第4話
「あ、なるほど。そういう考え方もできるんですね。差別意識バリバリのオルソン聖王国より、ずっといいかも。それに私、この世界に来たばかりで、何の身分証明もできないから、出自が気にされないっていうのは、助かるわ」
ホランドさんは「そうだね」と頷き、馬に軽く鞭を入れた。
少しだけ、馬車のスピードが上がる。
街道をよく見ると、先程までより平らで、石などの障害物がほとんどない。道の状態が良いから、少し先を急ぐことにしたのだろう。しばらく無言で進み続けた後、ホランドさんがまた口を開く。
「マリヤさんのさっきの魔法は凄かったから、あれを見せれば、すぐに二級市民の資格が貰えると思うよ。いや、もしかしたら、類まれなる魔法の才能の持ち主として、一級市民にしてもらえるかも」
「そうなったら嬉しいですけど、でも私、自分の意思であの『黒い光』をコントロールできる気がしないんです。さっきだって、なんであんなことができたのか、ハッキリ言って全然わからないし」
「そうなのかい? ん-……あっ、ほら、あれ、道の先、街道から外れたところに、大きな岩があるだろう? 試しにあれを狙って、さっきの『黒い光』で攻撃してみたら?」
「いやいやいや、ですから、自分の意思でコントロールできないんですってば」
「だからこそだよ。コントロールできるように、今のうちに練習しておかないと。パーミルについた時に、自分の意思で魔法を使えるようになってないと、能力を証明できないだろう? さあさあ、早くやってみせてよ」
そっか。
確かにその通りだ。
しかし、このホランドさんの、期待に満ちた顔。
私が魔法をコントロールできるようになるように……というのは建前で、ただもう一度、あの『黒い光』を見たいだけなのではないかという気がしてくる。
まあ、それでもいいか。
パーミルで市民権を得るため、そして、自衛のためにも、自分の意思で魔法を使えるようにならなければいけないのは確かなことだ。私は走り続ける馬車の中から大岩に狙いを定め、先程ヘルハウンドにそうしたように、『黒い光』を発動させた。
……つもりだったのだが、何も起こらない。
何かが起こる、気配すらない。
「えい」「やあ」と気合を入れ、あと二回ほど、発動を試みたが、やはり何も起こらず、馬車は結局、大岩の横を走り抜けてしまった。私は少々落胆し、ため息と共に言う。
「なんか、駄目っぽいです。さっきのは、ただの偶然だったのかも……」
「うーん、魔力の発動に、何か条件があるのかもね」
「魔法って、そういうものなんですか?」
「そういうものらしいよ。僕は魔法が使えないけど、何人か魔法使いの知り合いがいるから、少しは詳しいんだ。彼らが言うには、強力な魔法ほど、発動させるためには複雑な条件が必要だから、きみの『黒い光』も、そんな感じなのかもしれない」
「複雑な条件かぁ……私、さっき、何か変わったことやったかなぁ? はぁ、パーミルに着いても、その条件が分からないままで、魔法が全然使えなかったらどうしよう」
「まあまあ、そんなに気を落とさないで。一度はできたんだから、そのうち、自由自在に使いこなせるようになるさ」
何の根拠もない励ましではあるが、その気遣いが嬉しかった。
さっきも言ったが、このホランドさんに出会えて、本当に良かった。
食料を貰えて嬉しいとか、パーミルまで馬車で連れて行ってくれて助かるとか、そういう単純なメリットの話だけではなく(もちろんそれらもありがたいのだが)、異世界人にも親切で温厚な人がいると知れたことが、私にとっては、とても大きな収穫だった。
何せ、最初に会った異世界人たちが最悪すぎたので、もしかして、どこに行ってもあんな感じの人間ばかりかもしれないと思い、ずっと不安だったのだ。でも、ホランドさんみたいに優しい人もいるとわかったし、たぶん私、この世界でも、なんとか頑張っていける……と思う。
捨てる神あれば拾う神あり――
見てなさいよ、オルソン聖王国の差別主義者ども。すぐにあの『黒い光』の魔法を使いこなして、パーミル王国で成り上がってみせるんだから。
青空の向こう。
まだ見ぬ新天地に思いを馳せ、私はグッとこぶしを握り締めるのだった。
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それから、およそ6時間。
私たちはとうとうパーミル王国に到着した。
街道は途中から、きちんと舗装された道路になり、それまでの倍のスピードで馬車を走らせることができたのに、こんなに時間がかかってしまうとは……。徒歩だったら、ここにたどり着くまでに、いったいどれだけの時間が必要だったか、想像もしたくない。
いや、時間がどうこう以前に、水も食糧も持っていなかった私は、ホランドさんに助けてもらわなかったら、野垂れ死にしていてもおかしくなかっただろう。パーミル王国の門前にて、私は改めてホランドさんに感謝の言葉を述べる。
「ホランドさん、ここまで乗せてきてもらって、本当にありがとうございました」




