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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第21話

 私は一度だけ大きく息を吸い、叫んだ。


「ゴーファ! こっちを見なさい! エリウッドはもう限界だわ! ここからは私が相手よ!」


 しかしゴーファは、こちらをちらりとも見ず、愉悦の表情を浮かべてエリウッドを攻め続けている。私のことを、エリウッドのおつきでやって来た従者か何かと考えており、歯牙にもかけていないのだろう。


 その、人を見下しきった態度に、私の怒りは膨れ上がった。それと同時に、『黒い光』が溢れだし、まさに怒りの具現といった感じで、爆発的に膨れ上がる。そこでやっと、異様な雰囲気を察したのか、ゴーファは私を見た。


 だが、もう遅い。


 私を見るのと同時に、ゴーファの体は『黒い光』に飲み込まれ、跡形もなく消滅した。……残念ね。さっき呼びかけた時、真剣に私のことを警戒してさえいれば、あなたの人間離れした素早さならあるいは、『黒い光』を回避することもできたかもしれないのに。


 とにもかくにも、それで戦いは終わり、疲労困憊のエリウッドに、私は近づいた。頑丈な甲冑に守られ、生傷こそないものの、何度もゴーファに蹴られていたので、相当にダメージが溜まっているだろう。


 治療してあげたいが、無念ながら、私にそんな能力はない。しかし、肩を貸し、彼の体を支えるくらいのことはできる。私は「大丈夫ですか?」と声をかけ、エリウッドの手を取ろうとした。


 だが、その手は振り払われた。

 エリウッドは、悔しさをにじませながら、叫ぶ。


「余計な真似をして! あれで俺を助けたつもりか! 魔人など、俺一人で……っ」


 しかし、その叫び声が、どんどん小さくなっていく。やがて黙り込んだエリウッドは、深く息を吸い、同じだけ吐くと、私に頭を下げた。


「……すまなかった、マリヤ。窮地を救ってもらった上に、見苦しい態度を取った。許してくれ」


 私は左右に首を振り、「気にしてませんから」と微笑んだ。

 上辺だけの言葉ではなく、本心である。


 いかなる理由があろうと、私は一騎打ちを邪魔して、エリウッドの、剣士としてのプライドを傷つけたのだ。正直言って、もっと激しい叱責を受けることも覚悟していた。だけどエリウッドは、爆発しかけた怒りをすぐに抑え、頭まで下げてくれた。その気持ちが、嬉しかった。


 ……おや?


 今になって気がついたが、少し離れたところに、洞窟の入り口で見かけた近衛兵が二人、立っている。見るからに強そうな、ガッチリしたお兄さんたちだ。


 なあんだ。


 私が焦って『黒い光』を使わなくても、本当にエリウッドの命が危ないとなったら、この近衛兵二人が助けに入っていただろうし、あんなに慌てる必要、なかったかもね。


 まあ、もともとの目的は、私が『黒い光』で魔人を倒し、一級市民となるための実績を得ることだから、結局はこれで良かったのかもしれないけど。


 さて、目的を果たしたのなら、いつまでもこんな、じめじめとした洞窟にいる理由はない。私はもう一度エリウッドに微笑みかけ、言う。


「王子様。なんとか目的も果たせましたし、帰りましょうか」


「そうだな……」


「肩、貸しましょうか?」


「いらん。疲れはしたが、怪我はしていない。行くぞ」


 そう言うと、エリウッドはすたすたと歩き、来た時と同じように私を先導し、洞窟の入り口へと歩き出す。……その歩調は実にスムーズだ。


 本当に怪我もしていないみたいだし、疲労困憊に見えたが、体力も充分に残っているようだ。案外、私が余計な助け舟を出さなくても、彼はゴーファに勝っていたかもしれない。


 なんとなく気になって、エリウッドの後ろをついて行きながら、私は尋ねた。


「あの、王子様」


「なんだ」


「ちょっと思ったんですけど、さっき、私が『黒い光』を使わなくても、あのゴーファに勝てる算段は、あったんですか?」


「まあ、一応な」


 そう言うとエリウッドは、鞘に収まっていた剣を、少しだけ抜き、白く輝く刃を見せる。


「これは、我がパーミル王家に代々伝わる聖剣ロナルークだ。ロナルークは、持ち主が窮地に陥れば陥るほど、その攻撃力を高め、真の力が発揮されれば、魔人すらも一撃で屠り去る」


「じゃあ王子様は、そのロナルークの力を発揮させるために、ゴーファと真正面から……」


「そういうことだ。俺も馬鹿ではない。何の勝算もなく、不死身にも等しい魔人と、体力勝負をしていたわけではないよ。いい具合に疲労が溜まってきて、あと少しでロナルークの真の力が発動するところだったのだが……」


「……私がそれを、邪魔してしまったってことですね。ごめんなさい、私、王子様の考えも知らずに、余計なことをして……」


 そこでエリウッドは足を止め、振り返り、優しく微笑みながら、首を左右に振る。そして、私を慰めるように、ポンと肩に手を置いてくれた。

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