第24話 垂水迷宮の最奥部。
底に着いたのはいいんだが。
進める場所を進みながら、更にジャガーの群れをふたつ倒したら、55層への魔法陣だ。
ただ、この魔法陣、色がそれまでのモノと違っている。
さっきまでの魔法陣は僅かに紫色を帯びた白い光だったのが、ここだけは、そのわずかな色味が、赤い。
「これ色違うけどなんで?」
「……次が最終層ってことよ。意外と狭かったわね?」
「55層で終わりかぁ、もう少しあると思ってたんだけど」
質問にはシンプルな回答だ。
でも55層って充分広くない?
「まあ踏破しちゃいましょうか!」
「そうね、安定するならその方がいいし、流石に50から先はちょっと一般ピーポーにはきつそうだしねえ」
「ほーい」
ノリノリの女子二人に微妙に気の乗らない返事をして、三人で魔法陣に踏み込む。
この魔法陣の移動には、特に浮遊感も何もない。
いきなり風景が切り替わるんで、慣れないと戸惑う人もいそうだけど。
55層は、がらんとした広い空間だった。
なんていうか、イメージとしては、工事中?
「うわあ、これはひどい」
「まさかガチの未完成迷宮だったかー……」
女子二人が困り顔だ。どうも想定外の事態だけど前例は知ってる、そんな雰囲気だね?
【ぬぉ!?何故此処にニンゲンが!!】
そこに、肉声ともなんとも判断しがたい声が響く。
「ちゃんときっちり殲滅踏破してきただけよ!」
そしてその声に律儀に回答する姉ちゃん。
「いやアズちん、睡蓮池はショートカットしたっしょ」
「ん?殲滅じゃないと不都合が?」
「別にない」
ないんかい!姉ちゃんたまにそういうビッグマウス決めるよなあ!
【ドロップルールは……守っておるな……どういう容量の収納を確保してきたんじゃ】
相手の姿は見えないが、どうやら話しているコイツ、ダンジョンマスターの気配だな。
だけど、この声の主、オレのサーチ結果だと……アンデッド、なんだが……
ダンマスにはともかく、アンデッドってあんまりいいイメージないんだけどな?
語る言葉のイメージとも、ここまでの垂水迷宮自体のイメージとも、合わない。
「はっはっは!ガチ勇者のマイ弟を確保しました!」
「ガチ勇者じゃなくて元勇者だよ!」
姉ちゃんが更に大口かますので、即訂正する。
流石にこの世界でまでガチ勇者をするつもりはないからな!
っつか別に魔王がいる訳じゃないんだよな、今のこの世界。
どういう理屈か、分散して存在するダンジョンコアが、オレには危険物として認識されてるけど。
【……ほほう?代理ではなく、元勇者……?代理といい、なんでこの世界、真の勇者が現れんのじゃ】
それにしてもこの声の主、アンデッドかつダンジョンマスターとかいう、普通なら完全に人類の敵、にしちゃあ……やたら口調が温厚だな?
「魔王がいるなら現職復帰可能だけど、多分そういうの、いないよねこの世界」
「エルディムにそういうのはいたことがないねー」
「第六天魔王……は歴史の彼方なうえに綽名に過ぎなかったし、こっちにも現役魔王なんていないわねえ」
念のため確認したら、女子二人はないない、という軽い認識。
うん、実際いないもんな、そんな面倒くさいモノ。
【そうじゃなあ、確かにこの世界に魔王はおらぬ。ダンジョンコアには@*?@がおるが……おっと、流石にそれは喋らせてくれぬか】
……どうやら、死してなお、このダンジョンマスターは人類側に立ち続けているらしい。
そんなアンデッドも、いるのか。
「ところで会長、さっきから声だけだけど、まさか貴方がラスボス枠じゃないわよね?」
そして姉ちゃんは、声の主を会長と呼んだ。
ってことは、ダンジョンマスターがスーパーグループの会長って、マジだったのか。
【この層はまだ工事中で、ワシしか居らんのだよ……お主らが来たことで、ワシがボスとして登録されてしまっておるな……】
「えー!会長は絶対救出して来いって言われてんだけど!」
え、姉ちゃんそんな無茶な依頼を受けてたの?
