第29話
しかし、『気高い』とまで言われて、なんだか無性に恥ずかしくなった私は、あえてからかうような言葉を返してしまう。
「ジェロームさん、あなた、初めて会ったときは寡黙な人だと思ったけど、意外とお喋りなのね」
「これが素です。あの時は、私以上にお喋りなグラディス姉上を諫めるため、これでも気を張っていたんですよ。その努力も虚しく、姉上はあなたにあれこれと喋り、あっという間に素顔まで晒してしまいましたが」
「そういえば、今日はグラディスさんは?」
「近衛騎士団の団長として、任務を果たしています」
「任務って? 具体的には?」
「王太子殿下の警護、魔物の探索と討伐、そして新米騎士たちの訓練、この三つでしょうか。ああ見えて、忙しい方なのですよ」
「そうなんだ……ふふっ」
「何か面白かったですか?」
「ううん、ごめんなさい。今日は本当に、聞いたことを全部、素直に話してくれるんだなと思って。あなたって、もっと冷たい人だと思ってた」
「今さっき『これが素』だと言ったでしょう。私はもともと素直な人間ですよ。それに、これからのことも考えて、あなたと積極的にコミュニケーションをとっておいた方がいいと思いまして」
「これからのことって? どういうこと?」
話しながらも歩き続ける私たち。
いつの間にか、王宮の敷地に入っていた。
美しく整備された前庭の先には、正門がそびえ立っており、二人の屈強な門番が槍を持って、直立不動の姿勢をとっていた。ジェロームが彼らに向かって片手をあげると、二人の門番は頭を下げ、正門を開く。
正門をくぐりながら、ジェロームは黒いフードをはずして、話を続けた。
「あなたはこのパーミルにとって、王族に次いで重要な人物となります。それ故に、これからは常に警護がつくことになります。いかにあなたの破壊の力が強力でも、寝込みを襲われてはどうしようもありませんからね」
「はぁ、なるほど……」
「そして、あなたの警護を担当するのは恐らく、近衛騎士団副団長の私でしょう。ですからこうして、親睦を深めようとしているのです」
「えっ、ちょっと待って。こういうのって、普通は同性の人が警護につくんじゃないの? ほら、夜とか、寝室を守ってもらうわけになるんだから……」
「おっしゃることはわかりますが、そういうわけにはまいりません。近衛騎士団に女性は数えるほどしかいませんし、皆、まだ半人前です。とてもではありませんが、あなたの警護を任せられはしない」
「じゃ、じゃあ、グラディスさんに守ってもらうってわけには……」
「姉上は近衛騎士団団長として、エリウッド殿下の護衛任務があります。あなたにつきっきりになるわけにはいかないことくらい、少し考えればわかると思いますが」
「ですよね」
「マリヤ様、私が警護役では、ご不満ですか? これでも私は、この国随一の剣の使い手であると自負しております。いかなる魔手からも、あなたをお守りいたしますよ、この命に代えても」
王族であるジェロームに『この命に代えてもあなたを守る』とまで言われて、これ以上不満など言えるはずがない。私は黙って頷いた。
……実のところ、そもそも不満などない。
最初は苦手だったジェロームに対しても、ここまでの会話で、かなり親近感を抱いている。エリウッドも、ジェロームは剣の達人だと述べていたし、この国において、ジェロームに身辺を警護してもらう以上に安全なことはないのだろうと思う。
ではなぜ私がゴチャゴチャとゴネたのか。
ものすごく俗っぽい理由で恐縮なのだが、理由はジェロームの顔だ。
美しすぎる。
鮮やかな赤い髪。
鋭くも凛々しい瞳。
高い鼻、整った唇。
その美貌を隠していたフードを脱ぎ去った今、改めて圧倒されてしまう。
まさしく、西洋の絵画から飛び出したかのような美青年。
そんな美青年が四六時中――時には寝室までも警護するとなれば、意識しない方がおかしいのではないだろうか。私だって、年頃の女の子なんだし……
見たところジェロームには、私を意識するそぶりはなさそうに感じる。そう思うと、一人で勝手に盛り上がっている自分が急激に恥ずかしくなってきた。
気分を切り替えるために、私は話の内容も変えることにした。
懐から、一枚のコインを取り出し、ジェロームに見せる。
それは、一週間前エリウッドに貰った、あの特殊金貨だった。
キラリと光る金貨を見て、ジェロームは口を開く。
「それは……王族が使う金貨ですね。エリウッド殿下にいただいたのですか?」
「ええ。それで、その、この金貨、普通のお金に両替できないかしら。これ一枚で、凄い価値があるみたいだから、気安く使えなくって、困ってるのよね。どこのお店で出しても、『アイヤー、そんなの出されても困るヨ』みたいなこと言われちゃうし」




