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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第24話

 私も時計を見る。


 えっと、出発したのが確か、朝の9時過ぎだったから、馬車での移動、洞窟内の探索、そして魔人ゴーファとの戦いも含めて、だいたい3時間くらいかかったのね。


 とにもかくにも、大きな問題もなく魔人討伐が完了してよかったわ。


「これで、街道を行く人々が襲われることもなくなるでしょうし、一件落着ですね」


「ああ。だが、最近魔物たちの動きが妙に活発でな。またいつ、ゴーファのような魔人が出没するか分からん。常に気を配り、もう二度と、我が臣民に被害が出ないようにしないとな」


「そうですね。ああ、それにしても、お腹すいたなあ」


 朝に食べたエネルギースフィアの腹持ちは抜群であり、今の今まで空腹感を覚えることもなかったが、魔人討伐が終わってホッとしたのもあり、急にお腹がすいてきた。


 物欲しげな顔でお腹をさする私の様子がおかしかったのか、エリウッドは小さく微笑んだ。


「激しい戦いだったから、俺もかなり腹が減った。お前と一緒に食事でもとりたいところだが、城に戻ったら、まずは大臣連中と、午後の定例政策会議をおこなわなければならない。マリヤよ、お前は疲れただろう。午後は自由に過ごし、心と体を休めるといい」


「はい、そうさせてもらいます。……それにしても、お腹がすいてても、食事の前に会議をしなきゃいけないなんて、王子様って、大変なんですね」


「それが、人の上に立つ者の責任というものだ」


「でも、今日は魔人討伐で疲れてるんだし、今だけは、誰かに代わってもらうとか、できないんですか?」


「もちろん、できないことはない。しかし俺は、軽々しく責任を放棄するような真似はしたくないのだ」


 ふうん。しっかりしてるなあ。

 エリウッドの責任感に感心しながら、私はちらりと窓の外を見た。


 馬車はスピードを落とし、パーミル市内の大通りをゆっくりと走っている。この調子なら、あと十分程度で王宮に到着するだろう。そろそろ降りる準備をしておかないと。


 そう思い、襟を正す私に、エリウッドはささやかなため息を漏らし、呟いた。


「……しかし、マリヤよ。敬語はやめろと何度も言ったのに、結局、言葉遣いをあらためてはくれなかったな」


「い、いや~、そう言われても、やっぱり王子様に気安い口をきくのはちょっと……」


「ほら、それだ。その『王子様』というのも気に入らん。だが、ゴーファとの戦いの最中、一度だけ『エリウッド』と呼び捨てにしたな。あれは嬉しかったぞ」


「えっ? 私、そんなこと言いましたっけ?」


「覚えていないのか? あのゴーファ相手に叫んでたじゃないか。『エリウッドはもう限界だわ! ここからは私が相手よ!』とな」


「ああ……そういえば、そんなこと、言ったかも……でも、あれはゴーファに対して言ったことだから、王子様を呼び捨てで呼んだわけじゃなくて……実質的にノーカウントというか……」


「なんだ、そうなのか。つまらん」


 ごにょごにょと呟く私に、エリウッドは子供のように口を尖らせた。

 しかし、すぐに気を取り直したらしく、私に向き直り、言葉を続ける。


「……まあいい、確かにお前の言う通り、今日会ったばかりで、気安い口をきくというのも、難しいものかもしれん。気長にいくとしよう。呼び方も、言葉遣いも、態度も、これから少しずつ崩していってくれ。よいな?」


「は、はあ、まあ、できるだけ頑張ってみます……」


 頑張って態度を崩すというのも変な話だが、それでエリウッドが喜ぶのなら、努力してみる価値はあるだろう。頷く私に、エリウッドは懐から取り出した何かを手渡した。


 それは、キラキラと輝く金貨だった。


「何にしても、今日はご苦労だったな。これで、なんでも好きなものを食べるといい。どこの店でも、足りないということはないはずだ」


「あ、どうも……」


 五百円硬貨を一回り大きくしたサイズ感のその金貨は、たったの一枚でズシリと重たい。こうして触れているだけで、『特別なお金』という感じが伝わって来る。なるほど、これならどんな店でも支払いができるだろう。


 こうして私は馬車を降り、一人で大通りの飲食店街に行くと、簡素な露店で食事をすることにした。……豪華なお店ではなく露店を選んだのは、なんとも食欲をそそる匂いが、その露店から漂ってきたからである。


 露店が主に取り扱っているのは、麺類のようだった。


 見た目はラーメンによく似ているが、香辛料の風味が強く、やはり似て非なるものである。どちらかといえば、東南アジア系の麺料理に近いかもしれない。


 他のお客さんが食べているのと同じものを注文すると、お金を取るより先に料理が出てきた。『支払いは食べ終わってからでいい』ということか。私はぺこりと頭を下げると、木製の長い箸を手に取り、麺をすする。

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