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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第30話

 私の声真似がおかしかったのか、ジェロームは口に手をやって微笑した。


「ふふっ、各商店の店主も、それは困ったでしょうね。その金貨は、普通の商店で使うような通貨ではありませんからね。両替するにも、王家の認可を受けた金融機関に持っていかなければなりません。その際、不正な手段で入手したものでないか詳しく調査されますから、よっぽど素行に自信のある商人以外は、敬遠するでしょう」


「ふ~む、なるほどね~。貰っておいてなんだけど、エリウッド様はなんでそんな使いにくい金貨をくれたのかしら」


「殿下は一般市民の利用する店で買い物などされませんから、この金貨が、まさかそれほど使いにくいものだとは夢にも思わなかったのでしょう」


「そっかぁ、さすがは王子様。世俗の垢とは無縁の高貴なる暮らしってやつね。……ジェローム、あなたも王族なのに、一般市民の暮らしに詳しいのね」


 何気なく述べた言葉だった。だがその言葉で、ジェロームの顔に寂しげな影が差した気がした。しかしそれも一瞬のことで、ジェロームは先程までと変わりない様子で、滔々と話し続ける。


「王族と言っても、私は所詮妾の子。王宮に住んでいるわけでもありませんし、世俗の垢にまみれた、ごく普通の暮らしをしています。一般市民と、さほど変わりませんよ」


 しまったな……


 エリウッドから、ジェロームとグラディスの複雑な出自を聞いていたのにもかかわらず、つい無神経なことを言ってしまったと反省する。私の述べた『世俗の垢』という言葉を使って、自らの立場を言い表したジェロームの内心は、怒っているのか、それとも私に呆れているのか、判断がつかなかった。


 私は慌てて頭を下げる。


「ごめんなさい、ジェローム。私、無神経なこと言っちゃったわね……」


 ジェロームは何も答えない。


 ああ、馬鹿な私。

 せっかく仲良くなれたのに、不用意な発言で、信頼関係を駄目にしてしまった。


「あの……ジェローム……」


 追いすがるような気持ちで彼の名前を呼ぶ。

 すると、無表情だったジェロームが、くすくすと笑いだした。


「ふふっ、マリヤ様。まるで親とはぐれた子供のような顔をなさるのですね」


 ジェロームは端正な唇を手で隠すようにしながら、笑い続けている。


 まさか……これは……


「あなた、私のこと、からかったの?」


「申し訳ありません、その通りでございます」


 怒りと羞恥で、自分の顔がカッと赤くなるのが、鏡を見なくてもよく分かった。


「信じらんない! あなたを傷つけたと思って、本当に後悔してたのに!」


「あの程度の言葉で傷ついていては、とても王宮で務めを果たすことなどできませんよ。……ただ、純粋なイタズラ心であなたをからかったわけではありません、これは、戒めです」


「戒め?」


「私にはどんな軽口をきいても構いませんが、この王宮には、接するべき態度を深く考えなければならない方がいます。マリヤ様、あなたは少々、思ったことをそのまま口に出しすぎる。これからは発言する前に、一度頭の中で文章を咀嚼していただきたい。それが、あなたの身を守ることにつながります」


「接するべき態度を深く考えなければならない方って? 誰?」


「じきに、お会いすることになるでしょう。いいですかマリヤ様。くれぐれも、これからは軽挙妄動は謹んでください。くどいようですが、あなたのためなのです」


 ジェロームの表情は真剣そのもので、本当に私のことを案じてくれているのが伝わってきた。なので単純な私は、からかわれたことを許すことしたのだった。


「ね、ところで、いつの間にか私、あなたに対して随分気安い口をきいてるけど、『私にはどんな軽口をきいても構いません』ってことは、このままでもいいってことかしら?」


「当然です。パーミルの聖女となるあなたは、私的にも公的にも、私より上の立場となるのですから。序列的には、大臣たちですら、あなたより下の身分です」


「う~む、大臣よりも偉い、パーミルの聖女かぁ。ほんのちょっと前までは市民権すらなかったのに、あっという間の成り上がりっぷりね。豊臣秀吉もびっくりだわ」


「マリヤ様、あまり調子に乗りすぎませぬように。過去の歴史を紐解いてみても、急激に成り上がった者が、思いあがった行動で身の破滅を招いた事例は多々あります。先程も申し上げましたが、軽挙……」


「はぁい、軽挙妄動、慎みま~す」


 我ながら、ジェロームに対しては、やたらと軽口が飛び出てくる。

 少し考えて、自分が彼に甘えているのだということに気が付いた。


 恐らくジェロームの年齢は、私より1歳か2歳上といったところだろう。私には兄弟がいないけど、もしかしたら年の近い兄に甘えるというのは、こんな感じなのかもしれない。


 私たちはその後も、謁見の間へと歩みを進めながら、あれこれと話をした。

 その背中に、聞き覚えのある声がかけられる。


「随分と楽しそうだな」

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