第41話
その、怯えた衛兵たちに対し、グラディスが声を張り上げた。
「見たか。これこそが、我がパーミルの偉大なる聖女、マリヤの力だ。オルソン聖王国の王子よ。あなたは先程、『パーミルなど、我がオルソン聖王国が本気になれば、一瞬で消し去ることができる』と述べていたが、本気で戦った場合、『一瞬で消え去る』のは、果たしてどちらかな?」
堂々としたグラディスの言葉に、オルソン聖王国の王子は何かを言い返そうとするが、結局、言葉に詰まってしまう。そして、意識的にか、それとも無意識にか、私たちからじりじりと距離を取り始めていた。
その顔色は、青い。
血の気が引くとは、まさにこのことなのだろう。
顔色が良くないのは、オルソン聖王国の王子だけではない。裸の衛兵たちも青ざめており、自らの身を守ろうとするかのように、何も持たない両手を少しだけ前に出している。
皆、噂を聞いて知っているのだ。
パーミル近辺にいた魔人たちを、たったの二週間で全滅させた私の力を。
だから誰一人として、こっちに向かって来る者はいなかった。
実際のところは、一度破壊の力を使ったら、さっき説明した通り、10分くらいは再発動できないので、今大軍に襲い掛かられたらどうしようもないのだが、彼らはそんなことを知らないので、グラディスが『ハッタリでビビらせてやろう』という作戦を思いついたのだ。
その作戦は、どうやら大当たりのようだ。そもそも彼らの士気は高くなかったし、何が何でも私たちを叩き潰したいと思っているのは、オルソン聖王国の王子くらいだろう。もう少し脅かしてやれば、きっと無事にここから帰ることができる。
グラディスは私の方を見て『どうやらうまくいきそうだ』とでも言いたげに頷くと、さらに威勢よく言葉を紡いでいく。
「何故、鎧と武器だけを消滅させたのかわかるか? これは、聖女マリヤの慈悲だ。今見た通り、彼女の破壊の力は、防ぐこともかわすことも不可能。やろうと思えば、ここにいる全員……いや、オルソン聖王国の全国民すら、たちまちのうちに消し飛ばすことができるのだぞ!」
喋ってるうちにだんだんテンションが上がってきたのか、グラディスの声はどんどん大きくなり、最後は強烈な恫喝となった。
『オルソン聖王国の全国民を消し飛ばすことができる』っていうのはちょっと言い過ぎではと思ったが、脅しの言葉というのは、これくらい大げさに言っておいた方がいいのかもしれないので私は黙っていた。
もはや完全に戦う気をなくしている衛兵たちを見回し、グラディスは声のトーンを下げ、今度は諭すように優しい声で言う。
「だが我々は、虐殺を望んでいない。残念ながら、今回のことで、パーミルとオルソンの長年の同盟関係はご破算だろう。今後のことは、お互い頭を冷やしてから、おいおい話し合おうじゃないか。では、我々は帰る。……追ってこようなどとは考えるなよ。消されたくなかったらな」
最後にもう一度すごんで、私たちは会食の場を後にした。
脅しの効果は抜群で、しばらくの間は誰も追いかけてこなかったが、馬車に乗り込み、正門を出ようとしたところで、どこからか湧いて来た新手の衛兵たちが、私たちの行く手を遮ろうとする。
きっと、食堂での騒ぎを知らない衛兵だろう。実際に私の破壊の力を見ていなければ、そりゃ、黙って正門を通してやるわけにはいかないわよね。
それじゃ、実際に見せてあげるとしましょうか。
私は馬車の小窓を開け、そこから手を出すと、最大出力で破壊の力を発動させる。もうさっき使ってから10分経っているので、パワーチャージは完璧だ。
大木ほどの直径がある巨大な黒い光の束が、衛兵たちの鼻先をかすめるようにして正門に直撃する。その一発で、オルソン聖王国の強固な守りの象徴とも言うべき立派な正門が、跡形もなく消え去った。
衛兵たちは、目の前で起こった現象に言葉を失い、へなへなとへたり込んでしまう。そんな彼らに、隣の馬車に乗っていたグラディスが、釘をさすように警告の言葉を浴びせる。
「いいか! 私たちを追撃しようなんてことは考えるなよ! どれだけ大軍を率いて来ても、今見た通りの破壊の力で、一瞬で消滅させられるだけだからな! ではごきげんよう! オルソン聖王国の諸君!」
そして私たちは、すっかり月がのぼった夜の街道を、馬車で駆け抜けていくのだった。……いくら走っても、追手が来る気配はない。どうやら脅しが効いているようで、オルソン聖王国は、少なくとも今すぐ私たちをどうこうしようという気はないようだ。
もっとも、今後のオルソン聖王国とパーミル王国の関係は、相当にこじれることは間違いない。私は、酔いが回りきってすっかり静かになってしまったエリウッドに対し、ため息を漏らしてから言う。
「エリウッド様、どうしてあんなことを? 確かに、オルソン聖王国の王子の態度はあんまりでしたが、それでも、パーミルの代表であるあなたがオルソンの代表を蹴飛ばしたりしたら、大変なことになるのは子供だってわかるじゃないですか」




