第18話
「それはもちろん、構いませんけど……あの……」
「なんだ?」
「私の市民権って、どうなるんでしょう?」
「ん? ああ、そうか。まだ市民登録が済んでいなかったのか。案ずるな、すぐに何とかする」
やった。
色々あったが、どうにかパーミル王国の国民となることができそうで、ホッと一安心である。ぎゅっと両こぶしを握り締め、ガッツポーズをとる私に、エリウッドは事も無げに言う。
「お前には『伝承の聖女』として、これから活躍してもらわなければならないからな。そのためにも、それなりの地位についてもらわなければ困る。よし、まずは一級市民になってもらうとするか」
「えっ? 一級市民って、確か、他の国の貴族に相当する立場……ですよね? 私、二級市民ですらないんですけど、そんないきなり、簡単に一級市民にしちゃっていいんですか?」
「何を言う、別に簡単ではないぞ。二級市民権付与とは違い、一級市民になるためには、『パーミル全国民のためになる偉大なことをした』という実績が必要だからな」
「私、そんな実績なんかないんですけど……」
「わかっている。だが、大した問題ではない。実績がないなら、作ればいいのだ。正々堂々とな。……と言うわけで、今から魔物を退治に行くぞ」
「今から!? いきなりすぎません!?」
「いや、討伐自体は、数日前から計画していたのだ。最近、魔物たちの行動が妙に活発になっていて、街道を行く人々が困っているからな。王族と協力し、たぐいまれな破壊の力で魔物を退治したとなれば、お前の評判は一気に高まり、一級市民権を付与したとしても、誰も文句は言うまい」
「は、はぁ……そんなにうまくいきますかね……魔物をやっつけたくらいで」
「ふむ。マリヤ、どうやらお前、魔物を倒すということが、どれだけ大変なことか、よく分かっていないようだな」
「えっ? あっ、はい。まあ、それはそうかも……」
確か昨日、メリンダにも同じようなことを言われたなぁ。私が一瞬で消し去ったヘルハウンドだって、普通なら倒すのにもの凄く苦労するって話だもんね。
「魔物は、強い。圧倒的な攻撃能力と俊敏さに加え、自己再生能力まで持ち合わせており、とどめを刺さなければ、腕の一本や二本……いや、体の半分が無くなっていても、しばらく経てば復活してしまう。だから、存在そのものを跡形も無く消滅させられるお前の力は、恐ろしく貴重であり、得難いものなのだ」
な、なるほど……
魔物って聞くと、ゲームとかのイメージが大きいから、ちょっと攻撃したら消えちゃうように思ってたけど、体が半分になっても復活しちゃうなんて、そりゃ厄介ね。この世界の魔物は皆強力で、『雑魚モンスター』なんてものは存在しないようだ。
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そう言うわけで、魔物退治のため、私はエリウッドと共に立派な馬車に乗り、パーミルから少し離れたところにある洞窟に向かっている。
さすがは王室用の馬車というべきか、車輪の回転は実に滑らかで、ほとんど振動もない。私は窓から流れゆく景色を眺めながら、エリウッドに問う。
「あの、ちょっと疑問に思ったんですけど、魔物は街道に出没してるのに、なんで洞窟に行くんですか?」
魔物退治用の、凛々しい甲冑姿に着替えたエリウッドが、頬杖を突きながら言う。
「マリヤ、お前、パーミルにつく前に、街道でヘルハウンドと遭遇したと言っていたが、ヘルハウンドが出現する瞬間は、見たか?」
「えっ? あっ、どうだったかな……たぶん、見てないです。嫌な臭いがして、周囲が暗くなって、それで、気がついたらいきなり、ヘルハウンドがいたって感じでしたから」
「そう、いきなりだ。魔物はいつも、何もないところから、いきなり現れる。だから、街道をパトロールしていても、いつ現れるか分からないし、時間の無駄だ。それに、一匹や二匹倒したところで、根本的解決にはならない。重要なのは、『魔物たちを呼び出している存在』を直接叩くことだ」
「魔物たちを呼び出している存在って……そんなのがいるんですか?」
エリウッドは、頷いた。
「魔物たちの間にも、知能による序列のようなものがあってな、人に似た、高い知能を持つ『魔人』が、ヘルハウンドのように、戦闘力は高いが知能の低い『魔獣』を異空間から呼び出し、人間を襲わせているのだ」
「へえ……何のために、そんなことを?」
「こっちが知りたいよ。魔物の考えなど、わかるはずがない」
「でも、その『魔人』って、高い知能を持ってるんでしょ? なら、意思の疎通も可能なんじゃ……」
「マリヤ、お前は魔人を見たことがないから、そんなことが言えるんだ。確かに、奴らの知能は高いし、人間の言語や文化も理解している。しかし、決して分かり合うことはできない。……これから実際に相対すれば、俺の言っていることがすぐにわかるだろう」
「…………」
「魔人の潜伏場所を特定するのに時間がかかってしまい、すでに何人もの旅人が命を落としている。彼らの犠牲に報いるためにも、確実に魔人を仕留めなければならない。期待しているぞ、マリヤ」
何人もの旅人が命を落としている、か。
昨日、私と偶然出会わなければ、あの親切な行商人――ホランドさんも、ヘルハウンドの餌食になっていたかもしれない。そう思うと、確かに魔人とやらを放置しておくわけにはいかない。私は気を引き締め、頷いた。




