第11話
そこで、私のお腹が小さく鳴る。
たっぷり寝て、すっかり胃の中が空っぽになっているようだ。
恥ずかしいことに、お腹の鳴った音はメリンダにも聞かれていたみたいで、彼女はかすかに微笑むと、静かに口を開く。
「もう少ししたら、あなたの力の調査をするために、城から迎えが来るでしょうから、それまでに食事を済ませてしまいましょうか」
城から迎えが来るですって?
確か昨日、『黒い光』の調査は、役所とは別の施設でやると言っていたが、それがお城とは、想像もしていなかった。私は今思ったままのことを、そのまま問う。
「私の力の調査って、お城でやるの?」
「ええ、そうみたいです。ついさっき、そう連絡がきました。なんでも、お城の偉い人が、あなたの力に興味を持っているそうですよ」
「へえ、偉い人ねえ……大臣とか?」
「さあ、そこまでは。ただ、素行には気をつけた方がいいでしょうね。お城で騒動を起こしたら、さすがにただでは済まないでしょうから」
「はいはい、充分気をつけますよ。私、こう見えても気は長い方なんだから」
「その割には昨日、すぐに怒っていませんでしたか?」
「昨日は色々あって、ストレスが溜まってたの。普段はああじゃないのよ、いやほんとに」
「では、そういうことにしておきましょうか。はい、これ、あなたの分の朝食です」
話しながら、大きな瓶から何かを取り出したメリンダは、私にピンポン玉くらいのサイズの、黄色の球体を手渡した。匂いを嗅ぐと、ほんのり甘い。……なにこれ? お菓子?
「……あの、メリンダ、これ、何?」
「何って……エネルギースフィアに決まってるじゃないですか。ほら、早く食べてください。いつ迎えが来てもおかしくないんですから」
「いやそんな、知ってて当然みたいに言われても、私、こんな変な食べ物、見たことないし……」
「エネルギースフィアを見たことがないって、あなた、いったいどこから来たんですか? 今じゃ辺境の地でも、携帯食として普通に流通してるのに」
そこで私は、自分が違う世界から召喚された人間であることを、かいつまんで説明した。疑り深いメリンダのことだから、また嘘つき呼ばわりされるかなと一瞬思ったが、彼女は意外にも、素直に納得した。
「なるほど、どうりで……この辺りの人間とは雰囲気がかなり違うと思ってたけど、違う世界の人なら、それも納得です」
「スムーズに納得してもらえてよかったわ。で、このエネルギースフィアって、いったい何なの?」
「さっきも言った通り、ただの携帯食ですよ。製造工程で魔法を使い、各種栄養素を効率よく凝縮するので、これ一個で一食分のエネルギーを摂取することができる優れものです」
「ふうん、こんな小さい玉でねえ……。えっ。ってことは、朝食、これだけ?」
「そうですよ。朝食どころか、私は三食エネルギースフィアです。料理をする時間も、食事をする時間ももったいないので」
えぇ~……
なんて面白味のない食生活……
しかし、空腹もいい加減に限界なので、とりあえず私も、エネルギースフィアとやらを、ひとかじりしてみる。
あっ。
意外と柔らかくて、美味しい。
食感は、やや硬めの蒸しパンっぽい感じで、味は甘めのチーズ系だ。
さらに、もうひとかじり。
うんうん。
美味しい。
最初はなにこれと思ったけど、なかなか良いじゃない、エネルギースフィア。
……しかし。
「二口で食べ終わっちゃった……」
「食べるのに時間がかからなくて、いいでしょう? しかも食べた後、お腹の中である程度膨らみますから、数時間は空腹感を覚えることもありません。まさに理想の携帯食です」
そう言って、メリンダはエネルギースフィアを口の中に放り込むと、大して味わいもせず、ゴクリと飲み込む。この子は本当に、食事という行為に関心がないらしい。
確かに、たった一個しか食べてないのに、しっかりとお腹に溜まった感じがして、空腹感は消えた。……いや、でも、これで朝ごはんが終わりなんて、そんな……
私は物欲しげな顔で、メリンダに言う。
「もう一個、食べちゃ駄目?」
「別にいいですけど、二個も食べると、お腹の中でかなり膨れて苦しいですし、何より太りますよ。朝食を二回食べるのと同じですから」
「うっ……じゃあやめとく……」
その時、呼び鈴が鳴った。
メリンダと共に玄関に行き、ドアを開けると、二人の人間が立っている。
……たぶんこの人たちが、『お城からのお迎え』なのだろう。
何故『二人の人間』などという、ハッキリしない表現をしたのかと言うと、二人とも、黒ずくめのローブで、目元以外のすべてを隠しており、男か、女か、若者か、老人かもわからないからだ。ちなみに、わずかに見える目元すらも薄暗く、表情は全く伺い知ることができない。
「未確認危険能力所持の調査対象者、マリヤだな。迎えに来た。同行願う」
二人のうち、背の低い方の人が、厳しい声でそう言った。




