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冒険者日本へゆく  作者: 水無月
第3章 東日本編
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第75話 クエスト『名古屋港調査』5

 現在、日本において最も国民の人気がある外国は、転移以来の付き合いで交流も多いトラン王国――ではなく、その南方に位置するバイラー王国である。


 バイラー王国は海に面した海洋国家であるが、ジャンビ=パダン連合王国からいち早く独立を果たし、また大陸最大の港町ルマジャンを擁する同じ海洋王国であるトラン王国の後塵を拝し続け、対日関係の構築においてもまた遅れて取っていた。

 当然ながら日本での知名度も人気も重要度もトラン王国に劣り、それはそのまま日本との繋がりの深さに影響を与え、他国と同じく余所よりも優位な形で日本の技術を吸収したいバイラー王国首脳陣を懊悩させていた。


 そんなバイラー王国の状況を変えたのは1人の王族のわがままであった。


 王族の末席に連なる1人の者が、日本の高い医療技術を聞き及び臨月近づく自らの妻の出産を是非とも日本でと望んだのである。

 ここ半世紀でリスクは大幅に低下したものの、現代医学をもってですら一定の危険が伴うのが出産だ。医療技術が日本より大幅に遅れている大陸では正に命がけ。

 出産・多産の神に頼るという手はあるが、にわか信者が得られる加護では気休め程度。高位の神官や神そのものを連れてくれば話は違うが、どちらも権力や金で簡単に動いてくれる存在ではない。

 愛妻家として知られるその王族は、妻の初めての出産に気が狂わんばかりに悩んだ挙句、ある種の常軌を逸したわがままを言いだしたのである。


 連合王国に征服される以前から続くバイラー王国の歴史において、王族の国外での出産は例がないわけではない。

 だがそれは、妻の実家や戦時中避難先において行われたものだ。

 わけもなくまだ関係も不確かな国で王族の出産を行うなど前代未聞。当然周囲はこれに反対した。

 だが、件の王族から内々に話を受けていたバイラー王国駐日大使がこれを全面的に支持したことで流れが変わる。


「これはトラン王国を出し抜く好機である!」


 日本において認知度の低いバイラー王国の名を売り込む絶好の機会だというのだ。

 一時帰国してまでそう訴えた大使の言葉に、国王を始めバイラー王国首脳陣はこの件を大使に一任することとなる。

 もっとも王国が認めても日本側が認めなければ話は進まない。

 全権を預かった大使と日本側とでどのような交渉が行われたか経緯は不明であるが、いくつかの条件と引き換えに大使はその王族の入国と日本での出産を認めさせたのである。


 王族の来日が決まると事態は慌ただしくなる。

 末席とは言え王族が来日し、しかも出産を行うのだ。

 国賓を迎えるための準備もだが、出産に万が一のことがあってはいけない。

 日程調整、警備体制の構築、医療機関の準備。日本への移動すらもこの世界の帆船では危険が大きく心もとないため、万全を期すには日本が迎えに行かければいけない。

 日本・バイラー王国双方関係者一同の慌ただしくも涙ぐましい努力の末、王族とその妻は日本が用意した船によって来日。

 その後、無事女の子を出産することとなった。


 日本がこの世界に転移して12年。

 初めての公式な外国王族の来日。驚きの出産。

 余りに無茶苦茶な行動に一部では反感も買ったが、日本人の反応は概ね好意的であった。

 大使の思惑通り、良くも悪くもバイラー王国は日本においてその知名度を上げることとなったのである。


 この騒動を通じバイラー王国は、貿易の関税率・取扱量や国内の資源開発などにおいて日本に譲歩をすることとなった。が、その代わりに日本国内における知名度=存在感を増すことに成功。

 今後の日本との外交にプラスとなるだけでなく、ゆくゆくはトラン王国で行われているように、民間からの技術導入などへの布石となっていくであろう。

 譲歩した点も、見方を変えれば貿易の拡大や国内開発に日本の助力が当てに出来るなど悪いことばかりではないと言える。

 日本政府も、貿易の拡大を図ることに成功。また、各国が難色を示していたため遅れがちであった大陸での資源調査も前進することとなる。

 外交面でも、転移後の付き合いや貿易制限解除時の成り行きからトラン王国に偏らざるを得なかった外交姿勢を改めるきっかけとなった。

 日本の庶民にとっては、この世界において日本の技術が未だ圧倒的に優位になることを再認識し自信を取り戻すきっかけになり、同時に冒険者ギルドの進出と併せてこの世界で歩き出したのだと認識する出来事の1つとなった。


