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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第48話

「意外なこと?」


「パーミル人は、ラング人は好戦的で、約束を破ることなど何とも思っていないケダモノのような連中だと思っているが、彼らは暴れられればなんでもいい暴徒どもとは違うのだよ。彼らにも、彼らなりの価値判断というか、ポリシーがあるのだ」


「どんなポリシーなんです?」


「シンプルな二つのポリシーだよ。『力こそ正義』『国家はいつでも頑健であれ』というものだ。彼らがしばしばパーミルを攻めたのは、パーミルの防備が甘く、隙だらけだったからだ。つまり、『頑健でない国家』など、彼らにとっては攻めこまれて当然の情けない国ということになるのだな」


「えぇ~……なんか、暴徒とあんまり変わらないような……」


「ん? 言われてみれば、そうかもしれんな。しかし、ラング人にはその粗暴性を補って余りあるほどの、良い民族性がある。それは、一度力を認めた相手には最大限の敬意を払い、それまでの考えをすぐに改めるという柔軟ささだ。マリヤ、先王が体調を崩された時、パーミルとラングの間で小競り合いがあったのは知っているか?」


「はい。以前、エリウッド様に聞きました」


「実際は、小競り合いなんて甘いものではない。ラング王国は小規模ではあるが、正規の軍隊を進軍させて、パーミルの一部を掌握し、侵略の足掛かりにしようとしたのだ。だが、その時、エリウッドがたまたま国境近辺の砦を視察しており、すぐさま指揮を執ってラング軍を追い払ったのだよ」


「そうなんですか? エリウッド様は、そんなこと一言も……」


「あいつは、少々傲慢なところはあるが、自慢話をするのは嫌いだからな。わざわざ功績を誇るようなことは言いたくなかったのだろう。私も後で部下から報告を聞いたが、こちら側にはほとんど死者が出ていない、見事な指揮だった。エリウッドは剣の冴えは正直イマイチだが、その指揮能力は目を見張るものがある。天分という奴だな」


 そこで一度、グラディスはお茶を飲んだ。

 少し見ないうちに、なんだか女っぷりが上がったような、優美な仕草だった。


「とにかくその一件で、パーミルを舐め切っていたラングの見る目が変わった。『あの若い王子、なかなかやるぞ』とな。さらにその後、ラングも大嫌いなオルソンの王子をエリウッドが蹴飛ばし、不平等な同盟を解消したことで、その評価は不動のものとなった。それで、ラングとの外交がずいぶんやりやすくなったのだ」


「えっと、ラング王国と外交をして不戦条約を結ぶのは凄くいいことだと思うんですけど、だからって、グラディスさんが政略結婚みたいな形でお嫁に行かなくても……」


「馬鹿言うな。誰が政略結婚などするか」


「えっ? でも、ラングの王様と結婚するんですよね?」


「そうだ。ラング王と私の婚姻は、パーミルとラングの関係を、限りなく強固なものとするだろう。ラング人は親族とその縁者を何よりも大切にするからな。しかし、これは断じて政略結婚ではない」


「あの、言ってる意味がよく分かんないんですけど……」


 そこでグラディスの顔が、少し赤くなった。


「ええい、みなまで言わせるな。つ、つまり、私とラング王は、政治的な関係を超えて、純粋に愛し合っているということだ……」


「ええっ」


「最初は、新しく国王となった可愛い弟を助けるため、ラングとパーミルの関係を改善しようと必死なだけだった。しかし、外交やらパーティーやらで何度も顔を合わせているうちに、私も、ラング王も、その……なんかいい感じになってな。まあ……そういうわけだ」


「はぁ~……そういうことって、あるんですね。いいな、いいなぁ、敵国の王様とお姫様のロマンス」


「恥ずかしい言い方をするな。しかし、まあ、私自身も驚いているし、それ以上に、嬉しく思う。私も、ラング人と少し似通ったところがあってな。『力こそ正義』とまでは言わんが、自分より弱い男と一緒になる気など毛頭なかった。だが生まれてこの方、私より強い男に出会ったことがない」


「でしょうね」


 パーミルいちの剣の達人はジェロームだが、そのジェロームが『私が国で一番の達人ということになっているのは、姉上が私と本気で勝負をしないからです。真剣にやり合ったら、恐らく私は姉上にかなわないでしょう』と言うくらいだ。そんなグラディスより強い男の人が、世の中にそう何人もいるとは思えない。


「私は生涯独身で過ごすのだと思っていたし、別にそれでいいとも思っていた。だが私は、ラング王に出会った。……彼は強かった。酒の席にて、安全な模造剣で戯れの試合をしただけだが、身震いするほど強かった」


「グラディスさん、負けちゃったんですね」


「いや、私が勝った。彼の動きの癖はもう見切ったから、たぶん、何度やっても私が勝つだろう」


「えぇ~……じゃあ結局、グラディスさんより弱いじゃないですか」


「マリヤ、強い弱いとは、そんな単純なことではないんだ。確かに、純粋な剣の腕のみを比較するなら、私の方がラング王より優れている。だが、ラング王の方が私より間違いなく強い」


「どういうことですか?」

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