というかダンジョンマスターって迷宮から引っ剥がせるの?
【済まぬがそれは無理な相談じゃ。ここに取り込まれた後で、寿命が尽きてしもうてなあ】
そして声の主は、自分が死者であると遠回しながらも断言した。
「……え?会長、もしかしてアンデッド化しちゃってるの?」
【うむ。種族としてはリッチじゃなあ。長年悩まされていた腰痛がなくなったことくらいしか利点がないがのう】
そう述べながら、ついに姿を現したのは。
……垂水のスーパーの男性従業員の制服を着用し、老人用のステッキをついた、干からびかけた、ぼさぼさの白髪に糸目のヒョロヒョロの爺ちゃんだった。
正直な感想を言っていいなら、こんなに威厳のないリッチは初めて見たよオレ!
怒られそうだから言わないけど!
「こら安宿、今失礼な事考えたでしょ」
そして何故か姉ちゃんには速攻でバレて、後頭部をはたかれた。
「リッチってもうちょっと威厳があるもんだと思ってて」
【スーパーの店員に威厳はもとからないのでなあ!】
「店員じゃなくてかいちょーで、一応一番偉い人でしょ、いちおう!」
正直に述べたら何とも言えない返答と、更にそれに対するリケラのツッコミ。
「一応を2回も言う?」
「言いたくならん?」
「なる」
いや、だってさあ?
オレ、ふたつ前の世界で千年ばかりエルダーリッチのクッソ根性悪い奴とバトってたじゃん?
種族的にはエルダーも無印も変わらないはずなんだけど、この爺ちゃん、あまりにも、邪気がねえんですよ!
だというのに。
ホントにリッチなん?と鑑定キメたら、きっちり『エルダーリッチ』って書かれてんの!
イメージが狂いすぎて、どうしたらいいんだこれ。
「普通アンデッド化って、もうちょっと狂暴化とか凶悪化とか生命への怨嗟とか持つもんじゃないんですか」
思わずちょっと言葉が敬語に寄ったのは、自分でも失礼な質問をしている自覚があるからだ。
【気合と根性?】
そして返って来たのは、まさかの精神論だった。マジで?
【いや実際な、ダンジョンコアはそっちの方向性に持っていきたかったらしいんじゃがな。
ワシがダンジョンマスターにされた以上は、どうしても、この迷宮を食材で満たしたかったんでなあ。
死んだくらいで信念は変えられんぞ、と示したかったんじゃ】
そしてその信念を貫くことに成功してしまった、という訳か。
「それにしちゃ後半層の殺意が高かったけど」
リケラが首を傾げる。
確かに50層越えた後のエリアって、普通の探索者だと結構厳しいよなあ。
【最大の要因は、ここが未完成じゃからな。
出来上がらんうちに踏み込まれると、見ての通り予定が狂うからのう。
あとはダンジョンコアの強制力じゃな。奴らは明確な悪意を持って迷宮を仕立てるのじゃから】
爺ちゃんは迷宮の秘密の一つをあっさりと明かす。
つまり、ダンジョンコアが主で、ダンジョンマスターはあくまでも従、なんだな?
「それにしてもアンデッド化するとダンジョンマスターでもボスに設定されるなんてこと、あるのね……完全に前例がないんじゃないこれ?」
【通常層なら良かったんじゃが、よりにもよって中ボス層だったからのう……】
「今気づいたけど、かいちょーエルダーリッチじゃん!!エルダーリッチが中ボスってどんな高難易度迷宮よそれ!」
しょぼくれる爺ちゃんリッチに、リケラが更なるツッコミを入れている。
でも実際ダンジョンマスターの解放が迷宮攻略の最終目的のはずなのに、肝心のダンジョンマスターが地上に放っちゃいけないアンデッドになってる上に、リポップできる中ボスに設定されちゃってんの、どうしろと?
垂水の迷宮の中身、最初に設定したのがこの爺ちゃんの案件です。
戦後の食糧難時代にスーパーマーケット立ち上げようとした偉人なので<気合と根性
あとこの作品はあくまでもコメディ路線なのでガチシリアスは呼ぶ予定が現状ないですねー。




