第28話 姉ちゃんの家にて。
町を歩いている間にも、ざわざわとオレ達は注目を集め続けている。
「これ隠蔽とかどこかでするべき?」
「ああ、居住エリアでは個人向けの自動隠蔽が発動するから、安宿、自分にだけセルフ隠蔽かけてね、できるんでしょうどうせ?」
「できますね……」
成程、オレはあくまでも茂崎に住所があるから、こっちの居住エリアでの隠蔽は発動しないのか。
そういえば茂崎でもそんな感じの結界張ってあったなあ。
最初にバスに乗った時に初めて気が付いたけど。
確認したら、住民カードに登録した住所の区割り内だけで発動するものだそうだ。
姉ちゃんは実家と今の家を両方登録してるんだって。
リケラはといえば自前の隠蔽を使ってたので、タイミングを真似ておく。
この隠蔽は、目の前の人が掻き消えるなんて大げさなものではなく、自分たちの印象を薄めて、誰かいるのは判るけど、誰がいるのかが判定できなくなる、そんな感じのものだ。
……なんか魔法のカメラっぽいものが追尾してるな?オレを探りたい誰かか?
ちょっと隠蔽を強めたら、位置情報をロストして落ちたからまあいいや。
そういえば新婚当時に五斎さんに挨拶に行って以来かもしんないな、姉ちゃんち。
姉ちゃんの現在の基本居住地になっているのは、この垂水の第一迷宮からは少し離れた地区だ。徒歩で行ける範囲だけど。
但し、第一迷宮よりもだいぶんと近くに第二迷宮がある。
といっても垂水の第二から第四迷宮は、低レベル向けの遠足迷宮とまで言われてるくらいの低難易度迷宮だ。
第二なんて全10層で、アクティブモンスターゼロだそうだし。
なので垂水の人間も、茂崎の人間も、茂崎から垂水を挟んで反対側にある松ヶ枝町の連中も、最初はこの垂水第二で探索者としての訓練をするんだそうな。
第二で基礎訓練をして、第三、第四で本格訓練、そこから他の迷宮へと足を延ばすのが基本コースなんだって。
現状、オレには関係ないんだけどね。
さてそんな姉ちゃんの家、新婚さんというか若い夫婦世帯向けのマンションは、やっぱり魔力認証系のシステムが働いていて、オレはこちらにも登録された、らしい。
「いいの?」
「取り合えずイツキが帰ってくるまでは寝室以外は好きに使っていいわ」
流石に取り返したらあんたには実家に戻ってもらうけど!と姉ちゃんは言い切る。
……姉ちゃんは、茂崎迷宮のダンマスが五斎さんだと信じているんだそうだ。
そして、オレの今の技能も、その可能性はそこそこ高いと踏んでいる。
会長の爺ちゃんみたいなことになってない、とは思うんだが。
五斎さんは爺ちゃんと違って至極健康だったはずだしな。
勝手知らない姉ちゃんの家なので、リビングで大人しくしていたら、姉ちゃんが手早くエビ入りの蓮根餅を作って、作り置きの常備菜や揚げたての冷凍唐揚げ共々出してくれた。
そういや今日は帰りにスーパーもコンビニも、寄らなかったな。
「じゃあ今日は地味だけど踏破記念で祝杯よ!」
「そうか、記念日か。じゃあ後でフルーツタルト出そうか」
「タルト!複数在庫があるものにして!お菓子は少ないんよ!」
貰い物があったな、とそんなものの名称を出したら、リケラに猛然と迫られた。
「えーと、複数在庫だと……全員違うものを出すことになるかも。桃と洋梨とラズベリーとリンゴとブドウとデーツ系椰子の実、どれか一個ずつ」
「桃!」
「アタシはラズベリー」
(あ、いいなー)
え、世界樹さんここでも念話飛ばせるの?
(垂水市内は全部私の支配下ですぅ)
……そういえばそうだった。川岸から世界樹由来の森林だったね、ここ。
とはいえ世界樹さんに甘いものを届ける方法なんてあるんだろうか。
というか世界樹さんって食事、するの?
