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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第44話

「……そうでしょうか。姉上、教えてください。今のジェロームの言葉、100パーセント本気ではないとおっしゃるならば、何パーセントくらいは、本心が混ざっていたと思いますか?」


「答えづらいことを聞く奴だ。私も今日は疲れた。そろそろ湯浴みをして寝たい。その話はまた今度にしないか?」


「姉上」


「わかったよ。……そうだな。まあ、半分……50パーセントくらいは、本心をぶちまけたってところだろうな」


「5割本気であれば、無視はできません。俺はジェロームの信頼を失ってしまったと考えるべきでしょう」


「いや、お前、そんな悲観的な……。人間だれしも、感情のままに、心にもない強い言葉をガーッと言ってしまうこともあるじゃないか」


 慌てて取り繕うグラディスだったが、時すでに遅し。エリウッドはもう会話を続ける気はないらしく、重たい足取りで自身の寝室へと戻って行った。


 私はグラディスに対し、思ったままのことを素直に尋ねる。


「グラディスさん、ジェロームはエリウッドに対して、本当に失望してしまったのでしょうか?」


「ん? うーん……そうだな……まあ、そうかもしれんなあ……あいつはもともと、精神的に未熟なところのあるエリウッドが正当な王位継承者になったのを、あまり面白く思っていなかったしな」


「そうなんですか? これまでは、徹頭徹尾忠誠を尽くしてて、そんな素振り、少しもありませんでしたけど」


「完璧な忠臣であろうとすることで、自分の中にあるわだかまりを消そうとしてたんだろうなあ。無理をすればするほど、不満は大きくなるというのに」


 そうだったのか。


 考えてみると、ジェロームのエリウッドに対する態度は、今にして思えば不自然なほどに従順だった。私心を隠し、完璧に平伏することで、自分の中の不満をなんとか押さえ込もうとしてたのかな……


 私は夜空を見上げ、もう一度グラディスに尋ねる。


「これから、パーミル王国はどうなってしまうのでしょうか……」


 グラディスも私と同じように夜空を見て、飄々と答えた。


「まあ、なるようになるさ」


 いつの間にか雲が出ていて、星も見えず、暗い夜だった。



 グラディスの予想通り、オルソン聖王国がいきなり襲撃してくるようなことはなかった。しかし、一度入った両国間の亀裂が修復することはなく、少し経ってから、オルソンとパーミルの間で何度か話し合いの場が設けられ、その結果、同盟関係を解消する調印式がおこなわれた。


 かくして、オルソンとパーミルの同盟関係は正式になくなった。

 それでも、オルソンが攻め込んでくることはなかった。


 理由は主に二つ。


 一つ目は、私こと『聖女マリヤ』の存在だ。


 オルソン聖王国の頑健な守備の象徴である正門を、一瞬で消滅させた私の破壊の力が彼らにもたらした心理的影響は絶大であり、決定的なチャンスでもない限り、真正面から事を構えることを恐れているらしい。


 そして二つ目の理由は、近隣国の存在である。


 北のラング王国は、パーミルだけではなく、オルソン聖王国の領土も虎視眈々と狙っており、オルソンが下手にパーミルと戦って消耗すれば、弱ったところをラングに攻めとられてしまう。だから、うかつに動けないのだ。


 唯一の懸念点は、オルソンとラングが手を組んでパーミルに攻め入って来ることであったが、それは無用の心配だった。潔癖症のオルソン聖王国と、ルール破り上等、実利至上主義のラング王国は、まさしく水と油。お互いに嫌悪しあい、絶対に相容れることなどなかったのである。


 そう言うわけで、ひとまずは平和が続いているが、東のダルモン合同集落がどう動くか分からないし、オルソンとパーミルの関係が壊れたことで、遠方の国々もこの地域の様子を伺っているという情報もある。決して、油断できる状況ではないことは、確かだった。


 そんな中、一つの時代の終焉が訪れた。

 療養生活を送っていたパーミルの国王が、眠るように息を引き取ったのだ。


 これにより、エリウッドが正式にパーミルの国王となったのである。


 先王を慕っていた国民たちは、しばしの間悲しみに暮れていたが、健康で、意欲に溢れ、リーダーシップのある若い王の誕生を、大いに歓迎する雰囲気でもあった。


 そう。

 エリウッドは、先王に負けないほど、国民たちに人気があった。


 オルソン聖王国との会食で、あのいけ好かない王子の顔を蹴飛ばしたことも、国民たちには好意的に受け止められていた。……皆、近年のオルソン聖王国の横暴な振る舞いに、苛立っていたからだ。


 軍事力の違いを背景にして、交易もオルソンに有利な条件が次々と設定され、商人たちも大きく鬱憤を募らせていた。今にして思えば、エリウッドも会談の場でいきなり癇癪を起こしたのではなく、前々から積もりに積もった不満が、あの場でとうとう爆発したという感じだったのだろう。

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