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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第13話

 グラディスは平然とそう言うと、大きい方の黒ずくめの人――ジェロームのフードを勝手に下げてしまった。グラディスと同じく、鮮やかな赤い髪をした、美しい青年の顔が露になる。


 ジェロームは、こうなった以上はもう仕方ないといった感じで、私に向き直り、自己紹介をした。


「……私は、パーミル王国近衛騎士団、副団長、ジェロームと申します。以後お見知りおきを」


 丁寧ではあるが、簡潔で、そっけない自己紹介だった。それが終わると、ジェロームは再びフードをかぶり、半ば無理やり、グラディスにもフードをかぶせた。


「ええい、暑苦しい。まだ早朝だ。人もあまり歩いていないし、わざわざこんなものをかぶって、顔を隠す必要もあるまい」


「いけませんよ、姉上。もっとちゃんと、ご自分の立場を考えてください」


「はいはい、わかったよ」


 そして二人は服装を正し、先程と同じ、完全なる黒ずくめスタイルに戻ると、私を促して、また歩き始めた。私たちは、しばらく無言で早朝の町を歩いていたが、私はさっきのグラディスとジェロームのやり取りがちょっと気になって、尋ねてみることにした。


「あの、お二人は、何で信用できない人には、顔と名前を晒しちゃいけないんですか?」


「ん? ああ、それはな。私たちが……」


 答えかけたグラディスが、急に黙る。

 その理由は、すぐに分かった。


 ジェロームがフードの奥から、もの凄い目でグラディスを見ているのだ。


 私には読心術の心得はないが、それでも『そんな大切なことを、路上で軽々しく話すな』と主張しているのが丸わかりの、強い意思のこもった瞳である。


 グラディスは小さく「わかったわかった」と呟いた後、歩きながら、顔だけ私の方に向けて、言う。


「すまんなマリヤ。これ以上話すと弟に叱られるから、続きは城についてからだ。そこで、すべて話すよ。だから今は、私を信じて、黙ってついて来てくれ」


「はぁ、わかりました」


 普通なら、自分の素性を詳しく語らない人間は信用できないが、私はなんとなく、このグラディスのことは信じていいのではないかと思った。少し話しただけで、彼女が私を『信用に足る人物』だと判断してくれたように、私もまた、グラディスの単刀直入な物言いから、彼女が裏表のない人物だと判断したのだ。


 まあ、私はグラディスと違い、人を見る目にそれほど自信があるわけではないので、判断そのものが大間違いな可能性もあるが、どちらにしろ、このグラディスとジェロームについて行かなければ、今後の道は開けないのだ。ならば、あまり余計な心配はせずに、前に進むだけだ。



 パーミルはそれほど大きな国ではないので、お城につくまでそんなに時間はかからなかった。正門から中に入り、エントランスホールに達すると、グラディスは『やっと脱げる』と言った感じで、真っ黒なローブを脱ぎ捨てる。


「ふう、やれやれだ。すっかり蒸れてしまった。だいたい、そろそろ初夏だというのに、あんな格好で歩いている方がよっぽど人目を引いてしまう気がするのだがな」


 露になったグラディスの全身は、美しく、気品に溢れており、近衛騎士団長というより、お姫様のようだ。彼女に倣う形で、ジェロームもローブを脱ぎながら、やや呆れたように言う。


「姉上、人目を引くかどうかは、大した問題ではありません。公務でもないのに、我々が揃って町を歩いていることが問題なのです。だから、姿を隠さなければならないんですよ」


 ジェロームの全身もまた美麗で、一般人とは一線を画した高貴さを感じる。この姉弟はたぶん、ご立派な家柄の出身なのだろう。グラディスはジェロームに窘められ、苦笑した。


「わかっているよ。さて、今はそんなことより、マリヤを殿下の元に連れて行かなければな。さあ行くぞ、マリヤ。あの扉の向こう、謁見の間で、王太子殿下がお前をお待ちだ」


 謁見の間?

 王太子殿下?


 いったい、どういうことだろう。


 私をこのお城に連れてきたのは、あの謎の破壊の力――『黒い光』の調査をするためでしょ? なんで、この国の王子様と謁見しなきゃならないわけ?


 そんな思いがありありと顔に出ていたのか、グラディスは軽く微笑んで、言う。


「ふふ、ここまで来たのだ。もう話しても構わんだろう。……マリヤ、お前の謎の力――『黒い光』に強い関心を示し、詳しい調査を希望しているのは、何を隠そう、このパーミル王国の王太子、エリウッド殿下なのだ。それも、できれば内々に調べたいとのことで、殿下が最も信頼する私とジェロームが、お前を迎えに行ったというわけだ」


 むむむ。メリンダの話から、私の力の調査をしたがっているのは、相当に偉い人だとは想像していたけど、まさか王太子とは。


 そこで、不意に嫌な記憶がフラッシュバックする。


 王太子かぁ……

 あのオルソン聖王国の王太子は、最悪だった。


 彼に浴びせられた酷い言葉のせいで、私はちょっとばかり、王族という存在に良くない印象を持っている。しかし、ここまで来て帰るというわけにもいかないだろう。

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