第18話 垂水第一46層以降の情報。
垂水迷宮は原則親切仕様だという話。
翌日もバスに乗って垂水行きだ。
オレの格好、今日もパーカにトレーナーとカゴパンだから浮いてるなあ。
靴だけは一つ前の世界で愛用してた、頑丈な編み上げの革靴だけど。
これ魔獣素材で、魔力通すと凄く丈夫になるし殆ど損耗しなくなるから、ゲットしてからはずっと愛用してるんだよね。
洗わなくても臭わない加工がされてるし、そもそもあんまり蒸れないし汚れも付きにくい。
「……靴がやけに高性能」
ぼそ、とそこに目を付けたのはリケラだ。
「いっこ前のとこで調達したんだけど、魔獣革で加工技術もやべーやつ」
「うーむ、コピーが欲しいけど流石にコピーじゃサイズが合わない」
「ヒポグリフ革だから狩れればワンチャン?こっちの加工技術が謎だけど」
「とりまここ終わったら茂崎ですね、わかります」
成程、ヒポグリフは茂崎迷宮か。
まあ一個前の世界で放浪中に一回遭遇した時も、言葉こそ話すけど、如何にも根性悪いイキモノだったからなあ、そんなもんかもしれん。
なおその時はいきなりその時乗ってた乗獣を狙われたので、軽く万遍なく全身炙ってやったら、捨て台詞吐いてあっちが逃げてった。
魔法は通らないって聞いたことあったんで、周囲の温度を上げてやったら100℃行かないうちにあっさり音を上げたよね。
「今日は46層から行くよー。茂崎はまだモブが沸いてないそうだからね」
「今日も荷物持ち?」
「戦力に決まってんでしょ。一応開通報告はしたから斥候は走ってくれてると思うけど」
垂水迷宮は開通、つまりボスの撃破があると、撃破されたボスのリポップまで限定で、隠密駆け抜けで次層への潜入が可能になるんだそうだ。
それで新規開通部分の調査だけして戻ってくる、斥候専任の探索者がいるんだという。
昨日姉ちゃんがクリア後すぐに帰ったのは、その斥候さんに事前情報を調査してもらうためだったんだ。
そういうところも妙に親切だよなぁ、垂水の迷宮。
「ようアズ、情報、49層まで」
「一晩で?流石上総さん、上出来ね!」
事務所に到着したら早速斥候さんだという、見るからに存在感の薄い、見た目四十代後半くらいのスリムな、ここではやや場違い感のあるスーツ姿のおじさんに声を掛けられた。
存在感自体は薄いんだけど、迷宮事務所でこのスタイルはクッソ目立つよね……
とはいえ周囲はそちらには無反応だ。多分見慣れてる?
姉ちゃんは土田さんの時とは違って、相手をきちんと姓で呼ぶ。
それにしてもかなりの手練れだなこのおじさん?立ち姿に微塵の隙もないや。
「46は全て茸だ。前例を見るに状態異常持ちのはずだが、君らには関係ないな。
47に牛がいた、角と色合いを見るに和牛系。それ以外だと蒜系統が地面に埋まっている。第四にもいる野蒜と大蒜と韮の混群の可能性が高い。
48は果物類のようだ。獲物が視認できなかったから果樹園背景から突撃かもしれんな。
49では鳥類の姿を多く見かけた。ヒヨドリって旨いのかねえ?ここも果樹園だ。
50層は熱帯雨林だった。ジャングルって奴だな。足を踏み入れた瞬間に蔓植物に巻かれかけて逃げてきたんで、ここだけはそれ以外の情報がない、すまない」
迷宮の情報は買い取り式ではなく、その場で公開されるものらしい。
報酬は迷宮管理組合から出る、というか斥候さんは管理組合の職員だそうだ。
姉ちゃんとリケラの能力もある程度は知ってる様子なのは、それでかな?
