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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第47話

「そ、そうなんですか?」


「わたくし、家柄があまり良くありませんの。礼法にも疎く、この通りののんびり屋ですから、皆様をイライラさせてしまうことも多いみたいで……」


「は、はぁ……」


「マリヤ様も、のんびりした女はお嫌いですか?」


「い、いえ、そんなことないです。むしろ……」


「むしろ?」


「なんとなく、ホッとします。最近、神経が張り詰めている時間が長かったので。なんだか……」


「なんだか?」


「お母さんと話してるみたい……」


 そう口にしてから、滅茶苦茶失礼なことを言ってしまったと青くなる。

 初めて対面する太后様を、『お母さん』呼ばわりしてしまった。

 国が国なら即刻手打ちである。


 しかしリザベルトは機嫌を壊すこともなく、母性的な笑みを浮かべ、嬉しそうに頷いた。


「まあ、そんなふうに思っていただけて嬉しいですわ。なんだかわたくしたち、気が合いそう。ねえ、マリヤ様のこと、親愛の情を込めて、マリヤちゃんって呼んでもいいかしら?」


「あ、はい。ご自由にどうぞ。太后様に『様』づけで呼ばれる方が、ちょっと抵抗ありますし……」


「良かった。わたくし、夫の看病につきっきりで、長らく王宮を空けていましたから、以前よりさらに浮いちゃってますの。だから、こんなに早くお友達ができて嬉しいですわ。どうか、これからも仲良くしてくださいね」


「え、ええ。こちらこそよろしくお願いします」


 なるほど。療養中の先王のそばにいたから、これまで一度も王宮で顔を合わせることがなかったのね。……しっかし若々しい人だわ。エリウッドのお母さんなんだから、普通に考えれば、40歳前後のはずよね。


 なのに、どう目を凝らしても、シワひとつない。

 二十代前半でも全然通用する。

 もしかして、異世界人は老化が遅いのかしら?


 まあ、それはそれとして。

 この時から、私と太后リザベルトの付き合いが始まったのだった。



 最初は、週に二~三度ほど、顔を合わせてお茶を飲んだり、庭園を散歩しながらたわいのない話をするだけだった。しかし、その短い交流で、私はたちまち彼女に心を許してしまった。


 温和で親しみやすいリザベルトと過ごす時間は、以前述べた通り、きっともう会うことはできないであろう元の世界の母親の面影を思い出させ、私にとって、心に空いた穴を埋めてもらえるような、安らぎの時間だった。


 エリウッドは新王として山のような政務をこなさなければならないため、最近は忙しく、あまり話ができていなかった。ジェロームとも、少しぎこちない関係になってしまったので、以前ほど気安く雑談はできていない。


 パーミルの聖女として、侍女は何人もつけられているが、皆私を神様か何かのように敬い、緊張しきっており、とてもではないが、友達のように話しかけてはくれない。


 ……王宮内で、私は孤独だった。


 もちろん、差別されているわけではない。

 皆、親切にしてくれるし、敬意も払ってくれる。


 しかし、大切にされることと、心が満たされることは、必ずしも一致しない。……いつだったか、エリウッドが私に対し、『友人になってほしい』と言ってきたことを思いだす。


『身分を忘れ、気も張らずに、リラックスして話せる相手が欲しい』


 エリウッドは、そう言っていた。

 今なら彼の気持ちがよくわかる。


 そんな私の孤独を癒やしてくれるのが、母親のような包容力を持つリザベルトの存在だった。いつしか私は、遠慮する気持ちすら忘れ、本当の娘のように毎日リザベルトの私室を訪ねるようになった。リザベルトも私を大いに可愛がってくれて、二人の蜜月は、絶えることなく続いた。



 エリウッドが即位してから、どれくらいの時が経っただろう。

 パーミル近郊の秩序を劇的に変化させる大事件が起こった。


 なんと、パーミル王国と長年敵対関係にあった北のラング王国の間で永久同盟が結ばれ、その証として、先王の長女であるグラディスが、ラングの若き王と婚姻を結ぶことになったのある。


 しかも、その話をまとめたのは、積極的に外交活動をおこなっていたグラディス自身であった。ひさしぶりにパーミルに戻って来て、ゆっくり腰を落ち着けたグラディスに、私は驚きをもって問いかける。


「グラディスさん、ラング王国の国王と結婚するって、本気なんですか?」


「本気だよ? 何かまずいか?」


「いや、まずいっていうか……。その……ラング王国って、かつてはパーミルに対して侵略まがいのことをしてきた、信頼できない国なんですよね? そんな国と……」


「うん、そうだな。お前の言いたいことはわかる。しかしそれは、所詮過ぎたことだ。過去の遺恨にこだわって未来の関係を築くことを放棄するのは、愚か者のすること。私はそれなりに時間をかけてラング王国と外交を繰り返し、彼らの人となりを注意深く観察した。すると、意外なことが分かった」

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