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第25話 この世界の迷宮の仕様。

 さて、爺ちゃんリッチは相変わらず穏やかだけど、これどうしたらいいんだろうな?

 中ボス倒さないと層クリアにはならないし、救助対象であるダンジョンマスターを倒しちゃったら多分ダメだろうし。


 そもそもなんでダンマスを中ボスに設定するなんてガバが発生すんだよ。

 流石に保護しとかないとダメなんじゃ?


 ……保護、したくない?

 ダンジョンコアの意向に逆らい続けるダンマスとか要らねえ?

 だとしたら、次にダンジョンコアが試みるのは、なんだ?


 ずん、と急激に気温が下がる。

 結界を多重に展開して、とりあえず姉ちゃんとリケラは護る。


【ぬう。大人しく倒されろと来たか。余程ワシが邪魔らしいな】


 爺ちゃんリッチの、それまで閉ざされていた目がくわっと開く。

 目玉のない黒々とした眼窩の奥底で、赤い光が灯るのがこの世界のリッチらしい。


「え?なに?かいちょーを廃して我々から誰か引っこ抜こうって?バカじゃね?」

 そしてリケラの意見は極めて辛辣だ。


 デスヨネー。

 だってここのダンジョンコア、レベル300()()ないんですよ。

 勇者セット、何故かダンジョン踏破向けの技能も揃っててね?


 ……まさか実用する機会があるとは思わなかったんだけど。

 ダンジョンだの迷宮だのに入ったのはここが初めてだとも!


 ともかく、そんなへなちょこコアでは、オレはもちろん、一番レベルの低い姉ちゃんですら取り込みなんて不可能だ。結界はあくまでも念のためだよ念の為!


 それとも上層階から引っ張ってこれたりするんだろうか?

 いや、それはないな、と技能判定。


 この場所は迷宮の現在の最下層。

 この下には、コアしかない。

 だから、オレのスキルや技能をそれなりに駆使すれば、いろんなことが判ってしまう。


 この世界の迷宮は、それ自体が意志を持つ、ダンジョンコアによって作られる。

 これはエルディム世界にあったもので、エルディム世界的にもダンジョンコアは外来種かつ、敵性存在だったそうだ。


 基本の迷宮自体は、コア単体で作ることもできるが、そういう迷宮は単系統のモンスターしか出現させられない。

 単系統、つまり同類のモンスターばかりになるという事は、攻略方法が確定した瞬間に、最深部まで踏破されてしまう、ということだ。

 勿論トラップなんかで時間稼ぎもするだろうが、それにだって限度はあるし、それも単系統の場合はパターン化してしまうからだそう。


 そこで、ちょっと知恵のある、そして人類圏に近い場所に出た奴らは、迷宮を起動する際に、地上の人類から何らかの知識の厚い人間を誘拐し、ダンジョンマスターとして知識の糧にする。


 通常ならダンジョンマスターは拘束状態で知識だけを奪い取られ、階層そのものの性質に彼らの性格は反映されない。


 ところがこの垂水迷宮では、スーパーの会長の爺ちゃんがダンジョンマスターに選択された直後に、老衰もしくは何らかの持病の悪化で死んでしまった。

 そしてダンジョンコアは知識があれば死人でも構わないと思ったのだろう、爺ちゃんを生前の記憶と人格を持つタイプのアンデッド、エルダーリッチとして転変させた。

 上位種のエルダーなのは、多分そうじゃないと記憶の保全に問題があるからだな。


 で、この『人格を持つ』、というところが奴の失敗だったんだな。

 この爺ちゃん、割とごっつい信念の人だったんだ。


 だから、気が付いたら垂水迷宮は人類に優しいスーパーマーケット迷宮に変わり果て、ここのダンジョンコアは自らの分身であるはずの迷宮を満足にコントロールできなくなった。


 で、だ。

 今ダンジョンコアが企んでいる、ダンジョンマスターの挿げ替え、なんだが……


 ……できないんだな、これが。

 仮に可能だったとしても、ここまでの生成済みの迷宮は、一切変化しない。

 新しく階層を追加できたら、ワンチャンあるかも、くらいの話だ。


 できない理由は今回の場合はとても簡単で、爺ちゃんがこの55層のフロアボスに指定されてしまったからだ。

 フロアボスって倒されても一定時間で復活するからね!

