索者としてのレベルが上がると、何故か皆日本語が上手くなるんだそうだ。
なので以前なら言葉が通じなくて疎遠だった人たち同士が仲良くなって、パーティ組んで一緒に潜ったりしてるんだと。いいことだな!
「実は英語とかの理解力も上がるんだけど、周辺に溢れてる言葉の方が優先で上達するみたいね」
そんな話をしているここは既にコアルームだ。
といっても、暗い部屋の中で、大きなヒビが入った丸い半透明の球体がうっすらと明滅しているだけだったりする。
「暗いけど灯り付けていい?」
【おお、そういえば生身には暗いですな、明るくしましょう】
どうやら現在の会長はコアルームも弄れるようで、ふわりと部屋が明るくなる。
精霊化すると光の有無と視界に関連性がなくなる、らしいね。
明るくなった時点で判ったのは、このコアの色だ。
半透明の部分は、薄墨色。コアの中心には、灰色の泥のようなものが僅かに蠢いている。
そのコアの中央にまで一筋届いたヒビにだけ、淡く緑色が載っている。
「見事な仕留めっぷりねえ」
「少年は調節も上手いんね。アタシだとカチ割りそう」
【完全に滅ぼさず、活動不能にきっちり一発で追い込む、お見事ですな】
ここまできっちりコアを損傷させれば、このコアに人格が戻ることはないそうなので一安心だ。
迷宮の悪意を一手に背負ってるのがダンジョンコアだそうなので。
そのあとも幾つか相談事を確認してから、今度こそ地上に戻る。
なおコア層からの魔法陣だけは一方通行だ。
会長爺ちゃんが招いてくれたら入れるけど、もうオレ個人には用はないはずだからね!
地上に戻ったら、何やら大騒動が発生していた。
そして、上がって来たオレ達を見るなり、迷宮管理組合の職員さん数名と土田さんがすっ飛んでくる。あ、上総さんもいるな。
「おいアズ!まさかもう底に到達したのか!」
「思ったより浅かったのよ!54層!」
55層にはガチでなんにもないので、この迷宮は54層まで、ということに口裏を合わせることになったんだ。
そもそも55層は迷宮本体から隔離し、適当に縮小して、爺ちゃんが自分の部屋にするそうだしな。
その辺は何故か世界樹さんがやり方を知っていたので、当面の爺ちゃんの安全は完全確保だよ。
「世間的には充分深いですよ!50まではまだリポップ……している時間じゃないですね」
「行ってくる」
職員さんの言葉に、上総さんが一言だけ応じて、さっと迷宮入り口に進みかけて、止まる。
「だめか、巻き狩りがまだ終わっておらん。50にそもそも届いていないらしい」
どうやら垂水迷宮第一の踏破、思った以上に大ごとだし、組合には踏破の件がオレ達が上がる前に判っているんだな?
「そうなの?じゃあ内容説明するわ。
まず50がドラゴンフルーツとサボテン類とオクラ、51はヤシ科各種でスネークフルーツ、52はしましまうまがいて馬肉とクミン辺りが落ちたわ。53はスイレン類の野菜、干支要素はヒツジグサが混ざってるだけだったけどカルダモンが出ました。んで最後の54がモンキーバナナとバナナ各種、プランテンを添えて?そこで終わったんで中ボスはなしね!」
「しま……?」
どうやら上総さん、しましまうまをご存じないらしく、そこで首を傾げた。
「しましまうまってあの絵本の?会長、作者さんと仲が良かったそうで、あの絵本はお気に入りでしたけど」
「ええ。あと残念な情報が一つ、会長の救出は失敗よ。取り込まれてすぐに寿命が来てたらしくてね」
職員さんの方は知っている世代だったようで、そんな回答だったけど、それに続く、会長が生存していなかった、という情報に、フロアが静まり返る。
「ただコアは発見できたんでヒビらせてきたよ。この迷宮は54層で打ち止めだ!」
そして続くリケラの言葉に、フロアがわあっ!と再び沸き返る。
「そうでしたか……会長もいいお年だったし、持病をお持ちでしたからね……」
「という訳でクリア報酬とドロップ品の査定ね!安宿、行くわよ!」
「へいへーい。荷物持ち、仕事しまーす」
ざわざわと明るいざわめきの中、人混みを職員さんたちが整理しつつ、オレ達を検収所に連れて行ってくれる。
「巻き狩りまだ終わってないって?」
「茸の状態異常が予想以上に強くて、半数脱落しちゃったんですよ。装備と場数の違いですね」
「あー、あたし達3人とも状態異常ほぼ効かないからねえ」
「弟さんもなんですか」
「少年が一番強いかも。雷系の魔法で拡散持ちなの強いわ」
「ヒトの手札を軽々しくばらさないで?」
「あっごんめー!」
リケラも機嫌がいいのか、なんだか口が軽い。
垂水の迷宮にフレンドリーファイアはないけど、茂崎には多分あると今のオレは確信してるからな。
自分の手札は、あまり晒したくないんだよ?
いや現状でまだまだいっぱい隠してはいるんだけどさ!そっちは正直割と人聞きの悪い奴が多くて、できる限り人前では実用したくねえの!
「……まだあるんですか……?」
「だって46層から54層までぶち抜いてきたもの。47の牛は結構念入りに狩ったし」
「椰子の実系とバナナ類がまた重いんだよ」
「バナナ!!!」
どうやら今日の担当係員さん、バナナが好物だったのか、ものすっごいキラキラ目になった。
結局、査定が全部終わるまでに半日かかりましたね。
垂水での初物が多かったせいもあるから、しょうがないけど。
「終バス行っちゃったぞこれ」
「しゃあない、今日はこっちの家に泊まるか」
そんな訳で、垂水の町を歩いて姉ちゃんの婚家の方に戻ることになった。
「新婚さん用物件だったはずだけど、オレ寝るとこある?」
「リビングにソファーベッドあるからそこでお願い」
「アタシはアズと一緒に寝るんでいい?」
「おっけー」
簡単にそんな会話をしながら歩く。
注目は浴び続けてるけど、慣れてきちゃったなあ。
実は51のココナツが水分といえば水分だが、あそこ行ける人まだほかにいねえのよな。