「ヒヨドリは果実食だから、果樹園にいる個体なら確定で旨いだろうなあ」
実は一つ前の世界にもヒヨドリはいて、ゴブリンの村から時々果樹園を荒らす奴の駆除依頼があったんで味も知ってる。その世界では、野鳥にしては柔らかめで旨かった。
世界が別である以上、同種とは限らんのだけどね。
あと繫殖期になると親子で虫食うから味が変わるって話もあるな。害虫を食べてくれる繁殖期には獲っちゃだめだったし、迷宮内でそんな繁殖の仕方はしないだろうからどうでもいいけど。
「植物以外もいるんだな」
「いる階層が少ないだけで、スーパーで売ってる魔の付く食材はほぼすべてこの迷宮産よ。
魔猪より階層の深い、和牛ならぬ魔牛かぁ……美味しそうねえ」
この垂水の迷宮は、第一から第五まで存在し、第二から第五までは根本が同じ、いわゆる子迷宮で総階層が浅いめだったこともあり全て踏破済み、かつ食料供給のために管理化されている。
なので、モンスター類の傾向は第二以降に出る同種で、ある程度推測が可能なんだそうだ。
「それより姉ちゃん、50が熱帯雨林ってことは」
「そうね、スパイス類、ワンチャンあるわね?!」
「ついにか!カレー粉自作してみたいんだよなあ!」
「それだがな、最初の蔓、一体だけ毟ったらクリティカルしたんで持ち帰れたんだが、バニラだったぞ」
「獰猛なバニラかあ、でもお菓子が美味しくなるのはアリだわ!」
情報提供してくれた斥候の上総さん、やっぱりかなりの手練れっぽい。
なんでも最初の情報提供のための潜入の後は、管理組合総出で次のボス層手前まで巻き狩りで攻略して、産物の仕入れルートを確保するんだそうだ。
なので管理組合はレイド特化の高レベル者の集まりでもあるらしい。
なお何故すべての迷宮で巻き狩りをやらないのかといえば、主に原因は補給だったりする。
そもそも、この手段が使えるのは人類に優しめの垂水迷宮くらいだとも。
その垂水ですら、食品は敵を倒せば出るけど、飲める水が一切出ないらしいんだよね。
オレは魔法で水を出せるけど、この〈湧水〉系の魔法、この世界だとかなりのレアなのかね?
一つ前の世界だと生活魔法扱いだったのになあ。ところ変わればだ。
と思ってたら、それ系の魔法のある人は水道局が優先的に人員を持っていくのだという。
世界が変わった結果、水道水の供給にも難が出ている、らしい。
具体的には消毒用の設備がちゃんと動かないから、無菌の魔法生成水を流してる、らしいんだけども……
思ったよりヤバい事になってるなこの世界?インフラの一部が完全に個人の魔法依存なのか。
あとでリケラと〈湧水〉の仕様、研究してもいいかもしれない。
魔法陣化できれば、水問題だいぶ解決できそうじゃね?
「水魔法かぁ。魔法陣化はできないの?」
「してもなお足りないのが現状。いっそ水道システム切って個別の水魔法陣で各戸給水の方がいいんじゃないかって話になってきてるね」
あ、やっぱりそういう方向にいくんだ。
「前いたとこ、そこら辺のノウハウあったから、後でちょっと情報提供するね」
「ほんと?助かる!こっち側の人、大体大規模システムありきだから難しくてねえその辺!」
「電気と水道はここまで構築するまでの積み重ねがあるから、そう簡単には捨てられない、って事みたいね」
確かに、化石燃料が入ってこないから魔力式に切り替える、のとはイメージがちょっと違うもんな。
もっとも、電気の方も化石燃料の発電所はもう休止してしまっていて、今電気を賄うのは魔法によるタービン回しと水力と原子力系、具体的には核融合炉らしい。
……実用化されてたん?核融合……
確かに街灯とかパソコンとか普通に電気で動いてたから不思議に思ってはいたけど!
魔力で制御することで実用化したっていう。<核融合炉
水道がやばめなのは多分殺菌用塩素供給に問題が出てる奴。




