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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第28話

 そんな私の心の内を読んだかのように、ジェロームは言う。


「彼らは、私を見ているのではありません。マリヤ様、あなたを見ているのです」


「私を?」


 ジェロームは前を向いたまま頷いた。


「伝承の聖女が出現したという噂は、すでに民衆の間に広まっています。彼らは、聖女の名前や詳細な情報は知らないでしょうが、その容貌については、多少なりとも知っているでしょう。だから噂の聖女と同じ長い黒髪のあなたを見て、『もしかしたらあの方がそうなのでは……』と囁き合っているのです」


「はぁ……なるほど……。言われてみれば、ここ数日間、通りを歩いてると、やけに人の視線を感じることが多かったかも……。私、そんなに目立ちたがりじゃないから、噂の的になるのって、なんかやだなあ……」


「案ずるには及びません。もう、コソコソと噂されることはなくなるでしょう。本日は、一級市民権の授与式をとりおこなうと共に、あなたがパーミル王国の聖女であるという御触れを正式に公布することになっていますから」


 ジェロームはそこで一度言葉を切り、顔をこちらに向けて話を続ける。

 黒いフードの下で、彼の精悍な眼差しが私を真っすぐに見ているのが分かった。


「これからあなたは、単純な一級市民よりも上の立場、――つまりは、この国の王族に準ずる地位となりますので、行動には細心の注意を払ってください。特に、あの破壊の力をみだりに使ってはいけませんよ。あの力を一般市民が目の当たりにしたら、聖女に対する敬意より、恐怖心の方が上回ってしまうかもしれませんから」


「心配しなくても、人に向かってあの力を使ったりしませんよ。私、そもそも争いごとは好きじゃないですから。こう見えて、素直な性格ですし」


「素直さは認めますが、先日、エリウッド殿下に膝をつかなかったことから察するに、あなたはかなりの反骨心も持ち合わせているように思います。権威に屈しない心根は立派ですが、その気性は、何かのはずみで争いの元となりかねません。今後はどうか、深く考えを巡らせて行動していただきたく存じます」


 なんだか、遠回しに馬鹿にされているような気がして、私は口を尖らせた。


「それじゃまるで、私が考えなしのイノシシ女だって言ってるみたいね」


 自然と口調が変わり、敬語が消える。

 これが、ジェロームの言うところの、私の『反骨心』というやつなのだろう。


 そんな私とは違い、ジェロームは相変わらず丁寧な話し方だが、どこかからかうようなニュアンスで言う。


「そこまでは申し上げておりません。少々浅はかだとは思っていますが」


「ハッキリ言うわね、嫌な人」


 ……と口で言いつつ、意外にも不愉快ではない自分に少し驚く。


 何故だろうと少し考えて、その理由が分かった。ジェロームの言葉には、こちらを侮辱する悪意が含まれていないのだ。私の勘違いでなければ、いたずらな軽口の中に、こちらに対する好意すら感じる。


 黙ってしまった私に、ジェロームは少しだけ真剣な声色で話を続ける。


「マリヤ様、この間、王宮で謁見の間に入ったとき、どう思いました?」


 質問の意図がよく分からないので、私は思ったことを素直に答えた。


「そうね……オルソン聖王国の『王の間』と比べるとこじんまりとしてたけど、やっぱり立派で、まあ、まさに『謁見の間』って感じだったわね。私、あんなところに招かれるのは初めてだったから、プレッシャーみたいなのを感じたわ」


「当然です。謁見の間というものは、王族の権威を示し、拝謁する者に対して、少なからず威圧感を与えるように作ってあるのですから」


「へえ……」


「たとえ王侯貴族でも、他国の王族と謁見する際には、それなりのプレッシャーを覚悟するもの。平民であれば、初めて謁見の間に入った場合、どんなに気の強い者でも、その雰囲気にのまれ、ひれ伏してしまうのが普通です。しかしあなたは、私に膝をつくように言われてなお、抗った」


「あはは……あれは……その……ちょっとムキになっちゃって……」


「いえ、あれは、単にムキになったのとは違うと思いますよ。あなたの目には、確固たる強い意志と、誇りがあった」


「…………」


「私も最初は、『この娘は自分のやっていることの意味が分かっていないのではないか』と思いましたが、あなたの目を見て、そうではないことが分かりました。……あなたは気高い。決して、他人にへりくだったりしない。あの時、たとえ近衛兵に囲まれて平伏することを強要されたとしても、言いなりにはならなかったでしょう」


 びっくりした。


 私のことをあまり良く思ってはいないだろうと思っていたジェロームが、ここまで私のことを褒めてくれるとは。……いや、褒められてるのとはちょっと違うのかな? 頑固な私に対して、呆れてるだけかもしれない。

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