表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/61

第58話

「……ええ。あなたと直接話をして、単なる復讐心や私利私欲で大勢を巻き込むクーデターを起こそうとしているのなら、あなたに対して破壊の力を使わなきゃいけないって覚悟していたわ」


「ならば、どうぞ、やってください。悩み悶えるうちに、私は自分の進む道すら分からなくなってしまった幼稚な復讐者です。この愚劣なる体と心を、愛するあなたの力で消し去ってもらえるなら、こんなに嬉しいことはない」


「…………」


「思えば私は、あなたに止めてほしいと願っていたのかもしれません。……私を支持する反王政派の信頼を裏切ることなく、エリウッド様を傷つけることもなく、この世から消え去りたいというのが、今の私の真の願いだったのでしょう。私は、自分自身で決断することから逃げた卑怯者。私ごときを消しても、あなたの手は汚れません」


「…………」


「さあ、マリヤ様。ひと思いに……」


 救いを乞うように、私へと手を伸ばすジェローム。

 その手を振り払い、私はジェロームの頬を叩いた。


 本気でだ。


 乾いた音が夜の静寂の中に鳴り響き、手のひらがじんじんと痛む。さすがというか、私の平手打ち程度で倒れるジェロームではなく、彼はただ、茫然とした表情で私を眺めていた。


「ジェローム、あなた、本当に卑怯よ。ここまでのことをしておいて、今さら自分だけ消え去って、それでおしまいにしようとするなんて。間違った道に進んだってもう分かっているなら、せめて、自分で自分のしたことの責任を取りなさい。それでもまだ消え去りたいって言うのなら、すべてが終わった後に消してあげるわ」


「マリヤ様……」


「だいたい、さっきから信頼信頼って連呼してるけど、あなたを信頼しているのは反王政派だけじゃないのよ。エリウッド様はね、あなたの不穏な動きを知りながら、それでもあなたを信頼し続けている。エリウッド様は言ってたわ。『ジェロームが俺を信じなくても、俺はジェロームを信じる。彼は俺の兄だから』って」


「…………」


「そしてエリウッド様は、君臣の分別をつけるために、あなたに尊大な態度を取ったことを後悔していたわ。態度を変えなければ、こんなことにはならずに済んだかもしれないって」


「…………」


「ジェローム、あなたも、本心ではエリウッド様を傷つけたいだなんて思っていない。だから、私に消されることを望んだのよ。心の奥底では、あなたは今もエリウッド様を信じている。信じあっている二人の兄弟が戦うことほどおかしなことはないわ。今からでも遅くない。すべてのことにケリをつけて、いちからやり直しましょう」


 ジェロームは瞳を閉じ、黙った。

 その姿はまるで、静かなる夜の闇に溶け込んでしまったようだった。


 どれだけ黙っていただろう。

 ジェロームは、闇から溢れだした光のように、言葉を紡いでいく。


「エリウッド様が私を信じてくれているのは、わかっていました。疑っているなら、容易く軍部を掌握できる参謀総長の地位を与えはしないでしょうから。しかし私は、表面上は忠誠をつくしながら、純粋なる信頼をエリウッド様に返すことを、拒んだ。……すべては『私は所詮妾の子』という、私自身の劣等感が原因です」


「…………」


「私は、エリウッド様を信頼していないのではなく、信頼しているという事実を認めることを、拒否したのです。エリウッド様が嫌いだったわけでもありません。生まれついての太陽のようなあの方のことが、大好きだった。その感情をも、私は否定した。認めてしまったら、自分がますます惨めな存在になるような気がして……」


「ジェローム……」


「愚かで卑屈な私も、ここにきてようやく、自分の心に整理をつけることができました。マリヤ様、明朝すぐに反王政派を取りまとめ、私は彼らに対して頭を下げます。そして、即刻クーデターの中止を……」


 ジェロームはそこで、突然喋るのをやめた。

 私は首を傾げ、彼の名を呼ぶ。


「ジェローム?」


 ジェロームは唇を開いた。

 そこからつぅっと流れ出たのは、彼の赤髪よりも深い赤。


 鮮血だった。


 そのまま、崩れ落ちるジェローム。慌てて支えようとしても、私の細腕では彼の長身を抱き留めることはできない。それでも何とか、地面に直接激突しないように、ゆっくりと寝かせる。


 ジェロームの背中。

 ちょうど、心臓の後ろあたりに、深々と矢が突き刺さっていた。


 ……これは、致命傷だ。いつの間にか私の手はジェロームの血で赤く染まっており、悲しみと困惑で、全身がわなわなと震えた。


 そんな私の耳に、聞きなれた声が響いて来る。


「うふふ、見事命中ね。さすがは、兵器開発部門特製の自動追尾ボウガンだわ。弓術の心得のないわたくしでも、引き金を引くだけで目標の急所に向かっていく優れものよ」


 太后リザベルトの声だった。


 何とリザベルトは、見張り台の外側。つまり、空中に浮かんでいた。

 真っ黒なフード付きローブを身にまとった姿は、まるで夜の化身である。


 リザベルトはフードを下ろし、自身の輝くような金髪を外気にさらすと、ふわふわと浮かんでこちらまでやって来る。そして、見張り台に足を下ろし、いつもと変わらぬ微笑を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