 今回の件は、対日関係でのアドバンテージを脅かされるトラン王国を除けば、結果として誰にとっても損の無い出来事であった――と、本来なら締めくくられるはずであった。


 きっかけはやはり、件の王族である。


 バイラー王国王族の来日に合わせて、当然ではあるが日本では様々なイベントが行われた。

 その中の一環で、その時期ちょうど開催されていたとあるスポーツ競技会へ来賓として王族が招待された。

 ルールの複雑なスポーツでは分かりにくいだろうとの配慮から、観戦したのは陸上競技。

 いわゆる競技スポーツという物がまだ確立しきれていない大陸東部であるが、肉体を競い合う競技というものは存在しそれを観戦するという習慣はある。

 細かなルールを知らずとも観て分かりやすい陸上競技の数々はこの大陸からの来訪者を大いに沸かせた。

 次々と進む競技を楽しげに見ていた彼であったが、同行していた護衛の騎士と何か会話をした後、同行する日本政府の人間にこんな質問を投げかけた。


『いや、実に素晴らしいですな。しかし、神霊力を使う者とそうでない者とを同じにして問題はないのですかな?』




「人間は一度神から神霊術を使える様にしてもらわなくては、神霊力を扱えません。ですけど、稀に生まれながら神霊力を使える方がいますわね」

「その大会に参加している選手に中にそれがいた。神霊力を扱える護衛騎士がそれに気づいたというわけだ」

「生まれながらに神霊力を扱えても、意識して使い方を鍛えなくてはさほど意味はありません。ですけど、それでも何も神霊力が無い方よりは肉体は多少丈夫になりますから……」

「その多少を競い合う場ではその差は決定的なものだ。件の王族の疑問は当然だと言える」

「……結局何が問題でしたの?」


 吉田の言葉にマイラが首を傾げる。


「日本政府はこの世界に先天的に神霊力を操れる人間が存在することは把握している。今後日本人の中でもそういった者が生まれてくる可能性も考慮していた――だが、現時点でそんな日本人がいるとは予想していなかった」

「貴方がたの元の世界には、神霊力などなかったのでしたわね?」

「そうだ。だから政府も想定していなかった。それに、神霊力が扱えるかどうか、見分けるには見る側が神霊力を使えなければ今のところ分からない。まさか、ギルドに頼んで日本人を片っ端から調査するわけにもいかん」

「しかし……やはりそれのどこ問題なのでしょうか。そう深刻に考えることはないと思えますけれど」

「……人というのは、先天的に一般的な基準と違うだけで何かと差別される。そこまでいかなくても倦厭されかねない」

「神霊力があるだけで?」

「冒険者や騎士、上級兵が当たり前に神霊力を得る君たちの社会ではピンとこないかもしれないが。例えば、生まれながらに体の一部が欠損していたり、まともに喋ることが出来なかったり、成長しても知恵が遅れたままの人間は君たちの中ではどう扱われている?」

「……」


 問題を理解出来ないマイラに、吉田は障がい者を例に挙げてみる。

 地球でいうところの中世から近世に類似した社会体制の大陸だ。

 恐らくその扱いは――


「――なるほど」


 予想通りだったらしい。

 苦い顔をしながらマイラは理解を示した。


「そういった差別や偏見は、悪い特徴にだけ出てくるわけではない。それが人より秀でた特性であっても、異質な物というだけでそういった対象になる」

「……」

「……この日本においては、そういった差別は出来る限り解消されなければいけないとされる。それを政府は行わなければいけない。あの王族の発言は、気づかなかった不発弾を掘り当てられたようなものだったというわけだ」

「そういうことでしたか」


(不発弾という意味は分かるということは、りゅう弾は存在するのか)


