第17話 泊りがけの準備をする。
今日はこのまま買い物して、茂崎の家に帰宅予定だ。
垂水は茂崎よりちょっとだけ都会なので、お店が多いのだよ!
これは世界が変わっても変わらないらしい。
というか茂崎迷宮が割と難易度ヤバめなうえにお漏らしするタイプなんで、茂崎側がちょっと過疎ってるらしい。
そういや最初にリケラの家に行ったときに、元の住民が避難して居ないって聞いたっけ。
人口自体は攻略ガチ勢のエルディム人が移入したのでそこまで減ってないそうだけど。
「さて、収入も予想よりがっつり入ったし!ちょっとお買い物でお金落としていこっかあ!」
「稼いでため込むだけって今の社会だと嫌われがちなのがねー」
女子二人はそんな社会風潮の話をオレに説明しながらも全力で顔がにやけている。
何か欲しいものがある奴だなコレ!
「もうちょっとコメ系の備蓄が欲しいなぁ」
「んじゃ帰りは最後にスーパーでコメ買ってうちで炊いて詰めよう!」
「あ、それいいな。かやくごはんとかもあると嬉しい」
「おにぎりもいっぱい作ろうねっ!」
リケラは本当におにぎりが好きなんだな……
実際携帯性が程よく、温かくなくてもいいし片手で食えるおにぎりは、迷宮内でも気軽に食べられる事から、迷宮探索者の間では人気アイテムであるらしい。
次点はサンドイッチだけど、おにぎりの方が腹持ちがいいとかでね。
こういう点でも、時間が停止しているタイプの収納魔法は便利この上ないな。
姉ちゃんのアイテムポーチは容量も性能も最高級品らしいけど、それでも時間経過が緩いだけだというし、容量の制限が結構厳しいらしい。
オレは稼働中のアイテムに仕込まれてる魔法陣の文字も読めるけど、書けないからなあ。
魔法陣の改良は、流石に書けないとかなり難しいんだ。
異世界転移の魔法は、あの世界の魔法陣の展開が自動生成だったうえに、優秀な協力者があったからこそ完成出来た奴だからなあ。
「……魔法陣をCADソフトとかで出力ってできるのかな」
「量産品の下書きはCAD出力が主流ね。製品は魔力を込めないといけないから手作業か魔法によるコピーしかできないけど。精度は職人手書き>>アルバイトの手書き量産品>魔法コピー」
ふと思いついたことを呟いたら、リケラから即答された。
そんな仕様なんだなあ。というか今のパソコン、魔法文字自体は出力可能なのか……
いや、元から外国の、文字同士が単語単位でくっついて繋がるような文字にも対応はしてたんだから、できなくはない、か。
「つまり地球の機械……パソコンなんかには魔力が載らない?」
「載らない。通信でなぜか多少の魔力消費は発生してるんだけど……」
さては、思ったより世界構造の根幹がおかしなことになってるな?
……いや、世界樹さんが地球そのものと同化しちゃってる、らしいから……
通信が可能なのは世界樹さん側のサービスで、だから通信にだけ魔力が絡む?ありそうだ。
女子二人の買い物でも、オレは当然のように荷物持ちだ。
まあ収納に納めるだけなんで、見た目はそこまで妙じゃない。
……いや、これ見よがしにいくつか手に提げてる方が荷物持ちらしくなるか?
