第12話
ローブで口元は覆われているが、さすがに声が聞こえてくる方向で、誰が喋っているかくらいは分かる。意外にも、若い女性の声だ。
……それにしても、『未確認危険能力所持の調査対象者』か。
なんか犯罪者みたいでやだなあ。
この人たちも不気味だし、あんまり同行したくなくなってきた。しかし、今さら『やーめた』というわけにもいかないか。私は頷き、全員で家を出た。
それからメリンダが、しれっと言う。
「それでは私は役所での仕事がありますから、これで」
「えっ、一緒に来てくれないの?」
「? 当然でしょう? 調査対象はあなたなんですから、私がついて行っても、何の意味もありません」
「いや、それはまあ、そうなんだけど……ほら、この、お迎えに来た人たち、なんか凄く不気味だし、知り合いが一人もいないっていうのは、ちょっと不安っていうか……」
「私とあなたも、『知り合い』というほどの関係でもないでしょう」
「それでも、いきなり現れた黒ずくめの二人組よりは安心できるし……」
「失礼なことを。城から要注意人物を迎えに来る役目を任されたのですから、あのお二人は恐らく、相当高い役職に就いている方のはず。素性がばれないように、わざわざああやって、顔を隠しているのでしょう」
「ふうん。じゃあ、その『相当高い役職に就いている二人』に私を連れてくるよう命令した人は、もっと偉いってことよね。やっぱり大臣クラスかしら」
そんなことをごにょごにょと話していると、先程と同じ厳しい女性の声で、ピシャリと叱られる。
「何を話している。行くぞ」
その言葉で、メリンダは「失礼しました」と頭を下げ、足早に行ってしまった。取り残された私は、もうどうしようもないので、大人しく黒ずくめの二人の後をついて行くしかない。
しばらく歩くと、意外にも黒ずくめの二人の方から、私に話しかけてきた。
「調査対象者、マリヤ。城に到着するまでに、三つほど、聞いておきたいことがある。正直に答えてほしい」
私は「はい」と返事をしながら、思った。
先程から、小さいほうの人しか口を開いていない。
どうやら喋るのは、この厳しい声の女の人の役目らしい。
「では、質問一。お前はどこから来た?」
少しだけ、考える。
質問の意図が、『このパーミルに来る前、どこの国にいたか』ということなら、あの不愉快なオルソン聖王国から来たということになるが、なんとなく、彼女はそう言うことを聞きたがっているようには感じなかった。
十秒ほど悩んで、私はこれまで起こったことを順序だてて、正直に言うことにした。
「私は、この世界とは違う世界で暮らしていました。それが昨日、いきなり、隣国のオルソン聖王国に召喚されて、えっと、私の黒髪が気に入らないとかなんとかで追放されて、このパーミルにやって来たんです」
そこで突然、「やっぱり」と、若い男性の声がした。
黒ずくめの、大きい方の人が発した声のようだ。
立派な体格の割には、やや幼い声である。
彼がその後も何か喋ろうとするのを、小さいほうの人が手を上げて制し、彼女は質問を続ける。
「では、質問二。昨日お前が使った、あの力はなんだ?」
今度もまた、少しだけ考えて、私は正直に答える。
「わかりません。……ただ、何度か使った経験から、私の感情の昂りに呼応して発動する能力だと、推測しています。ですから、感情をコントロールすれば、力もうまく制御できると思います」
小さいほうの黒ずくめの人は、短く「そうか」と言った。
それから、厳しい声をさらに引き締め、問うてくる。
「では、最後の質問だ。お前はその力を使い、このパーミルで何をする? 社会や人々のためになることをする意思はあるか?」
今度は、悩まなかった。
私はすぐに、ハッキリと言葉を返す。
「もちろんです。このパーミル王国の一員にしてもらえるなら、私にできる限りのことをして、社会に貢献したいと思っています」
「そうか。良い答えだ」
そう言うと、小さいほうの黒ずくめの人は、頭に深々とかぶっていたフードを、バサッと下ろした。中から現れたのは、燃えるように美しい赤色の髪と、凛々しい瞳。彼女はその凛々しい瞳で私を見つめると、先程までの厳しさを少しだけ緩めた柔らかい声で、言う。
「私はパーミル王国近衛騎士団長、グラディスだ。顔と名を隠して接した無礼を許してほしい。こうして実際に会って、話をしてみるまでは、お前が信用に足る人物かどうか、分からなかったのでな」
小さいほうの黒ずくめの人――グラディスの突然の行動に、大きい方の黒ずくめの人が、焦った声を出す。
「姉上! またそんな、簡単に素顔を晒して! まだ、ほんの少し言葉を交わしただけで、彼女が本当に信頼できる人間かどうかわからないでしょう!」
「ジェローム、お前は本当に疑り深いな。案ずるな、私は人を見る目には自信がある。彼女は誠実だ。我がパーミル王国に仇なす存在にはなりえぬよ。ほら、お前も顔を見せて自己紹介しろ」




