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安馬しか買えない弱小馬主の俺、スキル《相馬眼》で“勝てる場所”を見抜く  作者: ペンは休み休みもて(ペンもて)
第四章 東京湾牝馬賞

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第36話 走らせない勇気

 放牧。


 その二文字は、競馬を知らない人間が聞けば、のんびりした響きに聞こえるかもしれない。


 広い牧場。


 青い草。


 風。


 馬が気ままに歩いている風景。


 けれど、重賞を勝ったばかりの馬を放牧に出すと決める時、その言葉はまるで別の重さを持つ。


「本当に出すんですか?」


 厩舎の事務所で、俺は黒川桐子にそう聞いた。


 聞いた瞬間、自分でも情けないと思った。


 昨日、休ませると決めたはずだ。


 馬の疲労を見た。


 浅倉蓮騎手の言葉も聞いた。


 前の所有者の言葉も胸に残っている。


 それでも、いざ「放牧先候補」と書かれた資料を目の前にすると、心のどこかが揺れた。


 黒川先生は、机の上に並べた書類から顔を上げる。


「三上さんが嫌なら出さないわよ」


「嫌というわけじゃ」


「じゃあ、何?」


「……怖いです」


 正直に言うと、黒川先生は少しだけ目を細めた。


「何が?」


「このタイミングで休ませたら、周囲の熱が冷めるんじゃないかって」


 口にしてしまうと、ひどく人間の都合だった。


 ハルサメノツキが東京湾牝馬賞を勝った。


 二十万円の牝馬が重賞馬になった。


 記事になり、掲示板で騒がれ、売却の打診まで来た。


 今、ハルサメノツキの名前は、確かに競馬場の外まで届き始めている。


 その熱があるうちに次へ行きたい。


 もっと大きな舞台を見たい。


 そう思う自分がいる。


「正直でよろしい」


 黒川先生は、責めなかった。


 ただ、淡々と言った。


「でも、その熱は誰のもの?」


 俺は答えられなかった。


「記者? 馬券勢? 馬主? それとも、あなた?」


「……俺も入ってます」


「でしょうね」


 黒川先生は、資料の一枚を俺の前へ滑らせた。


 そこには、ハルサメノツキの調教後のメモが並んでいる。


 食欲。


 歩様。


 馬体重。


 脚元。


 毛ヅヤ。


 精神面。


 大きな異常はない。


 だが、「芯の疲れあり」という文字が赤で囲まれていた。


「ハルサメノツキの熱は、今ここにある」


 黒川先生は、その赤い文字を指で叩いた。


「世間の熱じゃない。馬体の中に残ってる熱。こっちを先に取らないと、次なんてない」


 言い返せなかった。


 勝ったからこそ、休ませる。


 頭では分かっている。


 だが、馬主としての自分は、まだそれを自然に選べるほど強くない。


「弱いですね、俺」


「普通よ」


 黒川先生は即答した。


「勝ったばかりの馬を休ませるのは、難しい。負けた馬を立て直すより、ある意味難しいわ」


「負けた馬より?」


「負けた馬は、周囲も待ってくれる。立て直しましょう、条件を変えましょう、次に向けて、って。でも勝った馬は違う。人間が勝手に階段を用意する」