「それに神霊力は得た者にプラスになる特性だ。持たない者とで不公平にならない様に手を打たなくてはいけない。スポーツ競技など特にそうだな」

「確かに、これは日本にとっては余計な事をと言いたくもなることですわね」

「もっとも、何れは起こり得ると想定していたことだ。政府は予定を繰り上げて法案作成に追われていることだろう」

「大変ですわねぇ」


 と、マイラは言った。



「――それでだ」

「――それでです」



 と、吉田とマイラの言葉が重なる。


「お先にどうぞ」

「む、そうか。それでだ、彼女のあの力は――」


 そう言いながら、吉田は前を歩くユナとシュウに目を向ける。


「ええ。お気づきでしょうが、あれは神霊力ですわね。アツタとかいう神殿の結界も見えていたようですし、神々のことを知らなかったということを合わせて考えれば」

「彼女は先天的に神霊力を操っているというわけか」



「分かった? あのマイラって人とケガしてた男の子は大陸から来た人たちなの。西に逃げた人たちとは違うんだから後で謝っておきなさい」

「は~い」

「――ってい!」

「ってー!! なにすんだよユナ姉!?」

「ホントに分かってるんでしょうね?」

「分かってるよ。ったく、思いっきり殴んなくてもいいじゃないか……」

「軽く小突いただけよ」

「ウソつき――」



「しかもあのユナさん。ある程度神霊力を操れる様ですわね」


 ユナとシュウのやり取りを見てマイラが言った。

 今、ユナは軽くシュウの頭を拳で叩いたのだが明らかに軽く叩いたそれ以上にシュウは痛がっている。

 マイラと吉田の目には、ユナが拳に軽く神霊力を纏わせているのがハッキリと分かった。

 思い返せば、長島でもユナは神霊力を纏わせた掌底打ちをシュウに当てていたはずだ。


「実際のところ。神霊力を意図的に操ればどの程度の効果がある?」

「神霊力の量に個人差がありますからなんとも。効果は主に守りに出ますけれど、聞いた話では正面から剣を素肌に突き立てられて受け止めたということがあるそうですわ」

「本当か?」

「あくまで聞いた話ですわよ。しかも、相手も神霊力を使っていたそうですから相殺し合って尚それだけの防御力を得るだけの差があった、ということですわね」

「……」

「肉体の保護は結果として運動能力の向上につながります。モンスターが恐れられるのは、その神霊力を先天的に持ち同規模の動物に比べて強力だからですわ」


 まあ中型以上になると神霊術に類似した特殊能力も厄介ですが――と付け加える。


(ふむ……)


 マイラの言葉に吉田は考え込む。

 日本として真に怖いのは神霊力による加護――防御力の向上よりもむしろその特殊能力の方だ。

 防御力としては最強クラスのベヒモスを倒せる術がある以上当然そうなる。

 勿論今後西から東に人々が移って行けばそう簡単にはいかないだろう。

 例えば住宅地に中型モンスターが侵入した場合。

 倒すには小銃程度では火力不足。最低でも無反動砲や迫撃砲を使わねばならない。

 住宅地でそんな物を使用すればきっと問題になるだろう。


(小銃の弾に神霊力を込める研究はされているというが、やはり神霊力その物を使う術も進めなければいけないのじゃないかな)


