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黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~  作者: 小平ニコ


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第20話

「そうです。人は皆、大なり小なり罪を犯して生きる、業を背負った生き物です。だから、罰を与える存在が必要なのです」


「それが、お前か? 神にでもなったつもりか」


「神ですか。そのような傲慢な発想に至るのは、あなたたち人間だけですよ。私も所詮、罪人の一人です。いつの日か、誰かに罰を与えられるでしょう」


「そうか。では教えてやる。その『いつの日か』とやらは、今日だ。立て、武器を取れ。正々堂々戦い、俺が斬り捨ててやる」


 ちょっ、待って待って。

 魔物の再生能力は凄いから、私の『黒い光』で、消滅させるんじゃないの?


 それなのに、剣で戦ってどうするのよ。

 私は興奮したエリウッドをなだめるように、言う。


「あ、あの~、王子様? 最初の予定と違いません?」


「気が変わった。俺がやる」


「えぇ~……」


「俺は、こいつのように、人の命を弄んでおきながら、悟りを開いたような顔をして、罪だの罰だのほざく奴らが許せんのだ。たとえこいつに、どのような思想があったにせよ、こいつに命を奪われた旅人たち――その友人や家族は、この先も、ずっと悲しみ、苦しむのだぞ……」


 エリウッドは、本当に許せないと言った感じで歯ぎしりをし、もう一度、剣の切っ先をゴーファに突きつける。


「わかったような理屈をこね回したところで、お前はただの人殺しだ。さあ、来い! 一対一で、俺と勝負しろ!」


 激昂するエリウッドとは正反対に、ゴーファの表情はどこまでも涼やかで、落ち着いている。顔だけ見ていると、本当に悟りを開いたお坊さんのように思える。


 その穏やかな表情のまま、「構いませんよ」と言うと、ゴーファは跳んだ。

 なんと、座ったまま、もの凄いスピードで跳躍したのである。


 今に至るまで、この、目の前のお坊さんが、本当に、恐るべき『魔人』などと言う存在なのかどうか、半信半疑だった私だが、一瞬で納得した。これは、人間じゃない。人間の身体能力では、オリンピック選手だって、こんなことはできない。


 座ったまま4メートルは跳んだゴーファは、その勢いのまま、エリウッドに蹴りかかる。まるで、空気さえも切り裂きそうな、凄まじいキックだ。しかし、エリウッドは剣を上段に構え、それを防御する。


 一般人である私は、もちろん剣術には詳しくないが、それでも、エリウッドの構えや動作が、なかなかに堂に入っており、少なくとも、『剣での勝負』に自信があるから、ゴーファに戦いを挑んだのだということがわかった。


 しかし……


「うっ、ぐっ……! こ、こいつ……っ!」


 エリウッドは、目に見えて苦戦していた。


 すでに幾度も、エリウッドの鋭い剣撃がゴーファの急所を捉え、普通ならどう考えても死んでいるレベルの深手を負わせているのだが、お城の庭園で教えてもらった通り、魔人の再生能力はとんでもなく、切ったそばから、見る見るうちに傷が治ってしまうのだ。


 しかも、どうやら魔人という存在は、体力を消耗しないらしい。


 信じられないような運動量で、激しい連続攻撃を繰り返しているのに、ゴーファは息を乱すどころか、汗ひとつかいておらず、その表情は戦いが始まる前とまったく同じ、穏やかなものだった。


 このままでは、あと数分で、エリウッドは負けてしまうだろう。

 当然、そうなる前に、私の『黒い光』で、ゴーファを消滅させるべきだ。


 しかし、エリウッドは一度だって、私に助けを求めてはこなかった。


 私は、迷った。


 戦いを始める前にエリウッドが言った、『正々堂々』『一対一』という言葉が、心に引っかかっていたからだ。恐らく彼は、魔人が相手でも、一対一の勝負に横やりを入れられるようなことは、望んでいないに違いない。……男の人って、そういうとこ、あるもんね。


 だが、無尽蔵の体力と、永遠に回復し続ける再生能力を持ち合わせた『魔人』との一騎打ちに、そもそも『正々堂々』も何もないんじゃないだろうか。いくらなんでも、相手の方が有利すぎる。うがった見方をすれば、ゴーファの落ち着き払った態度も、所詮、絶対に自分が負けることはないという余裕からきているように思える。


 事実、明らかに疲れ、剣技の冴えが鈍ってきたエリウッドを見るゴーファの顔に、若干だが、優越感のようなものが浮かんでいる。


 ゴーファは何も語らないが、その瞳は、どんな言葉よりも雄弁に『身の程知らずの若造が、人間ごときが、魔人にかなうはずがないだろう』と言っているように見えた。……ふうん、あなた、随分楽しそうな顔で、エリウッドを蹴るのね。


 ……やっと、覚悟が決まった。


 こいつは……ゴーファは、お坊さんでも何でもない。さっきは聖人のような顔をして、それっぽいことを言っていたが、結局のところは、圧倒的な力で、自分より弱い者を蹂躙することを楽しむ、ただの卑怯者だ。


 ごめんなさい、エリウッド。


 一騎打ちの邪魔をして、あなたは私のことを嫌いになるかもしれないけど、それでも、このままむざむざ、あなたを殺させるわけにはいかないわ。

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