第10話
銀色の神秘的な髪と相まって、その容貌は妖精のように愛らしい。
少しの間、見惚れてしまい、それから、私は言う。
「あなた、ツンツンしてるより、そうやって笑ってる方が可愛いわよ。変身魔法を使ってお姉さんの姿になるより、今のままで普段からニコニコしてた方が、皆から可愛がられて、役所の業務もスムーズに行くんじゃない?」
「余計なお世話です」
うっ。
せっかく年相応に朗らかな表情だったメリンダが、また鉄仮面さながらの無表情に戻ってしまった。調子に乗って、本当に余計なことを言ってしまったらしい。
しかしまあ、さっきの反応を見るに、まったく私と仲良くする気がないってわけでもなさそうね。急に距離を詰めると警戒するタイプっぽいから、のんびりと親交を深めていくとしましょうか。
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メリンダの家は、思っていたよりもずっと立派な洋館だった。
ここに来るまでに視界に入った家々より、倍以上は大きい。
しかし、中は薄暗く、あまり手入れも行き届いていないようだ。
帰って来たメリンダを出迎える人も、いない。
……この子、こんな大きな家で、一人暮らししてるのかしら?
他の家族の所在について尋ねようかとも思ったが、また余計なことを聞いて『余計なお世話です』と言われるのは嫌だったので、黙っていると、メリンダが一つのドアを指さした。
「あそこが客間です。あまり掃除はしていませんが、寝泊まりできないほど汚くはないと思います。簡易的なシャワールームも併設してありますから、自由に使ってください。それではまた明日」
淡々とそう言うと、メリンダは階段を上って二階に行ってしまった。
『それではまた明日』か。
そうね、今日はもう疲れたし、色々なことを考えるのはまた明日にして、シャワーでも浴びて、とっとと寝ちゃおう。
客間のドアを開け、中に入る。
暗闇の中で、かすかに光るスイッチらしきものを発見したので押してみると、驚いたことに明かりがついた。……異世界にも、電気ってあるのかしら? あるいは、魔法か何かの力で作られた照明なのかな。
何にせよ、明かりがついて一安心だ。
もうほとんど寝るだけとはいえ、真っ暗な部屋じゃ落ち着かないもんね。
それにしても、なかなか素敵な部屋だ。
メリンダは『あまり掃除はしていません』と言っていたが、ほこりが積もっているようなこともなく、上品な調度品で構成された室内は、まるで貴族のお部屋である。
私は早速、併設されているシャワールームで一日の汗と疲れを洗い落とすと、歯を磨き、ベッドで横になった。……ふう、この世界に連れてこられて、今やっと、人心地がついたって気分だわ。
安心すると、急激に眠たくなってきた。
無理もないわよね。今日は本当に、信じられないことの連続だったから。
まどろみの中で、私は思う。
今日のことはすべて夢で、今眠り、明日になったら、元の世界の見慣れた部屋で目覚め、いつも通りの日常が始まるんじゃないかと。
だが、たぶんそうはならない。『夢』の一言で片づけるには、この世界も、出会った人たちも、リアルすぎるのだ。間違いなく、これは現実である。
でも、時にはビックリするくらいリアルな夢を見ることもあるし、明日になるまでは、分からないか。よし、さっさと寝よ寝よ。どうか、起きたら、この荒唐無稽な夢から覚めて、元の世界に戻っていますように……
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そして、翌朝。
昨日寝たのと同じ部屋、同じベッドで目を覚ました私は、小さくため息を吐いて、「ま、そりゃそうよね」と一人呟いた。……わかってはいたことだが、やはりこの世界、全て現実である。
まだ一日だから騒ぎにはならないだろうが、元の世界では、私は突然失踪したことになるのだろうか?
……たぶん、そういうことになるんだろうな。両親や友達に大変な心配をかけてしまうことを思うと胸が痛むが、いつまでも嘆いてばかりはいられない。こうなった以上は、私自身、この世界に適応して生きていくしかないのだ。
よし。
これからはもう、泣き言は禁止よ。
そう気合を入れてから、顔を洗い、身支度を整えると、客間を出る。
すると、偶然二階から降りてきたメリンダと鉢合わせした。
彼女は、昨日役所で初めて会った時と同じく、変化の魔法を使っており、落ち着いたお姉さんの姿だ。私は挨拶と同時に、尋ねる。
「おはようメリンダ。寝心地の良いベッドだったから、ぐっすり眠れたわ。……ところで、なんで変身してるの?」
メリンダは事務的に「おはようございます」と言ってから、言葉を続ける。
「なんでも何も、私はこれから役所で仕事をしなければいけませんから」
「あっ、うん、それはそうなんだろうけど、なんで、役所で仕事をするとき、わざわざ変身するのかなーって思って」
「あなたには関係のないことです」
うーむ。
今朝もツンツンしてるなあ。




