第40話
「なに? そうなのか、マリヤ? 破壊の力は、無限に使い続けられるのだろう?」
私はオルソンの衛兵隊に聞こえないよう、グラディスに耳打ちするようにして、その質問に答えた。
「それはそうなんですけど、実は私の破壊の力、ひとつだけ弱点があるんです」
「弱点だと? それは初耳だ」
「ええ。私の近辺警護をしてくれているジェロームにしか、まだ話してませんから」
「そうか。で、どんな弱点なんだ?」
「もの凄くシンプルな弱点ですよ。……連射できないんです。一回使うと、だいたい10分くらいは間を置かないと、再び力を発動することができないんです」
「ふーむ。ということは、一度破壊の力を発動させて、今目の前にいる敵を退けたとしても、どんどん増援がやってくれば、再度力を使う前にやられてしまうというわけか」
「そういうことになりますね」
「ちなみに、一度に消滅させられる敵の数はどれくらいだ?」
「限界に挑戦したことはないですけど、たぶん10体くらいかと……」
「向こうの衛兵隊は、この部屋にいるだけでも20人はいるな。うーむ、こりゃ参ったな。万事休すだ。まさか、こんなに早く人生最後の日が来るとは」
そう言う割に、グラディスは平気そうだった。
冷静にこちらとあちらの戦力を測り、何かを考えている様子である。
冷静といえば、向こうの衛兵隊も、ぎゃあぎゃあと喚いているオルソン聖王国の王子とは違い、あまり積極的にこっちを攻撃してくる様子はない。その表情には、悲壮感すら浮かんでいる。
「あの、グラディスさん。彼らはどうして、攻めてこないんでしょう?」
「簡単だよ。やりたくないのさ」
「やりたくない? 自分たちの王子が顔を蹴飛ばされたのに?」
「ふふっ、彼らだって、嫌味で横柄な馬鹿王子のことなんて、嫌いなんだろうさ」
くすくすと笑ってから、グラディスはやや真剣な顔で言葉を続ける。
「まあ、それは半分冗談として、オルソン聖王国とパーミル王国は最も近い隣国であり、交易的・軍事的なつながりも大きい同盟国だ。私だって、オルソンの軍人たちと何度も合同訓練をしたことがある。今槍を構えている衛兵隊の隊長とも顔見知りだ。そんな間柄で、いきなり殺し合いをしろと言われても、そうそうその気にはなれんよ」
「じゃあ、このまま事態が収まるかもしれないんですね」
「いや、残念ながらそうはならない。曲がりなりにも、王族が足蹴にされ、その王族が『奴らを殺せ』と命令したのだ。不本意でも命令に従うのが兵士というもの。あとしばらくすれば、戦端は開かれる」
「そんな……」
「そこでだ。私に良い作戦がある。マリヤ、お前の破壊の力、かなり精密な狙いをつけることが可能だったな?」
私は、頷いた。これまでの魔人・魔物討伐の経験で、部分的な破壊や、針の穴を通すようなコントロール技術を、私は身に着けていた。
グラディスも、満足げに頷く。
「よし、じゃあ、こういうことはできるか?」
私の耳に唇を近づけ、作戦の概要を伝えてくる。
少し考えて私は、「たぶんできると思います」と答えた。
「よーしよしよし。それじゃ早速やってくれ。後のことは私に任せろ」
「は、はい……あの……」
「なんだ?」
「もしも失敗したら……」
「やる前から失敗することを考えていては、成功するものもしなくなるぞ。なあに、心配するな。もし駄目だったら、お前ひとりくらいは私が担いで逃げてやる。二人の大臣は、ジェロームたちに守ってもらおう」
「エリウッド様は?」
「ここに置いて行くとしよう。確かにオルソン聖王国の王子の態度は最悪だったが、我が弟の言動も、相当に浅はかだった。ちょっとは反省してもらわんとな」
そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべるグラディス。
どう見ても、本気ではない。
実際は、命を懸けてエリウッドも守るつもりなのだろう。
この状況でよく冗談が言えるものだわ。
凄い胆力。こういう人を、女傑っていうのね。
彼女の軽口と頼もしい姿に、私の緊張もほぐれた。
よし。
いっちょやってみますか。
私は、今にも向かってきそうなオルソンの衛兵隊に狙いをつけ、破壊の力を発動させる。……いや、正確には、オルソンの衛兵隊そのものではなく、彼らの身に着けている甲冑と武具にのみ狙いを定め、破壊の黒い光を発射したのだ。
私の全身から、20本の黒い光の束が、うねるように射出され、それらは衛兵隊の甲冑と武器『だけ』を消滅させた。後に残ったのは、下着のみを身に着けた屈強な男たち。
よーしよし。
うまくいったわ。
敵『そのもの』を消し去ってしまうのは、せいぜい10体が限界だが、敵が身に着けている『装備だけ』に破壊の力を使うのであれば、かなり出力をセーブできるので、たぶん倍はいけると思ってたけど、やっぱり予想通りだった。
裸になった衛兵たちは、自分たちの身に何が起こったのかまだよく分かっていない様子だが、そこは経験豊富なつわものたち。装備が消えてしまったのが、手品でも幻覚でもないことをすぐに悟り、黒い光を嵐のように射出した私のことを、明らかに恐怖した目で眺め、立ちすくんでいる。




