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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第23話

「……数年の時をかけ、祈祷師はどこからか一人の女性を連れてきた。それは、美しく気品のある、赤毛の女性だったそうだ」


 赤毛……グラディスとジェロームも、鮮やかな、美しい赤毛の持ち主だ。

 恐らく、その赤毛の女性が、二人の母親なのだろう。


「パーミルでは、一夫多妻は許されない。それは、王族とて同じこと。だから名目上、赤毛の女性は、王に仕えるメイドという形で、妾になった。いくら高名な祈祷師が連れてきた娘とはいえ、父上の体に問題があるのだから、子供など生まれるはずがないと皆思っていたらしいが、驚くことに赤毛の女性は、父上の寵愛を受けた後、すぐに女児を出産した」


「それが、グラディスさん、なんですね」


「そうだ。姉上の出産で、世継ぎの誕生に希望を見出した父上は、さらに励み、その三年後には念願の男児――ジェロームが産まれた。父上も、大臣たちも、大いに喜んだが、そのことによって、俺の母上――王妃リザベルトの心に狂おしいほどの嫉妬心が芽生えてしまった」


「嫉妬心……」


「先程も述べたが、パーミルでは一夫多妻は許されていない。夫が同時に二人の女を愛するということは、妻にとって、これ以上ないほどの屈辱なのだ。しかしそれでも、母上は妾の存在を許した。自分が子を産めなかったという負い目があったからだろう。……だが、妾が王の世継ぎとなる男児を産んだことで、母上の中で、何かが壊れてしまった」


「…………」


「母上は、もともとは優しい人だったそうだが、ジェロームの誕生以降、目に見えて奇行や、残虐な振る舞いが増えた。父上はこれに心を痛め、昼夜問わず、母上と過ごす時間を大幅に増やした。……そして、俺が産まれた。父上の生殖能力に問題があるという医師の診断は、誤診か、あるいは、一時的なものだったのだろう」


「エリウッド様が産まれたことで、王妃様の嫉妬心は落ち着いたんですか?」


「表面上はな。しかし、妾である赤毛の女性と、その二人の子供――グラディス姉上とジェロームに対する母上の憎悪は、凄まじかった。母上は幼い俺をよく抱き寄せ、グラディス姉上とジェロームを指さしながら、『あいつらは汚らわしい赤毛の簒奪者よ』と言っていたよ」


「簒奪者?」


「『王位を奪う者』という意味だ。俺自身は、赤毛の女性も、姉上も、ジェロームことも好きだったから、母上がその三人を悪く言うのは、聞いていてとてもつらかった……」


「あの、ちょっといいですか?」


「なんだ?」


「さっきから『赤毛の女性』『赤毛の女性』って言ってますけど、その人の名前、なんていうんですか?」


 エリウッドは、黙った。窓に視線を向け、流れゆく景色をしばらく眺めた後、再び私に向き直り、小さなため息を漏らす。


「……なるべくなら、お前に教えたくはない。グラディス姉上とジェロームの出自について語るため、ある程度は話さなければいけなかったが、できればこれ以上、赤毛の女性については知らない方がいい」


「えっ、なんでです?」


「これからお前には、俺のそばで色々と働いてもらうことになる。となれば自然と、母上――王妃リザベルトと顔を合わせる機会も増えるだろう。その際、赤毛の女性については詳しく知らない方が、平穏に過ごすことができる」


「い、いや、だから、なんで赤毛の女性について知ってたら、平穏に過ごせなくなるんですか?」


「……母上は、王宮内の人間に、赤毛の女性について語ることを禁じている。名前どころか、少し話題に出しただけで厳罰に処されるのだ。俺だって、馬車の中という閉鎖空間でなければ、こんな話、するものか」


「話題に出しただけで厳罰って……」


「今、王宮内では、赤毛の女性は、もともと存在しなかったものとして扱われている。……マリヤ、お前は物怖じせず、なんでも口に出してしまうからな。もし赤毛の女性について色々と知っていたら、母上と会ったとき、恐らく、あれこれと尋ねてしまうだろう。だが、最初から何も知らなければ、その心配はない」


「わ、私、そこまで単細胞の、知りたがり女じゃないつもりなんですけど……!」


「気分を害したなら謝る。しかし、母上は恐ろしい人だ。不用意な発言をして、一度睨まれたら、俺でも庇いきることはできない。頼むからこれ以上、赤毛の女性については聞かないでくれ。お前のためなんだ」


「はぁ……じゃあ、まあ、分かりました……」


 グラディスとジェロームの複雑な出自を知り、彼女たちの母親である『赤毛の女性』にも大きな好奇心が湧いたが、エリウッドがそこまで言うのなら、これ以上聞くのはやめておこう。意地悪で教えてくれないんじゃなくて、本心から私のためを思って言ってくれてるみたいだしね。


 そして気がつけば、馬車は今まさに、パーミル王国の正門を通過するところだった。話し込んでいるうちに、いつの間にかここまで戻ってきたようだ。


 エリウッドは軽く咳払いし、馬車内に設置された時計を見ながら言う。


「ふむ、パーミルに到着したようだな。昼前には戻ってくるつもりだったが、正午を五分ほど過ぎているか。魔人討伐に、思ったより時間がかかってしまった」

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