なんてことも思ったけど、周囲を見ると、荷物持ち状態の人なんて、まず見ない。
「鞄持ってる人は多いけど、紙袋とか提げてるヒトは見ないね」
「ちょっとした日頃の買い物くらいの容量のアイテムバッグは普及してるからねえ。
当然時間経過はあるから中身の生ものを出し忘れて大惨事、とかたまに聞くけど」
ああ、そっか。住民カードに空間属性を張り付けるなんて芸当ができるんだもんな、今のこの世界の魔法って。
アイテムバッグは完全に普及品かあ。盗難対策とか大変そう。
「盗難対策もあんまり意味ないんじゃないそれって」
「アイテムバッグの機能を維持できる程度の魔力があれば、そもそも盗むなんて必要ないかんねえ?」
有用なスキルがなくても魔力があれば、どんな田舎にでも魔力装置をチャージするバイトがあるから、貧困問題は随分とマシになったという事らしい。
それに今の日本のお店に並ぶ商品は、大半が魔法でコピーされたものだ。
原盤にしたところで、それ自体にはオリジナルである事、以外の価値はないし、いち個人がオリジナルを抱え込んでも何にもならない、というのが現代の基本倫理観であるらしい。
エルディム世界でも、今の人類社会でも、魔力を持たない人も一定数はいるらしい。
ただ、そういう人はそういう人で、それを生かせる仕事があるんだそうだ。
「魔力が強い人だとPCが誤動作起こすことがあるのよねえ」
「だもんで経理とかPC使う系の仕事は魔力なしの人が独占してるっつーワケ。この点においてはエルディム側が全力で恩恵を受けてるねー」
「言葉は?」
「翻訳魔法があるから無問題」
そういえば、役場やコンビニ、バス停の表示が複数言語で書いてあったなあ。
確認したら、日本語とエルディミアンヒューマン普通語、それとエルディミアンエルフ語だそうだ。
「ドワーフとかいないの」
「いるけど、彼らは元の世界の段階で独自言語を早々に放棄してヒューマン普通語喋ってるし、日本語も速攻で覚えたね」
「こないだ流暢な関西弁喋ってるドワーフさんいたわよ」
「あいつら新しいもの好きだからね。我々は精霊魔法の都合があるからエルフ語を捨てるわけにはいかないけど」
そんな風に語るリケラも、普段の言葉は翻訳を介さないきれいな日本語だ。
まあオフの時には気持ち程度とはいえ、ギャル語寄りになるんだけども。
「……翻訳魔法があるのに三言語表記……?」
「文字には非対応なのよ……研究はしてるんだけどねえ」
なんとまあ、翻訳魔法が文字には効かないタイプ、2か所目だ!
「直前までいた世界もそれだったなあ。意外と多いんだな」
オレが最初に貰った奴は文字も完全対応だからなあ。二番目の世界も同様の説明は受けたはずだ。最初の奴があったんで上書きとかはされなかったんで詳細は不明だけど。
「技術的限界なのかしら」
「そうじゃないのもあるからな。現にオレが最初に貰った奴は読めるし」
「情報提供お金出すゥ!」
「はいはい、落ち着いたらね」
今度も勢い込むリケラの言葉を気安く請け負って、自分たちの買い物(宝飾品とか結構高級な衣料品とかまで買っていたけどいつ着るんだろう?)で満足した女子勢と、オレの食欲と米への愛着を満たすためのスーパーに立ち寄って、バスで家に帰る。
「明日は臨時特売がありますよー。根菜類大放出ですー!」
スーパーの店員さんが帰りしなにそんな宣伝をしていた。
「もう出るんだ」
「まああの量だとある程度即放出しないと倉庫がやばいよね」
「道中ほぼずっと何か倒してたもんね」
根菜ってことはだいたいオレらがさっき放出した人参大根ジャガイモ蓮根だろうしなあ。
キャベツもあったけど、根菜類に比べたら分量は普通だと思う。
あれだけ妙に落ちる品種が多かったから、分けたら一種類当たりの量は普通の範囲、のはず。
流石に縮緬キャベツとグリーンボールを同じ枠では売らないだろう。
それにしても、迷宮泊りがけの準備がコメ炊いておにぎりとタッパーごはんの量産って、ユルいなぁオレら?
そういやユルいといえば、初日のっけからビキニアーマーだった理由ってなんだろうな?聞き損ねてら。
夜間は武装しないと外出禁止だからです……
あと流石にアイテムバッグ対応の防犯対策も普通に存在してる。




