第22話
「いや、そもそもが、ロナルークの真の力を発動させなければ魔人に勝てないという時点で、俺は未熟なのだ。だいたい、もともとはお前の実績作りのためにやって来たというのに、ついムキになってしまった。俺一人で魔人を倒してしまったら、色々と台無しだ。だから、お前が自分で判断して動いてくれて、本当に良かったよ」
「そう言ってもらえると、助かります……」
「ちょうどいいことに、近衛兵たちが『黒い光』の凄まじい力を、間近で見ていたからな。彼らの口からあっという間に噂は広まり、お前の名声は一気に高まるだろう。何せ、『窮地の王子を救った』というおまけつきだ。実にドラマチックで、『伝承の聖女』の登場としては理想的だぞ」
「それなんですけど、私、本当にその、『伝承の聖女』なんでしょうか? 聖女って、言葉の響きからして、もっと清らかな、聖なる癒やしの力っぽいのを使うイメージなんですけど」
「まあ、普通はそうかもしれんな。しかし、必ずしも人を癒やすことだけが、聖なる力というわけでもあるまい。破壊の力でも、使いようによっては人々の暮らしを助け、幸せにすることができる。現に俺は、お前に助けられたわけだしな」
「でも、王子様の場合は、私が助けなくても、えっと、なんでしたっけ? 聖剣ロナルークの真の力さえ発動すれば、勝ってたわけですし……」
私の言葉を受け、エリウッドは小さく含み笑いをした。
……どこか自嘲的な笑みだ。
彼はポンポンと二回、私の肩を叩いてから洞窟の入り口方面を指さし、『続きは歩きながら話そう』と促すように顎をしゃくってから、歩き出した。
確かに、いつまでもこんなところで立ち話をしているのも何である。
私はエリウッドに続いて歩き出した。
そして、エリウッドは話を続ける。
「ふふ、さっきの俺の語り口だと、あのままゴーファと戦いを続けていれば、まるで確実に勝っていたように聞こえただろうが、実際の勝率は、七割から六割強といったところだった。正直言って、お前が助けてくれて、悔しいことは悔しかったが、それ以上に、ホッとしたよ」
勝率、七割から六割強……
決して低くはないが、安心していられる数字でもないわね。
「聖剣ロナルークは、持ち主が疲れ、窮地に陥らねば真の力を発揮しない。マリヤよ、それが、何を意味するか分かるか?」
少し考えたが、わからなかったので、私は小さく「いえ」と答えた。
「それはつまり、真の力を発揮したとき、剣を振るう持ち主は、すでにヘトヘトだということだ。いかに一撃必殺の剣とはいえ、ヘトヘトの状態で、あの素早いゴーファに攻撃を当てるのは容易ではない。一太刀すらかすりもせず、逆に、疲れ切った体に、致命的な反撃を食らう可能性も充分にあった」
「な、なるほど……そう考えると、疲れ切らないと真の力を発揮しない武器って、厄介ですね」
「まったくもってその通りだ。しかし、真の力を発揮していない状態でも、聖剣ロナルークは素晴らしい武器だ。俺みたいな未熟者ではなく、ジェロームのような剣の達人が扱えば、あのゴーファごとき、さほど苦労せずに倒すことができただろう」
「へえ、あのジェロームさんって、そんなに強いんですか?」
「それはもう、俺など比較にならんよ。幼い頃は、彼に良く剣術を教えてもらったものだ。年も近いし、チャンバラ遊びの延長線のような感じでね。あの頃は、ジェロームとの関係も良好で、毎日が実に楽しかった……」
ちょっと、引っかかる物言いだった。
『あの頃は、ジェロームとの関係も良好で』
……と言うことは、今は関係が良くないのだろうか?
気がつけば、私は思ったことを、そのまま口に出していた。
「今は、ジェロームさんと、あんまり関係が良くないんですか?」
エリウッドは少しだけ沈黙した後、振り返らずに、前を向いたまま頷いた。
「そうだ。父上が体調を崩し、政治権限を三人の子――俺と、グラディス姉上と、ジェロームに譲り渡したことで、俺たち兄弟の関係は、一変してしまった」
「あの、前から気になってたんですけど、グラディスさんとジェロームさんも王族なのに、どうして近衛兵をやってるんですか? これって、かなりめずらしいことですよね?」
私の問いに、エリウッドは「そうだな」とだけ答え、黙って歩き続ける。
そして、やっと洞窟の入り口の光が見え始めたころ、再び口を開いた。
「姉上とジェロームは、俺と違い、王妃の子ではないからだ……」
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洞窟からの帰り道。
馬車の中。
私はエリオットと肩を並べて座っている。
エリオットは、ぽつ、ぽつと、まるで心の中そのものを、少しずつ吐露していくように、語りだした。
「父上と母上には、長らく子が生まれなかった。医師の診断では、父上の方に問題があり、子供を授かるのは難しいとのことだったが、世継ぎが誕生しなければ、国が乱れるのは必定。それゆえ、高名な祈祷師に頼み、子宝に恵まれる可能性のある女性を探させた」