(……うっ……)
図星、というイメージと共に気配が遠ざかる。
成程、実際に食べる手段はないんだな。ちょっとかわいそう。
「……なんでこんな高層にまで世界樹の気配が」
リケラが妙に鋭いなあ。
「リケラってひょっとして世界樹と何かかかわりがあるの?」
「エルディムのエルフは基本的に世界樹の世話をする種族だからね。大半は茂崎に住んでるけど、今後はどうなるかなあ。ああでも足元に世界樹はちょっと恐れ多いかも?」
なるほど、人口移動の可能性も微レ存?いやでもなあ……
「まあ世界樹さん本体の状況を考慮すると、どこに住んでてもほぼ同じ感が否めないけど……」
「ナニソレ」
「地球と同化してる。大地まるごと世界樹さんの影響化。
世界通信に魔力が載るのもそのせいだよ。世界樹さんが便宜を図ってくれている」
「なんてこと……!そんなに助けられてたなんて」
(モンスターではない真っ当な精神を持つ生命を護るのも、『仕事』のうちですからねえ)
世界樹さんはしれっとそんなことを言っている。
ああ、だから会長の爺ちゃんは助けてくれたんだな。
あの人は、エルダーリッチに転変させられても、ヒトとしての真っ当な精神を持ち続けていたから。
(そうね、あのレベルの精神の持ち主をあのまま消滅させるのはちょっと今の世界的にはナシですからね)
そういえば、人口にそれなりの変動もあったんだったか。
(救えないものは本当に救いようがありませんから)
諦めを滲ませた世界樹さんの呟き。
どうやら砂に埋まったエリアの連中は、相当こっぴどくやらかしたっぽいなあ。
「守護者がいると開示情報が増えるとは聞いてたけど……ここで特に影響が強いのは」
「根っこというか、根本情報がこの辺にあるからっぽい。
あとこの辺に元の地脈と無関係に迷宮が乱立したのもそのせい。
ダンジョンコア、世界樹の力を奪おうとしてるから」
「あ、うん、我々もダンジョンコアの目的はそれだってのは知ってる。
そうか、ここに根本情報があるのか……あ、アタシにも判るようになった」
リケラはどうやら世界樹さんとの親和性が高いタイプなのかな?
情報を出したら世界樹さんとの距離がすっと縮んだ、そんな感覚だ。
横でその話を聞く姉ちゃんは、無言で厳しい顔だ。
「……安宿、守護者って人間辞めてるみたいな存在って聞いたことがあるんだけど」
「元とはいえ、勇者システムの情報保全の方が勝ってるから、世界樹さんとは念話ができるのとスキルの貸し借りができるくらいかな?」
貸せるからには、借りることもできる。
ただ、現状オレが使うようなスキルがなさそうとは世界樹さん談だ。
「貸すのはいいけど借りるのはできるだけやめておくべき。
世界樹との親和性が上がり過ぎるとガチで人間辞める羽目になるわ」
そしてリケラから怖い忠告が来た。マジなんだ。
(残念ながら。現状キミが使いそうなものもないですけど)
せいぜい虫よけくらいでしょうけど、キミ、自前で持ってますしねえ、と世界樹さん。
それもあるけど、そもそも今のオレのレベルだと、そこらに飛んでる在来の虫の針とかは、多分刺さらないんじゃないかなあ……?
と思ってたんだが、あとで調べたら虫にもわずかながらにレベルが生えてるらしい。
結局オレのレベルを抜ける生き物は地上にはいなさそうでもあったけど。
「農民でもするならともかく、現状で使いそうなもんがないんでそこは平気」
「あー。探索者やるには普通植物属性は使わないか」
「迷宮の植物は植物のカタチはしててもモンスターだから別物だしね」
成程?迷宮内部のものは植物っぽくてもモンスター、覚えた。
ドロップアイテムに関してはちゃんと植物だったり肉だったりするけど、それはそれで仕様、なんだそうだ。
割とめんどくさいことしてるな、迷宮ってシステム。
世界に弾き出されないために、迷宮側も最低限の利便は図らなあかんのです。




