第51話
「じゃあ、どんな罪状で、医者と祈祷師の一族を処罰したんですか?」
「まあ、そこらへんは、適当にでっちあげるしかないわよね。横領をしていたとか、風説の流布で悪戯に人心を惑わしたとか」
「でもそれって、一族皆殺しにされるほどの罪じゃないですよね」
「そうなのよ。だから民衆の間では、嫉妬に狂った王妃が、赤毛の女を連れてきた祈祷師と、そのきっかけを作った医者の一族を怒りのままに殺しつくしたってことになってるの。本当に嫌になるわ。悪いことは全部わたくしのせいになるんだから。息子のエリウッドですら、わたくしのことを拷問が大好きな残忍な女だと思ってるのよ」
「あの……」
「なあに?」
「それで、その……グラディスさんとジェロームのお母さん――赤毛の女の人は、どうなったんですか? やっぱり、他の反逆者たちと一緒に、彼女も……」
リザベルトは椅子の背もたれに大きく体を預け、瞳を閉じる。
そして、「ふぅーっ」と長い吐息を漏らした。
「彼女の処罰については、わたくしも悩んだわ。それと言うのもね、わたくし、彼女のこと好きだったのよ」
「ええっ?」
「ふふ、聞いていた話と随分違って、意外だったかしら? でも、本当のことなの。子供を産めなかった情けないわたくしの代わりに世継ぎを産み、パーミルの未来を繋いでくれる者として、最初は感謝すらしていたわ。彼女自身は祈祷師に利用されただけの、純朴で心優しい娘だったからなおさらのことよ」
「…………」
「だからね、彼女だけは王家のメイドとして、そのまま王宮に残れるようにしてあげたの。幸いと言うか、彼女が祈祷師の身内であることを知る者はほとんどいないからね。彼女はわたくしの慈悲に、涙を流して喜び、わたくしもニッコリ頷いた。ああやれやれ、これでなんとか手打ちが済んだ、一件落着……そう思っていたわ」
リザベルトは、もう一度長い吐息を漏らした。
先程までよりも重たく、深い溜息だった。
「でもね、無欲だった彼女も時とともに変わっていったの。彼女の純朴な瞳は、いつしか猛禽のような鋭さを帯び始め、少しずつ重臣たちに根回しをするようになった。……妾の子とはいえ、王の長男であるジェロームが成人した際、わたくしの息子であるエリウッドと王位を争い、自分は太后となる絵図を、彼女は描き始めていたのよ」
「証拠はあるんですか?」
「残念ながらね。わたくしも、まさか彼女がそんな野心を持っているとは信じたくなかったから、何度も念入りに調べたわ。その結果、動かぬ証拠を掴んでしまった。……こうなってはもう、生かしておくわけにはいかない。それは、わかるわよね?」
私は返事をせず、顔を伏せた。
しかし、リザベルトの言っていることは、理解できた。
明らかに国を乱そうとしている者を処罰するのは、当然のことだからだ。
「まだ小さかったグラディスとジェロームは、わたくしのことを母を殺した残虐な殺人鬼のように思っているでしょうけど、仕方のないことだったのよ。先王は心優しい方だったけど、半面、決断力に欠けていた。だからわたくしは、たとえ民に恐れられ、幼子に恨まれるとしても、やるべきことをやらなければならなかったの」
私はしばらく黙っていた。
やがて、伏せていた顔を上げると同時に、声を発した。
「……あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「リザベルト様は昔、エリウッド様に対して、グラディスさんとジェロームを指さしながら『あいつらは汚らわしい赤毛の簒奪者よ』って言ってたんですよね? リザベルト様は、あの二人のことを憎んでいるんですか?」
リザベルトは苦笑した。
その苦い笑みのまま、言葉を紡ぎ始める。
「今のでわかったわ。わたくしのことをあることないことあなたに吹き込んだのは、エリウッドだったのね。まったく、酷い子。いくら心を許した女の子が相手だからって、普通、自分の母親の悪口を言ったりするものかしら。悲しいわ」
「あっ、いえ、エリウッド様は……」
「いいのよ、口で言うほど悲しんじゃいないわ。母は強いのよ。……あら、ごめんなさい、話がそれたわね。わたくしがグラディスとジェロームを憎んでいるか……だったわね。答えはノーよ。あの姉弟の母親と一族には罪があるけど、その罪を子供にまで背負わせるのは間違っているわ、そうでしょ?」
「じゃあ、どうして……」
「エリウッドの前であの二人を『簒奪者』呼ばわりしたのは、エリウッドに自分こそが正当なる王位継承者であるという自覚を持たせるためよ。そして、グラディスとジェロームから、距離を取らせた。……わたくしの失敗を、繰り返さないためにね」
「失敗?」
「わたくしはね、あの赤毛の女と、親しくしすぎたのよ。彼女の親戚である祈祷師の一族を処罰してからは、よりいっそう親身になってあげたわ。それこそ、本物の姉妹のようにね。でもね、それが良くなかったのよ。彼女は自分のことを、わたくしの妹か何かと錯覚するようになり、それなら自分も太后になれるはずだと思いあがった」
語るうちに、過去の情景をありありと思いだしたのか、リザベルトは深く目を閉じた。本当に、自分のおこないを悔いているかのような表情だった。




