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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第33話

 私はジト目で言う。


「みっともない衣装で悪かったですね。新しい服を買おうにも、エリウッド様がくれた金貨じゃ、普通のお店で買い物できないし、メリンダの服を貸してもらおうにもサイズが小さいし、オルソン聖王国から貰ったこの服を着続けるしかなかったんですよ」


「普通の店で買い物できないだと? 何故だ? あの金貨ひとつあれば、小さな店舗なら店ごと買い上げることも可能なはずだが……」


「だから! 店ごと買い上げるような大掛かりなこと、したくないんですよ! 成金じゃないんですから、普通に買い物したいんです!」


「そうなのか。お前の言う『普通』というのが良く分からんが、思い通りにできるようにしよう。これからも、何か入用なものがあったら遠慮なく言え。なんでも用意する」


「伝承の聖女を、最高の状態にしておきたいからですか?」


「いや、これは純粋に、お前のためだ。お前には、不自由な生活をさせたくない。それだけだよ」


 エリウッドはそう言って、美麗な微笑を浮かべた。

 うっ……いきなりそんな優しい態度、ずるい……


 私は照れ隠しをするように、侍女二人がいそいそと動き続ける姿を見ながらエリウッドに問いかける。


「あ、あの、ところで、採寸とかしてないですけど、大丈夫でしょうか?」


「心配無用だ。グラディス姉上から、お前の体型は聞いている」


「いやいやいや、なんでグラディスさんが、私の体型を知ってるんです?」


「姉上は、人の体型を見極める達人だ。一目見ただけで身長体重を当て、二目見れば、服の上からでも寸分の違いなく正確なサイズを計測することができる。それはもはや、特技というレベルを超えて、お前の破壊の力同様に超能力とでも言うべき代物だ。間違いなくサイズは合うから、案ずる必要はない」


「へぇ……それは凄いですね……」


 純粋に感心しつつも、私の体型がエリウッドに筒抜けなことに気が付き、顔が赤くなった。そんな私を見て、エリウッドは笑う。


「何を考えているか知らんが、『お前の体型は聞いている』と言ったのは言葉のあやだ。正確には、グラディス姉上は俺にはお前の体型を教えず、わざわざ採寸表を紙に書き、それを服職人に送付したのだ」


「と、いうことは……」


「ああ。俺は、お前の体型については何も知らんということだ。何故こんな面倒なことをするのか姉上に尋ねたら、『いくら服を作るためとはいえ、自分の体型の正確な寸法を、男に言いふらされて喜ぶ女がいると思うか』と怒られてしまったぞ。そういうものなのか?」


「そういうものです。グラディスさんには『お気遣いありがとうございます』と言っておいてください」


「そうか。伝えておこう」


 そんなことを話しているうちに、侍女二人が、立派なドレスを持って私の前に来た。彼女たちの後ろには、先程までドレスが入っていた箱が、丁寧に片付けられている。


 さっきから、やたらと準備に時間がかかったのは、異常なほど厳重に梱包されていた箱を、壊さないように慎重に開けていたかららしい。


 そのドレスは、艶やかなほどに、黒かった。

 一見すると喪服のような、漆黒のドレス。


 しかし、喪服とは明らかに違う。荘厳でありながら、華麗であり、これが一流の品であることは、審美眼のない私ですらも、一目でわかった。


 エリウッドが、誇らしげに言う。


「どうだ、なかなかのものだろう。お前の美しい黒髪に合わせた、美しいドレスだ。これを着たお前は、さながら黒い聖女とでも言うべきか。……ふふふ、美しき黒い聖女の登場に、式典会場で待ちわびている一級市民たちも、目を奪われることだろう」


 何と返事をしていいか分からなかったが、エリウッドが私の黒髪を『美しい』と褒めてくれたことは嬉しかったし、素晴らしいドレスを用意してくれたことも、嬉しかった。だから一言、「ありがとうございます」と、素直に感謝の言葉を述べる。


 それから……


「あの、エリウッド様……」


「なんだ?」


「今から着替えますので、出て行ってもらえますか?」


「そうだな、すまん」


 そして私は、黒き聖女のドレスに袖を通したのだった。



 式典は、拍子抜けするほどつつがなく終わった。


 エリウッドの言っていた通り、私が一級市民になることに異議を唱える人はただの一人としておらず、私はこれ以上ないほどの大歓待を受けた。


 いや、『大歓待』と言うより、『悲痛な嘆き』と表現した方が適切かもしれない。豪華な衣装で着飾った一級市民たちは、華々しい装いとは裏腹に浮かない顔で、誰も彼もが私にひれ伏すように頭を下げ、『聖女様、どうか我々を魔人どもからお救いください』と哀訴してくるのである。


 彼らは、怯えているのだ。


 現在の、何不自由ない高貴な暮らしも、魔人が大挙して襲ってくれば、たちまちに終わってしまう。一級市民の権威も魔人には通用しないし、ボディーガードを雇ったところで、不死身の魔物たちから完全に身を守れる保証などない。

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