第9話
……なんなら、兵士として雇ってもらおうかしら。
あの『黒い光』の破壊の力、一般社会では役に立たなくても、兵士としてなら、活躍の場はいっぱいあるはずよね。うんうん、これは良いアイディアだわ。取り調べが終わったら、それとなく申し出てみようっと。
・
・
・
私の取り調べは、なんと、たったの十五分で終わった。
役所での騒動の詳しい顛末については、基本的にメリンダに質問がいき、私のほうは事実確認をされるだけで、「はい」「そうです」「その通りです」と頷いているだけで、もう聞くことはないという感じになった。
ただ、謎の破壊の力――『黒い光』については、詳しく調査したいらしく、明日改めて、別の施設に来てくれないかとのことだ。そして、調査に協力すれば、今日の騒動に対する罰は、免除してもらえるそうである。
私は、それほど悩むことなく、調査への協力を承諾した。
私自身、この不気味な力について、詳しく知りたいし、何より、パーミル王国の人たちとは友好な関係を築きたい。理不尽な要求でない限り、基本的にはなんでも素直に従うつもりだ。
取り調べの後、さすがにカツ丼は出なかったが、それなりにちゃんとした食事を食べさせてもらい、それで今夜は、とりあえずお開きとなった(残念ながら『私を兵士として雇ってくれ』などと言い出せるような空気ではなかった)。
私は今、メリンダと肩を並べ、夜の街を歩いている。
彼女の自宅に行くためだ。
何故、そんなことに?
理由はこうだ。
私の態度が非常に素直かつ協力的であるから、『特定の施設で拘束する必要はない』と判断されたのだが、それでも、未知の破壊の力を行使する者を、まったく野放しにしておくわけにはいかないらしく、この国でも指折りの魔法使いであるメリンダの家で、保護観察を受けることになった……というわけである。
先程から黙り込んだまま歩き続けているメリンダに、私は話しかけた。
「なんか、いきなりあなたの家に泊めてもらっちゃうことになって、ごめんね。今夜一晩、よろしくお願いするわ」
「はい」
一晩とはいえ、同じ屋根の下で過ごすのだから、なるべく仲良くしておきたい――そう思ってのことだったが、メリンダの態度は実にそっけない。
何を話しかけても、『はい』『そうですね』『わかりました』という、三種類の返事しか返ってこない。もしかしなくても、私のことを良く思っていないのだろう。……それも当然か。私ともめたせいで、兵士のリーダーさんに、けっこうきつく叱られてたもんね。
そういえば、あのリーダーさん、メリンダのことで、『兄としてこの場で謝罪しておく』って言ってたわよね。ってことは当然、あの人、メリンダのお兄さんってわけよね。私は何とか会話のとっかかりを掴もうと、今思ったばかりのことを、そのまま口に出した。
「ねえ、あの兵士たちのリーダーさん、メリンダのお兄さんなの?」
「そうですけど……それが何か?」
おっ。
やっと『はい』『そうですね』『わかりました』以外の言葉が返って来た。これでなんとか会話になりそうだ。私はちょっぴりウキウキとして、語り続ける。
「キリッとしてて、かっこいい人だったわね。それに、まだ若いのに、兵士たちのリーダーを務めてるなんて、凄いじゃない」
「そういうお世辞は本人に言ってください。私に言われても困ります」
うわあ……ツンツンしてるなあ……
別にお世辞ではなく、純粋に思ったことを言っただけなんだけど、どうやら、あまりお兄さんの話はしたくないらしい。……いや、単に私と話がしたくないだけかも。
これ以上話しかけても、鬱陶しがられるだけかと思い、私は黙った。しかし、しばらく無言で歩き続けると、意外にもメリンダの方から声をかけられる。
「……さっきは、ごめんなさい」
「えっ? 何が?」
意外な謝罪の言葉に、私は思わず足を止めて聞き返す。メリンダも歩みを止め、きちんと私に向き直り、それから、深々と頭を下げた。
「あなたの言うことを、最初から嘘だと決めつけて、すいませんでした。事を荒立てて、兵士隊が出張ってくるほどの騒動になってしまったのも、私の浅はかな行動が原因です。正式に謝罪します……」
先程までスーパー塩対応だった少女が、突然沈痛な面持ちで謝罪してきて、私はどう返答するべきか、一瞬迷う。……少しだけ考えて、変に取り繕ったりせず、正直な気持ちを話すことにした。
「もういいわよ。市民権を得るために、大げさなアピールをする人もいっぱいいるから、私もそういう連中の一人だと思って、ムッとしたんでしょ? それに、売り言葉に買い言葉でカッとなった私も悪いし、『浅はかな行動』はお互い様の、喧嘩両成敗ってことで、この話はおしまいにしましょうよ、ね?」
私の言葉に、メリンダはまたしてもそっけなく「はい」と言うだけだったが、夜の闇の中でも、その表情にはホッとした笑みが浮かんでいた。
それは私が初めて見る、メリンダの笑顔だった。