 ダンジョンが破却されない限り絶対滅びないダンマスの誕生だよ!


 ダンジョンマスター兼フロアボスって普通は無理なんだろうけどね。


 ここでもダンジョンコアの最初の失敗が響いている。

 モンスターに分類できるリッチなんかにしなけりゃ、この事態は防げたはずなんだよ。

 つまり、会長をターゲットにした時点でここのコアは詰んでた、ってことだね。


「……うん、だいたい判った。後はこの55層を突破する方法だけだね」


 ニッコリ笑って、宣言する。

 ダンジョンコアにも、聞こえるようにだ。


【ワシを倒せばええんじゃ?フロアボス設定になったから復活するでの】

 会長は気安く自分を斃せとのたまう。

 ホント調子狂うな、この人。


安宿あすか、策はあるの?」

「少年、できたらかいちょーを倒すのはナシで願いたい。

 状況が特殊すぎて想定外のバグが出る可能性がある」


 そして姉ちゃんは可愛く首を傾げてみせ、リケラからは割と真面目な指摘が来た。


「うん、リケラの言う通りだね。そもそも爺ちゃんの存在がバグってる訳だし。

 多分、倒さなくてもどうにかできるけど」


 ここで火を噴く、訳じゃないけど解決に至る一番簡単な道が、オレが最初に垂水に来た時に付加された[世界樹の守護者]の称号だ。隠してるけど。


 垂水の迷宮は、世界樹の迷宮でもあるんだ。

 恐らく、ダンジョンコアが世界樹の力を奪いたくて、そうしているんだが。


 要するに、この垂水迷宮、世界樹に寄生してるんだよ。


 そこが、オレのつけ入る隙になる。

 世界樹を現在進行形でいじめているダンジョンコアなんて、当然守護者たるオレの討伐対象になるんですよね!


 流石に完成した迷宮の階層をぶち抜いて影響を及ぼすなんて物理的に不可能だけど、この未完成の最下層でなら?


 そう、オレにはもう、床下の、予想以上に浅い場所で様子を伺っているダンジョンコアが、視えている。


 あーでも、ここのコアは壊したらダメなんだよな。

 遠隔で、ヒビだけ入れられるかな?力の調整が難しいなあコレ?


【……小僧、何をする気じゃ?流石にコアにダメージを与える行為などをされると、ワシも敵対せざるを得なくなるんじゃが】


 むぅ、リッチの爺ちゃんに敵認定されるのはちょっと微妙だなあ。

 オレが倒される気なんて全然しないとはいえ、仮に垂水の迷宮出禁になるとかだと、食料確保的にちょっと困る。


「爺ちゃん倒すのもナシだし、そもそもここのコアは倒しちゃったらだめだもんなあ」

「勿論よ!茂崎ならともかく、垂水迷宮が無くなるのは食料事情的に全く宜しくないもの」

「ですよねー」


 うん、そこは判ってるからね。

 では、どうするか。


 オレねえ、思うんですよ。

 世界樹のような、人間より遥かに『力持つ存在』が護られっぱなしってどうなの?

 そりゃあ大事な仕事があるのかもしれないけどさ。


 こっちとしても別に欲しくもない称号押し付けられてるんだから、それなりの便宜は図ってくれてもいいんじゃないかなー?って。


「……安宿がなんか悪い顔してる」

「これで悪い顔なのか……」

 姉ちゃんが割と酷いことを言ってよこし、リケラが真顔でこっちを見ている。


 ……世界樹に協力を求めるとか、もしかしたらリケラ的には悪い事かもしんないな?

 でも多分これが一番無難な解決策だと思うんだよなあ。

 実際ダンマスが敵対認定した場合、最初に適用されるの出禁だからね、ここ……

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