 それを考えるのは吉田の仕事ではないが、天照大神に神霊術を授けられ神霊力を操れるようになった以上無関係では済まない気がしていた。


「どったの2人とも?」

「ん? ああ」


 気づくと、ユナが不思議そうな顔で、そしてシュウが恨めし気な目でこちらを見ていた。


「これからの予定について考えていた」

「ええ。なるべく無駄なく仕事をすませたいですから」


 咄嗟の言葉であったが上手くマイラが合わせてくれた。

 別に隠すような話ではないが、本人も気づいていないかもしれない以上、神霊力に関する話は大っぴらにしない方がいいだろう。


「彼女には俺から後で聞いてみよう。すまないが今の件は黙っていてくれ」

「構いませんわ」


 吉田が小声でそう頼むとマイラは特に逡巡もせずうなずいてくれた。


「それで、目的地の名古屋の港はまだかしら?」

「え?」


 マイラの問いに、ユナはきょとんとした顔をし――ああ、とすぐに納得した。


「ああ、ここもう名古屋港よ」

「あらそうでしたの……ではさっそく石油とやらの備蓄を確認いたしましょう。確認すべき備蓄場所は地図によりますとシオミというところですわ」

「潮見かぁ。となると……こっから東に5kmほど。まあ直線で、だけど」

「5kmですか……」


 kmという距離単位は日本(正確には地球)の単位であり当然ながら大陸では使われていない。

 しかし実際に距離を確認しながら歩くことでおおよそであるがマイラも距離感覚は掴んできている。

 現在の時刻は午後3時。

 距離だけ考えれば問題ない時間であるが、


「実際に行くとなるとどのような道で向かうのかしら?」

「そうね~……一番早いのは、ほら目の前に見えてる高い道路。あの上を進めば一直線ね」

「一直線なら、夕方前には付きますわね。では――」


 今から急いで向かい調査を済ませそこで野営しましょうと言いかけたマイラだったがユナが横からそれを止めた。


「この辺りの海は海のモンスターが結構いるのよねぇ。マズくない? あそこ人口島だから周りグルリ海だよ?」

「……それは、ちょっと不味いですわね」


 ユナの言葉にマイラは顔を顰めながら同意する。

 理由が分からないのは吉田だ。


「何がマズい?」

「海洋性のモンスターは夜間上陸する種が居るのですわ。元々海のモンスターですから陸上ではそこまで脅威ではありませんが無駄に危険に近づくことはありませんわね」

「そゆこと」

「なるほど。では今日はここで野営するか?」

「いえ、ここも海沿いには変わりません。出来るだけ進んであの高い道の上で野営いたしましょう。調査は明日。出来れば午前中に終わらせてしまいたいものですわ」




「そっかぁ、これが「神霊力」ねぇ……先生のとこで話し聞いててそうなんだろうなと思ってたけど」


 その日の夕刻。

 潮見のとある建物の一室で、錆びたパイプ椅子に座ったユナは自分の手を見つめながらそう言った。

 シュウが夕食の準備のためマイラにくっついて行動する間、1人になったユナに吉田が神霊力の話をしたのだ。

 神霊力についての話を聞いたユナの反応は、今の言葉通り驚くというより納得するといったもので、吉田は少々拍子抜けしていた。


「何かおかしい、とは思っていたのか?」

「そりゃ、妙な光? が自分から出てればねぇ。でも他の人には見えないから目がおかしくなったんじゃないかなとも思ってたこともあったわね」

「思っていた?」

「見える人が他にもいたのよ」

「なるほど……」


 おかしな話ではないなと吉田は納得した。

 生まれながら神霊力を操れる人間は一定の確率でいるらしい。

 今の東日本にどれだけの日本人が生き残っているか分からないが、転移後それらの人々の中で神霊力を操れる人間が生まれながら操れる者と同じ割合で存在していれば出会うこともあるだろう。

 ましてや、このユナのように各地を移動していればなおさらである。


(――もしかすると、西でも気づいている奴はそれなりにいるのかもしれないな)


 十分にありえることだろう。


「それで、どうするのかね?」

「どうって?」


 吉田の質問の意図が分からず思わず問いに問いで返してしまうユナ。


「君は神霊力という普通とは違う力が使えることが分かったわけだが、それで今後その力をどう使うのかと聞いている」

「ん~……別にどうもしないわね」

「なぜ?」


 ユナの答えに更に質問を重ねる吉田であるが、その口調は疑問を投げかけると言う風ではない。

 彼女の返答が見えた上で確認するかのような声音である。


「だって、何も変わんないから。こんな力があっても今の生活が劇的に変わるわけじゃない。今まで通り各地を回ってお使い生活するだけよ」

「――神霊力があればモンスターと有利に戦える。積極的に戦う気はないのか?」

「冗談! あんな化け物と理由もないのに戦いたくないわよ。第一普通に戦うより多少有利になっても勝てる気がしないわね。自慢じゃないけど野犬とだって戦って無傷で勝てる自信ないわよ」

「なるほど……なるほどな。まあ確かにそうなる、か」


 ユナの言うことは道理である。

 西日本においては神霊力を持つ者と持たない者との間で起こる問題が色々想定されるが、ここ東日本においてはそもそもそんな状況ではないのだ。

 吉田が、いや日本政府が想定している問題など安全と安定の上でこそ問題となることでしかないのだろう。

 勿論、考えればその力の使い道は色々とあるはずだ。


(例えば力を持つ人間を集め――)


 今この瞬間でも、吉田は1つ思いつく使い道がある。

 1人ではモンスターに碌に対抗出来ずとも、数が集まれば話は別だ。

 効率よく生活圏からモンスターを排除し、集落同士の交流に彼らを活用すれば、東の人々の安全と集落同士の交流頻度は格段に上がるはずである。

 組織立てて、集落で要請を受け動く仕組みを作れば――


(待て! まるでそれでは冒険者ではないか!)