 先生の声が、少し硬くなる。


「次はもっと上へ。次はもっと強い相手へ。次はもっと大きな賞金へ。みんな簡単に言う。馬がその階段を上れる状態かなんて、見もしないで」


 その言葉で、俺は鳳条怜央の声を思い出した。


 選択を見られる側になった。


 確かにそうだ。


 だが、見られているからといって、見せるために走らせるわけにはいかない。


 俺は、資料に視線を落とした。


「放牧先は、どこが候補ですか」


 黒川先生は少しだけ表情を緩めた。


「近郊の外厩を二つ。ひとつは設備がいい。坂路もあるし、ウォーキングマシンも充実してる。重賞馬も何頭か預かってる」


「良さそうですね」


「良いわよ。高いけど」


「……ですよね」


「もうひとつは、規模は小さいけど、牝馬の扱いが丁寧。環境が静かで、馬を急かさない。ハルサメにはこっちの方が合うかもしれない」


 資料には、簡単な比較表があった。


 設備。


 費用。


 移動時間。


 スタッフ数。


 調教再開までの柔軟性。


 過去に預かった馬の傾向。


 どれも、俺が馬を買ったばかりの頃なら、見ても意味が分からなかった項目だ。


 今は少しだけ分かる。


 少しだけ分かるから、逆に怖い。


「先生は、どちらがいいと思いますか」


「馬だけ見るなら、小さい方」


「理由は?」


「この子は、派手な設備でガンガン鍛える段階じゃない。今必要なのは、体を戻すことと、気持ちを緩めること。大きい外厩は悪くないけど、次へ向かう空気が強すぎる」


「次へ向かう空気」


「便利な言葉で言えば、前向き。でも馬によっては、それが圧になる」


 黒川先生は、ハルサメノツキの馬房の方を見る。


「あの子は、求められたら応えてしまう。だから、求めすぎない場所がいい」


 その一言で、俺の中の迷いが少し薄れた。


 ハルサメノツキは、走らない馬ではない。


 走れてしまう馬だ。


 だからこそ、走らせない場所がいる。


「小さい方でお願いします」


「即決?」


「はい」


「費用は安くないわよ」


「重賞を勝った馬を壊すよりは安いです」


 黒川先生は、ほんの少しだけ笑った。


「言うようになったわね」


「先生に鍛えられてますから」


「まだまだよ」


 その時、事務所の扉が軽く叩かれた。


「失礼します」


 入ってきたのは、荒尾迅騎手だった。


 サビツキノエンジンの鞍上。


 逃げ馬の呼吸を分かっている騎手。


 彼は帽子を取って軽く頭を下げた。


「エンジンの様子を見に来たんですが、取り込み中でしたか」


「大丈夫よ。今ちょうど、休ませる話をしてたところ」


「ハルサメノツキですか」


 荒尾騎手の表情が少し真面目になる。


「いい判断だと思います」


 意外なほど、即答だった。


「そう思いますか」


 俺が聞くと、荒尾騎手は頷いた。


「勝った馬って、見てる側が勝手に強くなったと思うんです。でも実際は、勝った分だけ馬が使ってる。特にああいう最後まで伸びた馬は」


 荒尾騎手は、少し肩をすくめた。


「逃げ馬なら、まだ分かりやすいんです。行って、粘って、息が上がる。サビツキノエンジンなんか、ハナを切った後の消耗が顔に出る。でも差してくる馬は、綺麗に見えすぎる時がある」


