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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第32話

「ああ。それについては、歩きながら話そう。式典の時間が迫っている」


「式典?」


「お前への、一級市民権の授与式典だ。一級市民とは、他国の貴族に相当する立場。そう簡単に人数を増やすものではないから、新しい一級市民を迎え入れる場合、他の一級市民を集めて、新人が一級市民に相応しい人物かどうか見極めることになっている。面倒な行事だが、大切な行事でもある。だからこうして、俺も正装しているのだ」


 そう言ってマントを持ち上げ、歩き出すエリウッド。

 私も彼のあとに続きながら、会話を継続する。


「なるほど。それじゃあ私も、お行儀よくしてないといけませんね」


「いつも通りでいい。お前に猫をかぶった大人しい振る舞いができるとは思えんしな」


「ひどい。まあ、その通りかもしれませんけど」


「案ずるな。誰もお前が一級市民になることに異議を唱えたりはせぬよ。お前が伝承の聖女であるという噂は、すでに彼らの間にも広まっているからな。それでも、誰かがぶつくさと文句を言ってきたら、俺が黙らせてやる。胸を張って、堂々としていろ。聖女らしくな」


「それなんですけど、私、本当にその『伝承の聖女』なんでしょうか? たまたま破壊的な超能力が使える、ただの一般人かもしれませんよ?」


「相変わらずたわけたことを言う。破壊的な超能力が使えるのなら、それはもはや一般人ではないだろう。……お前の破壊の力、あれは詳しい調査の結果、魔法とは異質の力であることが分かった。魔法というものは、使用する際、大気中のマナという物質を魔力に変換して奇跡のごとき現象を起こすことは知っているな?」


「いえ、知りませんけど……」


「ええい、それくらい知っていろ。この世界の一般常識だ。……こほん、話を戻すぞ。お前の破壊の力からは、今述べた魔力変換の反応が一切検知されなかった。つまりあれは、マナを必要としない、純粋な超能力というわけだ。調査に当たっていた魔導師たちも驚いていたよ。『この力は我々の理解を超えています』とな」


 ふーむ、そういえばメリンダも、火水土風――四大元素のどれにも属さない、完全な破壊のための魔法なんてこの世に存在しないって言ってたっけ。


「我々の理解を超えた力を平然と振るう、異世界よりの来訪者。これが聖女でなくてなんとする。お前はパーミルだけではなく、人類の希望となるかもしれん。これからも期待しているぞ」


「人類の希望って……随分話が大きくなりましたね」


「冗談で言っているのではないぞ。最近、魔物の出現件数が目に見えて増えているからな。どこの国も、自国民への被害を減らそうと躍起になって魔人討伐をおこなっているが、たとえ見つけ出したとしても、魔人を倒すのは容易ではない。このまま、魔人が続々と現れ続ければ、遠からぬうちに、人類は滅亡するだろう」


「それは……恐ろしい話ですね。そういえば、あの魔人ゴーファ、すました顔で言ってましたよね、人類には罰を与える存在が必要だって。魔人の目的は、人類の滅亡なのでしょうか?」


「さあな。なんにせよ、そうやすやすと滅ぼされてたまるか。さて、そろそろ式典会場だが、中に入る前に、お前には着替えてもらうぞ。伝承の聖女が、この国の有力者たちの前に初めて姿を現すのだ。それなりの恰好をしてもらわなければな」


「は、はあ……」


 エリウッドに促され、私は通路の脇にある部屋に入った。


 そこは、いつだったかテレビで見た、海外の豪邸のクローゼットルームを彷彿とさせる部屋だった。煌びやかなドレスや装飾品があちこちに飾られており、眩しいほどである。


 部屋の中で待機していた二人の上品な侍女が、エリウッドと私に丁寧に頭を下げた。きっと彼女たちが、私の着替えを手伝ってくれるのだろう。


 助かったわ。どんなドレスを着せられるのかわからないけど、たぶんきつめのコルセットとかもつけなきゃいけないから、一人だと苦戦は必至だものね。


 エリウッドが、侍女の一人に向かって言う。


「あれはできているか?」


 侍女は、高原に吹く風のようにしとやかな声で答える。


「はい、ただいまお持ちいたします」


 そう言って、侍女二人は、いそいそと何かの用意を始めた。

 私は耳打ちするようにしてエリウッドに尋ねる。


「あれってなんです?」


「聖女の衣装だ。王族御用達の服職人に一流の素材を与え、最高の仕事をさせた特注品だぞ。一週間前に頼んだのに、昨日の時点でまだ完成してなくて焦ったが、何とか間に合ってよかった」


「私のために……そこまで……」


「別にお前のためではない。何といっても、今日は伝承の聖女のお披露目会だぞ。みっともない衣装ではみっともない式典になってしまうからな。最高の品で、最高の式典にしたいだけだ。重ねて言うが、別にお前のためではない」


 ああそうですか。

 一瞬感動して損した。

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