 自分のアイデアの先に気付き思わずゾッとする。


 何故この世界で、冒険者という存在がありそれが栄えているか。その理由が見えた気がした。

 大陸の諸国も、軍隊によりモンスター対策は行われていることを知識として吉田は知っている。しかし軍隊だけでは到底人手が足りないということも。

 少し考えれば分かるが、ちょっとした人や物の移動のために一々兵が付き添うわけにはいかない。

 大きな街道であれば定期的にモンスターを排除することで安全も確保できるだろうが、主要でないすべての道で同じことは出来ないだろう。

 だが、辺境に人は住むのだ。また主要な道沿いとは言え絶対の安全は保障されないだろう。

 ではモンスターがいなくなれば。全て排除出来ればどうか。

 これはこの世界の軍事力から見て無理である。


 モンスターは存在する。

 国では全て対処出来ない。

 しかし人々が生活し続ける以上、モンスターに対抗する手段が必要。

 そのための冒険者。


(しかし、日本なら。自衛隊の軍事力ならモンスターの完全排除も不可能ではないのではないか――)


 可能か否かといえば、しっかりとした準備さえ出来れば可能であろう。

 だが吉田の想像は続く。


(モンスターが地球にはない力を持った存在とは言え、生物は生物。この世界の生態系に組み込まれたれっきとした存在だ。それを人間にとって危険だと排除してしまえば――)


 確実にこの世界の生態系は狂うはずである。


(しかし日本にとってモンスターは外来の種だ。今なら排除しても問題は無い。が、このまま土着してしまえば不味い)


 東日本の奪還が長引けば長引くほど、モンスターは日本の自然へと浸透していくだろう。

 また土着化が進むほど完全排除も難しくなる。

 既に侵入から10年以上が経っているのだ。もしかすると時間の猶予はそれほどないのかもしれない。



「どったの?」

「いや、少し旅の疲れが出ただけだ」


 ユナに少し青い顔でそう返した吉田。誤魔化しであるがまんざら嘘でもない。

進むたびに上への報告事項が増えるこの旅に、手ごたえと共に疲労感がたまっているのは事実なのである。


「あ~橋の上、風が強かったからねぇ」


 橋とはこの潮見にかかる伊勢湾岸自動車道の3つの橋「名港トリトン」のことである。

 弥富市から伊勢湾岸自動車道へと入りこの潮見までやって来た一行だが、その際に名港トリトンと呼ばれる3つの橋の内2つ名港西大橋と中央大橋を渡って来た。

 海沿いでしかも40m近い高さにかかる橋は海風が強く、夏とは言え歩いて渡るには非常に体力を削るものであった。

 夜営も本来はこの自動車道の上で行うつもりだったが、あまりの強風に断念。

 危険を覚悟で潮見に下り建物の中で休むこととなった。

 現在4人がいるこの建物は、自動車道を降りた南側。製油会社の工場入口にあった2階建ての事務所である。


「まあもう少しの辛抱だ。明日ここの調査が終われば、少しは休めるだろう」

「ああ、レオ君だっけ? 彼を連れて帰れるまでは動けないからか」

「そういうことだ」


(出来ればさっさと帰りたいところだが。彼女がレオを置いてはいかないだろう)


 彼女の性分では、レオをこの地に1人残しては帰れないだろう。

 もどかしいが、今吉田と李の2人だけでは岡山――いや、その手前、四国の自衛隊から出張っている明石の拠点まで戻るのは賭けのようだものだ。


「――さって、そろそろご飯の用意も出来たんじゃないかな」


 そう言ってユナは椅子から立ち上がる。

 マイラがシュウと夕飯の用意をしているのは1階。今2人がいるのは2階である。

 吉田が持ってきている携帯用コンロを使ってスープを作っているらしく、ユナが久々に嗅ぐ香辛料の良い匂いがここまで漂っていた。


「そうだな。あまり長引いても――」



『いい加減になさい!!!』



「!!?」

「!?」


 突如、階下からこだましたマイラの怒声に吉田とユナは思わず顔を見合わせた。


活動報告でここから数話はまとめてあげたいと書きましたが、流石に1月以上開けるのは待たせすぎだなと思い書きあがってる75話を取りあえず投稿。

この回だけだと話しが進んでないので次が出来てから纏めたかったのですが。


生まれつき神霊力を扱えるという設定はポッと出た物ではなく、一応前から伏線張ってました。

本当は別の場面で出す予定でしたが。

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