「綺麗に見えすぎる?」


「はい。外から伸びて、ゴール前で差し切る。見てる人間は“まだ伸びる”って思う。でも乗ってる側からすれば、“よくここまで応えてくれた”って時がある」


 浅倉騎手と同じことを、荒尾騎手も別の言葉で言った。


 騎手たちは、馬の背中で見ている。


 俺が地上から見た景色とは違うものを。


「エンジンはどうですか」


 俺が聞くと、荒尾騎手は少し笑った。


「元気ですね。元気すぎます」


「次も乗ってもらえますか」


「もちろんです。ただ、黒川先生にも言いましたけど、あの馬も間隔は見た方がいいです。逃げ切った後の馬は、気持ちが入りすぎてることがありますから」


 黒川先生が頷く。


「そこは私も同意。あの子は走る気が戻ったからこそ、雑に使いたくない」


「エンジンも休ませるんですか」


「完全休養じゃないけど、急がない。次に逃げられなくなる方が怖い」


 サビツキノエンジン。


 逃げて、初めて錆びが取れた馬。


 その馬にも、次を急がない判断が必要になる。


 勝った馬は、走らせてはいけない時がある。


 その言葉が、二頭に重なった。


 荒尾騎手は、ふと俺を見た。


「三上オーナー、変なこと言っていいですか」


「はい」


「勝った後に休ませる馬主って、現場から見ると信用できます」


 思わぬ言葉だった。


「そうなんですか」


「はい。勝った後に“次はどこだ、もっと上だ”ってなる人は多いです。もちろん、それが悪いわけじゃない。でも、馬を見て一回止まれる人は少ない」


 荒尾騎手は、事務所の窓から馬房の方を見る。


「馬は勝ったことを説明できません。でも、疲れたことも説明できない。だから、人間が代わりに止まってやらないと」


 黒川先生が、わずかに目を細めた。


「荒尾、今日はまともね」


「いつもまともです」


「エンジンに乗ってる時以外はね」


「それ、褒めてます?」


「半分くらい」


 少し笑いが起きて、事務所の空気が軽くなった。


 昼過ぎ。


 放牧先へ連絡が入った。


 受け入れは可能。


 移動は数日後。


 まずは疲労回復を優先し、軽い運動と馬体の戻りを見る。


 調教再開は状態次第。


 黒川先生が電話を切ると、俺に確認するように言った。


「決まりね」


「はい」


「後悔する?」


「するかもしれません」


「正直ね」


「でも、走らせて後悔するよりはいいです」


 黒川先生は、静かに頷いた。


「その感覚は、大事にして」


 その日の午後、厩舎にはまた記者が来た。


 昨日より人数は少ない。


 ただ、聞く内容はほとんど同じだった。


 次走は。


 中央挑戦は。


 交流重賞は。


 売却話は。


 黒川先生は、いつも通り短く答えた。


「馬の状態を最優先に考えます」


「次走は未定です」


「まずは疲労回復を優先します」


 しかし、一人の記者が踏み込んだ。


「放牧に出すという話もありますが、事実ですか?」


 俺は、少しだけ息を止めた。


 もう伝わっている。


 競馬場の情報は早い。


 黒川先生は表情を変えなかった。


「選択肢のひとつです」


「重賞を勝った直後に休ませるのは、かなり慎重な判断ですね」


「慎重で悪いことはないでしょう」


「次走を期待するファンも多いと思いますが」


 その瞬間、黒川先生の目が少しだけ冷えた。


「ファンの期待に応えるためにも、馬を壊さないことが一番です」


 記者が黙った。


 俺は心の中で拍手した。


 さすがに表には出さなかった。


 記者対応が終わると、黒川先生は疲れたように肩を回した。


「面倒ね」


「すみません」


「あなたが謝ることじゃない。勝った馬にはついて回るものよ」


 そこへ、見慣れた黒い車が厩舎前の道に止まった。


 鳳条怜央。


 昨日に続いて、また現れた。


 黒川先生が眉を寄せる。


「本当に見に来るわね、あの人」


「暇なんですかね」


「そんなわけないでしょ」


 鳳条は、門の前で立ち止まり、こちらへ会釈した。


 無理に入ってこようとはしない。


 黒川先生が応対に出ると、鳳条は静かに言った。


「放牧に出すと聞きました」


「噂が早いですね」


「競馬場では、正しい噂も間違った噂も同じ速度で走ります」


「今回は、まだ決定事項として外に出した覚えはありませんが」


「失礼。確認に来たわけではありません」


 鳳条の視線が、ハルサメノツキの馬房へ向いた。


「感心しただけです」


 俺は思わず聞き返した。


「感心?」


「重賞を勝った直後に休ませる。言葉にすれば普通です。ですが、実際にやるのは簡単ではない」


 鳳条は、俺を見る。


「あなたは、もっと欲を出すかと思っていました」


「出してますよ」


「そうですか」


「だから、止められてます」


 鳳条が少しだけ笑った。


「良い調教師を持ちましたね」


「はい」


 そこは、素直に頷けた。


 鳳条は続ける。


「ロードグランシャリオなら、王道を進ませます。状態が許す限り、予定された階段を上る。それがあの馬の価値を最も高める」


 黒川先生は黙って聞いている。


「ですが、ハルサメノツキは違う。あの馬は、階段を急がせるより、雨が降る場所を選ぶべき馬に見える」


 以前、前所有者が似たようなことを言っていた。


 降るべき場所で降れば、景色を変える。


 鳳条がそれを知るはずはない。


 それでも、馬を見ている人間の言葉は、どこかで重なるのかもしれない。


「鳳条さんは、ハルサメノツキをどう見ているんですか」


 俺が聞くと、黒川先生が横目でこちらを見た。


 また余計なことを聞いた、という顔だった。


 だが鳳条は、嫌な顔をしなかった。


「厄介な馬です」


「厄介?」


「人気を背負うと難しい。だが、軽く見ると届く。前で潰しに行けば、こちらも脚を使う。放っておけば、外から差してくる。派手な決め手ではないのに、最後に帳尻を合わせる」


