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第23話 カルダモンとバナナ。

 順調にルートを踏破し、垂水第一迷宮、53層に入る。


「未……羊なぁ。バロメッツは低層にいるんだっけ」

「そう、あれ草か羊かよく判んないけど」

「低木が生えてて、羊がそのまんまぶら下がってるからねえ」


 お、オレの知ってるバロメッツとはちょっと違うな。

 いや、あれも確か芽が出てから最初の一頭が生まれるまではそんな生態だったかも。


 あとで写真を見たら、背は低いけど横幅がまあまあ大きな木にリアルな羊がぶらぶら下がっているという、だいぶ素っ頓狂な見た目だったけど。

 しかもこっちのバロメッツ羊は普通に羊肉が採れるそうな。


「カニカマ味じゃないんだ……」

「カニカマ?なんで?」


 思わず呟いたら女子二人に怪訝な顔をされた。


「そういう世界があったんだよ。あっちのバロメッツ、丸くてかわいかったけど」

 たまに村の皆で食べて、っておすそ分けを貰ってたけど、実際、高級カニカマ味だったんだよな……


「そういえばどこかでバロメッツはカニの味って見たかも?」

「やめてよそういうのー!反映されそう」


 羊は羊として食べたいんだけど!とリケラに言われると確かにそうかも、という気持ちにもなってくる。


 なお現在オレ達がだべくってるのは、ぱっと見、どう進めばいいか判らないからだ。


 一面の、湿地帯というか、湖沼というか。

 大小の平たい、いろんな形の葉に覆われた水面のところどころに白や黄色、はたまた青っぽい色の花が咲いているのはスイレンの類だろうか、いや黄色いあれはコウホネのような気がするな?


「んー?ヒツジグサが混ざってるのは判るけど、あれ食べられたっけ?」

「ヒツジグサは食べられないかもだけど同属とか同科に範囲を広げれば食えるものはあったはず」


 どうやらそろそろネタ切れが近いんだろうか。随分と強引なネタが来そうな雰囲気だぞ?

 いや一つ前のしましまうまも大概だけども!


 オレ達の足元は桟橋のような、木杭を立てた上に板を張り渡した足場なんだが、これが数歩先でもう途切れている。

 水面はスイレン類の葉が各種びっしり埋め尽くしていていて、深さを推し量る手段もない。

 ただ、桟橋足場の構造を見る限り、深さはそれなりにありそうな雰囲気だ。


 うん、普通に攻略させる気ねえなこれ!


「どうやって進もう?」

「魔力の続く限り凍らせる辺りが無難かな」

「足りる?」

「魔力ポーション一応持ってきてる」


 リケラは例の凍結の大魔法で凍らせるつもりのようだ。

 熱帯系のステージっぽいから、それ自体は多分正解なんだと思う。


 問題は広さが判らない事だ。

 幅を決めてまっすぐ撃ち込むとかできるならいいけども……


「少年は凍らせる方は」

氷結クルシェドの範囲があんまり広くないんだよね。ブリザードはものを凍らせる魔法じゃないし」


 オレの使う氷結の魔法は有効範囲が最大で10m程度だ。歩いて進むには全然足りない。

 前の世界の超級氷魔法アブソリュートゼロが使えればな、とも思うけど、あの世界では攻撃魔法の超級適性は流石になかったからなあ。


「じゃあ周囲索敵とか結界とかヨロ!【ショグ・セルトゥユク・シェステラ・サグダ:ゴレイズ・ガナムダナム・スレック】」

「はいはい結界あんど〈結界〉」


 対魔法と対物の二つの結界を張り巡らしてる間に、リケラの詠唱が終わる。

 なんか前回と微妙に単語が違うと思ったら、発動した魔法は前方遥か彼方までまっすぐに、氷の道を作り出していた。


 当然凍結範囲にいた植物モンスターは枯れて、ドロップアイテムが狭い足場に積みあがるので速やかに回収する。


「ヒシとジュンサイ再登場、水蓮菜、オニバスの実、グリーンカルダモン、ルリスイレンの若芽?」

「カルダモン!さっきのクミンといい、いい感じにカレー粉の気配がするわね!」


 なお、完全に先手を打ってしまったので、二重結界は無駄打ちになった。

 まあたまにはそんなこともあるよな!


