第36話
そんな私の緩んだ気持ちを読んだのか、ジェロームは顔を引き締めて諫める。
「マリヤ様、油断してはいけませんよ。確かに、パーミル近辺で魔物が出現することはなくなりましたが、馬車はもう国境を越え、今はオルソン聖王国の領地に入っています。最近は、空を飛ぶ……」
そこで、ジェロームは語るのをやめた。内側の小窓を開け、御者に馬車を止めるよう指示すると、私に「このまま馬車でお待ちください」と言って、一人で外に出る。
その後を追うようにして、私も外に出た。
すると、上空から、ギャアギャアというなんとも耳障りな声が響いてくる。
魔物だ。
コウモリとカラスとプテラノドンを足して三で割ったような、不気味な姿。数は四体。体長はそれぞれ2メートル近くもあり、ギラリと光る赤い目で、こちらを値踏みするように眺めている。
私は、すでに剣を構えているジェロームに対し、称賛の声を贈った。
「ジェローム、あなた、誰よりも早く魔物の気配を察知して、迎撃するために馬車を止めたのね。凄いわ。私なんて、全然気づかなかった」
「マリヤ様、危険です。何故出てきたのですか。『このまま馬車でお待ちください』と申し上げたはずですが……」
「まあまあ。魔物の四匹くらい、私の破壊の力を使えば一瞬で消し去れるわよ」
「それはそうですが、これから会談だというのに、ドレスが汚れでもしたらことです。ここは私にお任せを」
敵を前にして、平然と話している私とジェロームを見て、魔物たちは『舐められている』と思ったのか、こちらを威嚇するような鳴き声を轟かせ、一斉に襲い掛かって来た。私は破壊の力を発動させず、ただ黙って、ジェロームに任せることにした。
不安や怯えは一切ない。
この一ヶ月、魔人討伐にはいつもジェロームも同行しており、私は身をもって彼の強さを知っている。こんな魔物ごとき、ジェロームにとっては、飛んで来る蚊を叩き落とすようなものである。
私は一度、二度、深いまばたきをした。
そのまばたきが終わる頃には、戦いも終わっていた。
ジェロームは、飛燕の早業で四匹の魔物を斬り捨て、もう、鞘に剣を収めていた。
あまりの速さで、返り血を浴びることすらない。魔物には再生能力があるが、一瞬で急所を突かれて絶命してしまえば、当然再生は不可能だ。ほれぼれするような剣さばきに、私は思わず拍手をしてしまう。




