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6

アカトの民が暮らす村はここから北の方角にある、グラスティアとエルライアの間に横たわる山脈にあるという。

森を抜け、どこまでも続く草原をアルトの先導で進む。日は高く上り、時折吹き抜ける風が心地良い。


「村までどれくらいで着くんだ?」

「ここからならそう遠くはありませんよ。グラスティアとウルアスの国境である川を渡れば1日で着きます」


やがて俺たちが川に着いた頃には日が沈みかけていた。近くに村や町はなかったので、その場で野宿をし、翌日再び歩きはじめるとすぐに川にたどり着いた。

この川は国境でもあるため、本来ならば関所を通らなければならないのだが、そこに行くと遠回りになり、また、アカトの子を連れていると面倒なことになりかねないとアルトの提案で「川渡し」と呼ばれる者たちの協力を仰ぐことにした。

彼らはその名の通り金を渡せば船で対岸へ連れて行ってくれる者たちの事だ。

川渡したちに支払う額は大きく、懐が痛いがこの際仕方ない。こうして俺たちはグラスティアへと入ったのであった。




食料を買うために、一旦川から一番近い街へと向かった。アカトの民の村があるという山のふもとにある街だ。


「買い出しは私が行ってきます。ガレアスはリミィを見ていてあげてください」


そう言うアルトに買い物を任せ、俺たちは路地裏で彼を待っていた。

この街は国境付近ということもあって、そこそこの賑わいを見せいていた。故に少し耳を傾ければ様々なうわさが聞こえてくる。


「なんでもウルアスの姫さんが原始の呪いにかかったらしい」

「あの治せないっていう病か」

「そうだ。それで父である国王が娘の呪いを治すことができた者には褒美をやるって、躍起になっているらしい……」


路地の近くにいる男たちの会話をそこまで聞いた時、突然めまいが襲ってきた。堪らず地面に膝をつく。同時に咳き込む。


「おじちゃん、大丈夫?」


少女が心配そうな瞳で見つめる。


「ああ、だい、じょうぶだ」


何とか応えるが、咳は治まらない。しばらく咳は続き、赤黒くどろっとしたものを吐き出した後、治まっていった。

自分が何らかの病に侵されていることは知っていた。しかしまさか、ここまで悪化していたとは。


「大丈夫ですか?」


頭上からアルトの声がした。買い出しから戻ってきたようだ。


「少し、体調が悪くてな」

「それでしたら、今日はここで休みますか?医者にも診てもらいましょう」


心配してくれているのはありがたい。が、俺はそれを断った。


「医者に診てもらう金もないし、リミィを早く家に帰してやりたいからな」

「そう、ですか」


なおも心配そうなアルトとリミィの背中を押すように、俺たちは街を出た。




山のふもとは森。そこを少し登ると、ごつごつとした岩が目立つようになっていった。

素人が登ればすぐに遭難してしまうだろう。しかしアルトは迷うそぶりも見せずに進んでいく。やがて日が沈むころにアルトが言った。


「さあ、この先ですよ」


一見今までの景色と変わらず、しかしそこは確かに存在していた。背丈の倍はありそうなひときわ大きな岩をよけると、突如森が現れたように見えた。この森の中に村があるという。


「わたし、ここからなら道わかるよ!」


リミィはアルトと並び先を歩きはじめた。

しばらくすると、暗くなり始めた森に光が見えた。「おうちだ!」と駆け出したリミィの後を追うと、光の数は増えていき、村であることが分かった。明かりは大樹から漏れていた。彼らは樹の中に暮らしているようだ。

村の広場らしきところで数人が作業をしている。そのうちの一人の女性めがけてリミィは「ママ!」と言いながら駆けて行った。すると女性ははじめに驚いたように目を見張り、次に嬉しそうに「リミィ!」と言いながら彼女を抱き上げた。


「心配したのよ。どこに行っていたの?みんなで探したんだから」

「あのね、あの人たちが連れてきてくれたの」


そう言いながらリミィは俺たちを指さす。そこで初めて俺たちに気が付いたリミィの母親は、再び驚いたように目を見開いた。


「レムロワだわ……」


ぽつりと彼女が発した言葉に、周りで作業していた人々の手が止まり、こちらに視線が集まる。


「本当だ、レムロワだ」

「レムロワがこの村に……」


呟きは次第に大きくなり、広場にはいつの間にか人が集まってきていた。


「レムロワってなんだ?」


集まりつつある人々を眺めながら、俺はアルトに問う。


「レムロワとは初めに楽園を出た、力を持たない人々……つまりアカトの民以外の人の事ですよ」


こうしている間にも人は増え続け、俺とアルトはすっかりアカトの民たちに囲まれていた。



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