「ねえ、スイレンサイとルリスイレンの若芽ってどう違うの?」

 リケラが首を傾げている。


「水蓮菜の方はミツガシワ科でルリスイレンは熱帯スイレンの仲間、って鑑定結果」

 正直ミツガシワ科って言われても、さっぱりなんのことやら、なんだけど。


「ああ、水蓮菜はフォルモサ名物ね!ルリスイレンの方はミスルの古典食材よ」

 そして姉ちゃんはエキゾチック食材の知識も一通り持っていた。

 そりゃそうか、姉ちゃんの職場は輸入食材を取り扱う商社だったからなあ。


 凍る一本道を駆け抜ける。

 凍ってしまい温度が極度に低下した凍結路には、植物モンスターたちは殆どちょっかいを掛けてこない。たまにヒシやオニバスの実がすっ飛んでくるくらいだから、これは随時小規模な結界で弾いてしまえばいい。


 そうやってさっさと通り抜けたら、唐突に地面に足が付く。

 そして気付けば魔法陣が足元に展開されて、54層にひとっ飛びだ。


「胡椒、クミン、カルダモンをゲット、ニンニクとショウガとコリアンダーは前からあるし、あとはクローブとナツメグのセットか、オールスパイスとシナモンあたりがあれば取り合えずカレー粉の香りは再現できそう」

「フェヌグリークも欲しいけど……いやあれ温帯で育つな?コロハとか変な名前でドロップしてない?」

「……あるわね?16層に胡廬巴ころは、薬草だと思い込んでたけど」

「そういやあそこ何がどう午なのって話になってなかった?」

「フェヌグリークだと言われれば判るわ、フェヌグリークって名前自体が『グリースの馬草』って意味だったはず」


 なんでも、鑑定しても胡廬巴、としか表示されなかったんだそうだ。バグでもあんのかね?



 さて、到着した54層はというと……


「森林だねえ」

「森林だわね、相変わらず暑いけど」

「高木ばかりだなあ」


 気温はさっきまでと同様に高い。湿度もそれなりだ。

 周囲には背の高い巨大な木々。


 そう、森のど真ん中に放り出された格好だ。

 周囲からは、圧倒的な敵意。


 ……といっても、身の危険を感じるって程じゃないんだけど。

 ただオレが大丈夫だからってレベル3桁の姉ちゃんが大丈夫かどうかは……


 ……垂水だと多分大丈夫なんだろうなあ……モンスターのレベルにマイナス補正付いてるらしいし、ここ……

 姉ちゃんのレベルは、リケラと遊びついでに茂崎迷宮に潜っていたら上がっちゃった、らしいからな。


 ガア!と、やや遠くで獣の吠える声。

 瞬間的に、結界を展開する。結界の表面にガツン!と爪と牙を立てる獣の姿は、豹の仲間、かな?


「模様的にジャガーね?」

「お、あっちで最初に吠えた黒いでかいのが群れのボスかな?」

「えぇ?ジャガーって群れないよね?」


 姉ちゃんに疑問形でこっちを見られたけど、そんな知識ねえっす!

 あ、でもそうか。


「あー、ネコ科で群れるのってライオンくらい?」

「ですよねー!」


 敵の正体が判れば、後は迎撃し殲滅するだけだ。

 綺麗な毛並みだなぁとは思うけど、殺意剥き出しだしな、あちらさん。


 殲滅には、5分も掛からなかった。

 子分ジャガーが15匹、ボス個体っぽいのが2匹だ。


 なおドロップはといえば……


「なんでジャガーがバナナ落とすんだろうね?」

「色の連想?シュガースポットが毛皮の色っぽい」

「それならチーターの方が……ってあれは熱帯は熱帯でも森林にはいないわね」


 申要素はどうやらモンキーバナナらしい。

 それ以外にもグロスミッシェル、キャベンディッシュ、ラカタン、プランテン、フォルモサ、モラードといった、多分品種名っぽい名称区分のされたバナナが山盛りだ。


 さて、次が55層で、中ボスがいるはずだけど……


 ……なんでだろうな、そうじゃない気が、そこはかとなく。

 フォルモサ=台湾、ミスル=エジプト。

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