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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第45話

 グラディスも、無理もないという感じでこのように言っていた。


「オルソンとパーミルの関係が終わるのは、時間の問題だった。奴ら、年々態度がでかくなり、先王が病にふせってからは、完全にパーミルを属国扱いしていたからな。パーミルにオルソンの軍隊を駐屯させ、ラングと戦うための前線基地にしようとする計画すらあったし、いつまでも素直に従っていたら、どうなっていたことか」


 そして、こう話をまとめる。


「結果的に、他国の足並みがそろっていないこのタイミングで縁が切れて良かったのかもしれない。ふふ、会談の場であの馬鹿王子を蹴飛ばしたのにはさすがに驚いたがな。……ただ、一つ問題なのは、あれ以来、エリウッドとジェロームの関係がこじれてしまったことだ。まったく、意地を張りあって、困った弟たちだ」


 グラディスの言う通り、あれ以来エリウッドとジェロームの間には、簡単には埋まることのない溝ができてしまった。もともとぎこちない雰囲気の二人ではあったが、今は前よりさらに言葉を交わす機会が減っていた。


 エリウッドは正式な王となり、ジェロームはオルソンを始め、他国の動きに目を光らせるため、パーミルの軍事を統括する参謀総長という立場になったのだから、もう少し仲良くしてほしいものなのだけど……


 ある日、その気持ちをエリウッドにそれとなく伝える。するとエリウッドはため息を漏らし、こちらに目を合わせず、どこか遠くを見るようにして言う。


「心配しなくても、必要なことはちゃんと話し合っている。他国の侵攻に対する備えは万全だ」


「私が心配しているのは、そういうことだけじゃなくて、エリウッド様とジェロームの今後に関することもです。このままじゃ、いつまでたっても幼い頃のように仲良しには戻れませんよ?」


 そして、しばしの沈黙。

 十秒ほど黙った後、エリウッドは感情を乱すこともなく、言った。


「……どのみち、もう幼い頃には戻れぬよ。俺は正式にパーミルの王になったのだ。以前とは立場の重みが違う。俺にできることは、王として間違いのない方向に国を導き、失ってしまったジェロームの信頼を取り戻すことだけだ。俺が先王にも負けぬ王となれば、ジェロームもきっと、俺のことを認めてくれるだろう」


「でも……」


「あるいは、その時こそ、長年のしこりが消えて、幼い頃の二人に戻れるかもしれん。だからマリヤ、これ以上言うな。俺たちのことを心配してくれるお前の気持ちはありがたいし、気を揉ませてすまないとも思っている。しかし、こればかりは、そう簡単に解決する問題ではないのだ」


 静かに、こちらを諭すような言い方だった。

 少し傲慢で、感情的になりやすい昔のエリウッドとは、もう違っていた。

 王冠を戴いたことで威厳が出て、その内面までも変わったように思える。


 対するジェロームも、変わった。


 冷静沈着で、穏やかだった物腰が、少しずつ猛々しいものになっていったのだ。彼は参謀総長という立場にありながらも、私の警護を続けてくれていたが、ある日のこと、エリウッドにしたのと同じように、『二人に仲良くしてほしい』と話をしたところ、急に怒ったような顔で私を見て、ハッキリと不満を口にした。


「その話をするのは、もう5回目ですね。……マリヤ様、あなたも惨いお人だ。私の気持ちに気づいていながら、何度も他の男の話をする。その際、私の心が剣で抉られるように痛むのを、わからぬわけでもないでしょうに」


「ジェローム……」


 ……ジェロームの言う通り、彼が私に好意を持ってくれているのは、分かっていた。私はどちらかと言えば色恋沙汰に疎い方だと思うが、それでも、結構な期間一緒にいて、異性の気持ちに気づかぬほど鈍くはない。


 決定的だったのは、ジェロームが参謀総長になった後も、私の警護を他人に任せなかったことだ。これまでのつきあいでわかったのだが、彼は大切なことを、絶対に人任せにしない。それが例え、信頼できる部下であってもだ。だから、つまり、私のことを他者に任せないのは、そういうことなのだろうと思っていた。


 ジェロームは端正な顔に怒りとも嘆きともつかぬ哀愁を貼りつかせ、私の手を握った。大きいが、常日頃から剣を握っているとは思えないほど、すらりとした、美しい手だった。


「あなたはご自分で思っているより、ずっと聡い。私だけではなく、エリウッド殿下……いえ、エリウッド陛下の気持ちにも、気づいているのではないですか? 彼があなたに向けている感情は、単なる友情ではない。今はまだ、愛情と呼べるほどのものではありませんが、遠からず陛下自身も、あなたへの想いを自覚するでしょう」


「…………」


「しかし私は、エリウッド様にあなたを渡すつもりはありません。王位は彼のものですが、あなただけは……」


 ジェロームは私の左手を右手で握ったまま、左手を私の背に回して、抱き寄せた。


 このまま彼が、強引に関係を進展させようとしてきたら、私は拒否できるだろうか? これまで誠心誠意尽くしてくれた彼を、無常にも突き飛ばし、拒絶することができるだろうか?

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