第26話 世界樹と迷宮と守護者。
(そういうのは協力を求めるとは言いませんっ!)
おもむろに、脳裏にちょっぴりキレ気味の声が響く。女性の声の念話って奴。
世界樹さん普通に喋れるんですか。想定外っす。
(ほ、本当はだめなんだけど!でも状況的に出てくるしかないじゃないですか!
具体的に私に何をさせたいんですか!)
思いのほか若い声は、予想外に前向きに、オレに具体案を求めてきた。
そこのリッチの爺ちゃんさ、守護者補佐とか代理とかに、できない?
属性反転とかさせてさあ。
(うわぁ人選誤った!こんな無茶振りされるとかないですわ!
……でも確かに一番丸く収まる、のかしら?)
でしょ?
流石に他所の迷宮でそんなこと頼めるとは思わないけどさ。
ここ垂水は、今や君のお膝元でもあるんだろう?だから。
(しょうがないですね!今回だけですよ!
反転は……ふむ、成程。キミ、面白い知識と技能持ってますね?
これとこれを借りればやれそうです!)
どうやら世界樹さんは守護者の記憶や能力を覗き見たり、借りたりする術があるらしい。
自己解決した雰囲気で、オッケーサインが出た。
世界樹さんから指定された技能は、文字化け群のふたつ。
っつか文字化けしてて、なおかつきっちり隠蔽を掛けてあるはずなのに、読み取れるのか。
流石世界の名を冠するだけあって、優秀だな?
「おっけー、話は付いたんで、ちょっと失礼して」
【ほう?どうする気じゃ?】
無事世界樹さんを説得できた?ので、リッチの爺ちゃんに手を触れる。
冷たい手。そういうところはちゃんと死者なんだなあ。
「〈接続:世界樹ロ****ル/【***】:〈反転〉」
音声は意図的に歪め、第三者には聞き取れないようにする。
世界樹さんの名前と今使ってる技能は、たとえ姉ちゃんといえども、余人に知られちゃいかんので。
この手の隠蔽は最初に召喚された世界では教わらなかったんだが、二番目の世界でどうしても必要だったんだよね。
なので今でも割と得意な奴。
【ぬぉ!??】
驚く爺ちゃん会長の姿が、ぼやけ、薄れ、そして眼窩から白い光が溢れる。
光が消えた後には、薄っすら透ける姿ではあるものの、さっきまでとは一転して、まあまあ元気そうな、ちょっぴりふっくらした爺ちゃんの姿が。
ふーむ、エルダーリッチから反転させると精霊化するんだ?
(私の眷属にしてしまうのが一番近道だったんですの)
それだとこの迷宮自体が世界樹の管理迷宮ってことになっちゃわない?大丈夫?
(現状でも第二迷宮は私の管理下ですから問題ないですね)
へえ、そうだったんだ。
「……はいおしまいっと。あ、そうそう、これお返しね。〈雷針〉」
爺ちゃんから手を離し、床を突き通すように雷の魔法を落とす。
但し割と手加減して、だ。
ダンジョンマスターが不在化した場合、ダンジョンコア自体も脆くなるらしくてね。
割らないように気を付けないとね。
パチリ!と音がしたのを確認する。
途端に大きな魔法陣が現れて、一瞬で掻き消える。
【最後っ屁で追い出そうとしたようじゃが、そうはさせんよ】
どうやら退去の魔法陣を出したのはダンジョンコアで、消したのは爺ちゃんらしい。
「えーっと、何がどうしてどうなったん?かいちょーがリッチじゃなくなってるけど」
リケラが真っ先に疑問を呈する。流石研究者!