 鳳条は、少しだけ口元を緩めた。


「馬主としては、相手にしたくないタイプです」


 褒め言葉だった。


 たぶん。


「ただし」


 鳳条の声が、少しだけ変わる。


「次に使う場所を間違えれば、普通の馬に戻る」


 その言葉に、空気が締まった。


「重賞を勝ったことで、馬そのものが変わったわけではない。合う条件で走ったから、重賞馬になった。そこを履き違えると、周囲の評価も一瞬で変わります」


 耳が痛い。


 だが、正しい。


 ハルサメノツキは魔法の馬ではない。


 どんな条件でも勝てるわけではない。


 合う場所で、合う乗り方で、合う状態だったから走れた。


 それを忘れた瞬間、俺はこの馬を見失う。


「覚えておきます」


 俺が言うと、鳳条は頷いた。


「次の一手、急がないことも含めて見ています」


 鳳条は去っていった。


 黒川先生が、深く息を吐く。


「敵なのか味方なのか分からない人ね」


「少なくとも、楽な相手じゃないですね」


「そこは間違いないわ」


 夕方。


 放牧に向けて、ハルサメノツキの荷物が少しずつ整理され始めた。


 いつも使っている無口。


 馬着。


 飼い葉のメモ。


 脚元の注意点。


 性格。


 触られるのを嫌がる場所。


 輸送時の注意。


 細かい情報が、書類にまとめられていく。


 それを見ていると、妙な寂しさがあった。


 ほんの少し厩舎を離れるだけだ。


 それでも、馬房が空くのだと思うと、胸の奥が落ち着かなかった。


「寂しい?」


 黒川先生に聞かれた。


「少し」


「馬主っぽくなってきたわね」


「前は違ったんですか」


「前は、馬を見つけた人って感じだった」


 先生は、書類にペンを走らせながら言った。


「今は、馬を待つ人になりつつある」


 馬を待つ人。


 その言葉が、妙に残った。


 勝たせるだけではない。


 走らせるだけでもない。


 休ませて、戻ってくるのを待つ。


 その時間も、馬主の仕事なのかもしれない。


 夜。


 厩舎の灯りが少しずつ落とされる。


 ハルサメノツキは、静かに立っていた。


 サビツキノエンジンは、奥でまだ何か不満げに鼻を鳴らしている。


 俺はハルサメノツキの馬房の前に立った。


「少しだけ、離れるぞ」


 馬は、耳を動かした。


「戻ってきたら、また考えよう。どこが一番合うのか」


 言葉が通じているとは思わない。


 でも、言わずにはいられなかった。


「お前が走れる場所を、ちゃんと探すから」


 ハルサメノツキは、ゆっくりと鼻を伸ばした。


 柵越しに、俺の手の近くで止まる。


 触れたわけではない。


 でも、近かった。


 それだけで十分だった。


 事務所へ戻ると、黒川先生が一枚の紙を渡してきた。


「明日の朝、最終確認。その後、輸送」


「はい」


「それと、もうひとつ」


 先生の声が、少しだけ硬くなった。


「ハルサメが放牧に出ている間、厩舎もあなたも暇になるわけじゃない」


「サビツキノエンジンですか」


「それもある。でも、もう一つ」


 先生は、別の封筒を机に置いた。


 差出人には、聞いたことのあるセール会社の名前が印刷されている。


「何ですか、これ」


「繁殖馬セールの案内よ。馬主登録してるところには、こういう資料も回ってくる」


「繁殖馬……」


 俺は封筒を見た。


 競走馬のセールとは、違う響きだった。


 まだ走っていない馬を買うのでもない。


 今走っている馬を買うのでもない。


 次の世代を産む馬。


 つまり、まだ生まれていない馬の未来を買う世界。


「俺、牧場持ってませんけど」


 そう言うと、黒川先生は当然のように頷いた。


「持ってなくても、繁殖牝馬は持てるわ」


「え?」


「生産牧場に預ける形ね。預託繁殖って言うの。馬主が繁殖牝馬を持って、実際の飼養や種付け、出産の管理は牧場にお願いする」


 俺は、思わず封筒を持つ手に力を入れた。


「牧場を持ってない馬主でも、馬産に関われるんですか」


「関われるわよ。ただし、簡単な話じゃない」


 黒川先生の声が、急に現実的になる。


「種付け料。預託料。獣医費用。受胎しないリスク。出産のリスク。産まれた仔を売るのか、自分で持つのか。育成費もかかる。競走馬を一頭買うのとは、また別の覚悟がいる」


 知らない単語が、次々に並ぶ。


 でも、不思議と目を逸らせなかった。


 ハルサメノツキを休ませると決めた日に、今度はまだ生まれていない馬の話が目の前に置かれている。


 競馬は、レースで終わらない。


 勝った馬の向こう側に、次の馬の影がある。


「これも、重賞を勝ったから来たんですか」


「案内自体は珍しいものじゃない。馬主なら目にする機会はある」


 黒川先生は封筒を指先で叩いた。


「でも、昨日までのあなたなら、ただの資料だったでしょうね」


「今は違うと?」


「重賞を勝った。売却の打診が来た。ハルサメノツキには牝馬としての価値もついた。サビツキノエンジンも、自分の条件で勝った。あなたはもう、馬を買って走らせるだけの人間ではいられなくなってきている」


 その言葉に、胸の奥がざわついた。


 馬を買う。


 条件を選ぶ。


 走らせる。


 勝たせる。


 そこまでは、今までの物語だった。


 でも、馬産は違う。


 まだ形のない可能性を、血統や体質や相性から考える世界。


 俺の中にあるものが、かすかに疼いた。


 距離。


 馬場。


 脚質。


 成長時期。


 そして、血統。


 見てはいけないものを覗き込むような感覚があった。


「見るだけなら、いいんですよね」


 俺が言うと、黒川先生はじっとこちらを見た。


「見るだけならね」


「……何ですか、その顔」


「三上さん」


「はい」


「あなた、見るだけで済む顔をしてないわ」


 封筒は、机の上に置かれている。


 開ければ、そこには繁殖牝馬の名前が並んでいるのだろう。


 父。


 母。


 競走成績。


 受胎状況。


 予定種牡馬。


 価格。


 知らない世界への入口。


 ハルサメノツキを走らせないと決めた夜。


 俺の前には、まだ生まれていない馬たちの影が、静かに差し出されていた。

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