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「楽園とは、私たちの祖先が暮らしていた土地。神によって、生命が創られた地だとも言われています。人々は長いことそこで暮らしていましたが、やがて人は増え、多くの食料が必要になりました。しかし土地は枯れ、作物が育たなくなったため、人々はこの扉を通じ、楽園の外に行くようになりました。そしてこの大陸にたどり着いた人々は、ウルアス、グラスティア、エルライアの順で建国したのです」
そこまで聞いて、俺はアルトの話を遮る。
「ちょっと待て。この大陸を創造したのはジャヌアス神ではないのか?」
ジャヌアスとは、この大陸に伝わる神話に登場する創造神である。他にも戦を司るタルヴィアや豊穣の神ヘクティスがいる。
「ジャヌアス神と楽園を創造した神は同一ではありません。しかし、あなたがジャヌアス神を信じるのであれば、それでもいいでしょう」
アルトはどこか諦めたように話を続ける。
「ところで、アカトの民と呼ばれる人々のことはご存じで?」
聞いたことがある。昔はこの森付近で暮らしていたが、彼らにしか使えないという特殊な力を恐れられ、迫害されたため、今ではどこかに姿を隠しているという。
「彼らは楽園に最後まで残った者たちのことです。最後まで自らの創造神を信じていたため、その神に特別な力を与えられたとも言われていますね。しかしどれだけ神に祈っても、楽園の土地は枯れていくばかりでした。彼らは仕方なく楽園を後にし、この大陸と楽園をつなぐ入口に鍵を掛けました」
そこでふと疑問が生まれる。
「なぜ鍵をする必要があったんだ?」
この問いに彼は目を細め、
「その話はまたいつかしましょう」
とだけ言い、話を戻す。
「こうしてアカトの民は友好のしるしに、その鍵をウルアスの国王に献上したのです」
「なるほど。それで国王が鍵を持っているのか」
友好のしるしにと送られた鍵を、そう簡単に譲ってはくれないだろう。
そもそも王に会うこと自体、貴族でもない俺にとっては難しいことだった。
鍵は手に入らないだろう。
手に入らないのならば、自分で開くしかない。
そう思って鍵穴を探すが、どうにも見つからない。なおも鍵穴を探す俺の様子をしばらく見ていたアルトが声をかける。
「そこまでして楽園に行きたいのですか」
「妻と約束したんだ。一緒に行くって。それに、楽園に行けば何でも願いがかなうとも言われているじゃないか」
「願い……ですか」
アルトは立ち上がり、扉に手を当てる。
「おそらくこの扉は、鍵がないと開かないでしょうね」
「なぜだ」
「この扉はアカトの民が持つ、特殊な力によって閉じられています。ですから彼らが作った鍵でなくては開くことはできないでしょう」
「そう……なのか」
やはり諦めるしかないのか……。
仰向いて、木々の間から流れる雲をしばらく見つめていた。
「これからどうするのですか」
唐突に、アルトが問う。
俺はしばらく考えてから口を開いた。
「俺は、ルコアに戻るよ」
ルコアとは、俺の生まれた場所で、ウルアス国内では首都ハレスタルに次ぐ第二の街である。
「それでいいのですか」
アルトの問いに、改めて扉を見る。この扉は鍵がないと開かない。しかもその鍵は国王が持っているという。よほどのことがなければ、譲ってはくれないだろう。
「いいんだ。この場所に来ただけでも十分さ」
そうは言ったものの、やはり悔しい。
しかしなす術がない以上、ここにいても意味がない。
無念ではあったが、ルコアへ戻るため歩き出す。俺は扉が見えなくなるまでそれを目に焼き付けようと何度も振り返り、アルトと共に再び霧の森へと足を踏み入れた。




