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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第54話

「ああ、なるほど。つまり、あれこれ理屈を並べたけど、結局は妾の子ではなく、自分の子であるエリウッドを王位につけたかっただけなんじゃないかって言いたいのね」


「い、いえ、そんなことは……」


「ふふ、冗談よ。……もしもグラディスとジェロームに王としての資質があれば、どちらが王位継承者になっても良かったわ。わたくしの子ではないけれど、わたくしの愛した国王陛下の子供なんだから」


「グラディスさんとジェロームには、王の資質がないってことですか?」


「そうよ。二人とも非凡な人物だけど、王としての天分はないわ」


「王としての天分……」


「王となる者にはね、人の上に立つ器とか、そういうものを超えた天分――つまり、天から選ばれた資質のようなものが必要なのよ。それに比べれば、やれ腕っぷしが強いとか、やれ頭がいいとか、そんなのは大したことじゃないわ。王に必要なのは、その『腕っぷしが強い者』や『頭がいい者』を配下として使いこなす能力よ」


「…………」


「グラディスにあるのは『将軍』の資質。ジェロームにあるのは『補佐官』の資質ね。グラディスの胆力は凄いけど、絶体絶命の危機をどこか楽しんでいる様子すらあるギャンブラー気質で、王としては問題がありすぎる。ジェロームは武力にも統率力にも優れるけど、頑固で柔軟性に欠ける。国を率いるものとして、これは大きな弱点よ」


「エリウッド様には、二人にはない王の資質があるんですか?」


「ええ。以前は少し傲慢で、頭に血が上りやすく、浅はかな行動が目立ったけど、戴冠してからは執政者としての自覚が芽生え、まぎれもない王の器となったわ。何よりあの子には、『天運』がある」


「天運……ですか」


「エリウッドは会談の場でオルソン聖王国の王子を蹴飛ばし、愚か者のそしりを受けても仕方のないはずが、その行動すらも国民たちの支持に繋がっている。これは、エリウッドの持つ天性の魅力と天運がそうさせているのよ。王としての天分がないものが同じことをしたら、あっという間に信頼が地に落ちておしまいよ」


「それは……そうかもしれませんね」


「そうそう、あのオルソン聖王国の王子。エリウッドに顔を蹴飛ばされたことで国中の笑いものになり、王位継承者の地位を第二王子に奪われたらしいわよ。王としての資質も天運もない者が、身の程も知らずに好き放題をした末路ね。マリヤちゃん、あなたを追放したりせず大事にしていれば、彼の運命も変わっていたでしょうにね」


 今となってはオルソン聖王国の王子のことなどどうでもよく、私は一礼してリザベルトの私室を後にした。頭の中は、これから私はどうすべきかという悩みで、いっぱいになっていた。



 そんなある日のこと。


 私は王宮の長廊下で、ひさしぶりにエリウッドと対面した。


 正式に王位を継いでからのエリウッドは、まさしく目が回るような忙しさだった。私は彼の邪魔をしないように、パーミルの聖女として、私にできる仕事を全力でこなしていたので、こうして顔を合わせるのは本当にひさしぶりの事だった。


 エリウッドは少しやせた様子だったが、その立ち振る舞いには、以前とは違う堂々とした王者の風格があった。私に気が付いたエリウッドは軽く右手を上げ、柔らかい微笑みを浮かべる。


「おお、久しいな、マリヤ。最近、あまり二人で話す時間を作れなくてすま……」


 言葉の途中で、エリウッドはふらりとよろめいた。

 私は慌てて彼に駆け寄り、その体を支える。


「エリウッド様、大丈夫ですか?」


「あ、ああ。すまない。ふふ、いかんな。こんな何もないところでふらついて。これでは王の威厳も何もあったものではない」


 エリウッドの体は、本当に、驚くほど軽かった。

 私の細腕でも苦も無く支えられるほどに。


 私は心配になって、諭すように言う。


「あの、エリウッド様。少し働きすぎでは? このままでは倒れてしまいます。重臣の方々に政務を任せて、短い間だけでも、休養を取った方が……」


「ん、そうだな。それでは、10分だけ休養を取るかな」


「10分って……短い間って言ったのは、そういう小休止みたいな意味じゃありません。少なくとも、数日は休まないと……」


「そうもいかないんだ。若い俺が父上の跡を継いだことで、今、王宮内は少し浮足立っている。ここで弱みを見せれば、内心に不満を抱いている重臣や軍部の将校たちが、よからぬ考えを起こすかもしれない。だから、今だけは、身を削ってでもやるべきことをやり続けなければならないんだ。この国の平和と、民の未来のためにな」


 この国の平和と、民の未来のため――


 エリウッドも、リザベルトと同じく、パーミルを守ることに全神経を傾け、自分の責任を果たそうとしている。そう思うと、私はもう何も言えなくなってしまった。


 そんな私の代わりに、エリウッドは静かに言う。


「ちょうどいいところに客間がある。お前の言う通り、そこでほんの少しだけ横になるとしよう。悪いが、このまま肩を貸してくれ」

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