「ここの迷宮、世界樹に寄生してるんだよ。だから世界樹に反撃してもらった」
簡単に説明したら、リケラが宇宙猫になった。
「いや待って?世界樹に反撃手段が、あるの?非戦主義じゃなかったの?」
「戦ってはいないからノーカンなんじゃね?」
実際爺ちゃんは一切の抵抗をしないまま反転したしなあ。
【あまり深く考えん方がいいぞ、エルフっ子。
そうそう、ワシはフロアボスから解放されたうえに、世界樹の眷属精霊にじょぶチェンジ?したでの。
ダンジョンマスターの職も何故か付いたままじゃから、ここを出られはせんが、迷宮をより快適にすることが出来そうじゃぞ】
「あっ世界樹のリソース食わない程度でお願いします」
反転の結果は、爺ちゃん会長の精霊化、そして世界樹の眷属化だったので、フロアボスの条件からは自動的に外れたんだけど……
何故かダンジョンマスターの権限は残ってしまったらしいので、慌てて釘を刺す。
流石に世界樹のリソースを使ってまで迷宮大改造とか、されちゃ困る。
【それじゃったら、少々リソースになるモノが欲しいのう。生ごみとかでもいいんじゃが】
「それって垂水迷宮がもっと人類寄りに変化できるって事……?」
【既存部分をあまり壮大に変更するのは無理じゃがなあ。50以降の難易度はきつめじゃが、ここまで踏破されても困ることじゃしな。
ワシはイレギュラーから更にイレギュラーになってしもうたでの、あまり余人の目に触れん方がええじゃろ?】
「そうね……流石に精霊化とか言われちゃうと世界樹に疑惑を持つ人が出そうだからマズい」
「というか前から不思議に思ってたんだけど、第二、今世界樹の話を出されて判ったけど、はなっから世界樹側よね?
10層しかなくて、底までアクティブいないんだもの。第三以降はそれなりに階数あるのに」
【第二は試験的に作って、わざと管理権を放棄したら世界樹様が持って行ったのじゃ】
(迷宮の仕様を把握したかったのですよね)
世界樹さんがオレにだけ解説を追加してくれる。いや、多分爺ちゃんにも聞こえてそう。
リケラが、そこで動きを止めて、オレと爺ちゃんを見比べる。おや?何かに気付いた?
「爺ちゃんは直接干渉があったうえに、今は眷属になってる、のか。把握した。
でも少年、君はなんだ?何故世界樹と接続できている?」
「守護者押し付けられた。部外秘でよろ」
姉ちゃんにもどうせばれるだろうから、とりあえず簡単に報告する。
「それだと垂水から出らんなくなることにならん?」
「現状は大丈夫だけど、いずれそうなると困るから、爺ちゃんを眷属にしてもらって、守護者代理して貰う方向にしたんだよ」
【うむうむ、代理代行!引き受けましたぞ】
「代行まで増えるの」
【力の差じゃな!いっときエルダーリッチだったとはいえ、ワシ、まだ人生合わせても100歳未満のひよっこじゃぞ!】
言われてみればそれもそう。年齢差、あるよね……ってしまった!
姉ちゃんが胡乱な目でオレを見ている。
「100歳未満がひよっこなら、安宿は?弟である以上、あたしより年下のはずよね?」
やべえ、バレる。
「そうは言うけどアズっち。この子年齢はアタシより下だけど推定レベルはアタシより上よ?
ほぼこの世界最強レベル相手に年齢の話は突っ込むだけ無駄だと思う」
そしてリケラの台詞は、真実だけを述べているのに、絶妙に曖昧だ。
具体的な数字が出ていない辺りが。
「えぇ、世界レベルでトップ?」
「じゃないと[世界樹の守護者]が初見で飛んでくるとかありえない」
なおも懐疑的な顔の姉ちゃんに、リケラがすっぱりと理由を述べる。
ああうん、その理由はオレも予想はしてなくもなかった。
人材足りてないんですかねこの世界。
(普通にキミが規格外です。システムがフローして見えてないけど、レベルを正規換算したら5桁ですよ?)
そして世界樹さんからツッコミが来て判明したのは、オレのレベルがだいたいの原因だという話だった。
そっかぁ、レベル5桁で済んでるのか……
そういやバトル期間は長かったけど、倒した総数って知れてるし、途中から多分奴の眷属からは経験値入ってない感じだったもんなあ……
バトルさせようとしたらバトル禁止案件だった。
そして接触されないまま台詞もなく欠けて人格部分壊れるコア(本当のダンジョンラスボス)さんェ。




