影の政府
今、ついに影の世界政府の陰謀が牙を剥く!
ついに物語は、世界を牛耳る陰謀から、宇宙規模へのスペースオペラへと飛翔する!
ただし、零の妄想。
「あー、ホセ指令殿、あまりそういう態度は感心できませんな、軍の規律というものが...」
「まぁまぁ良いじゃないかラグランジュ君、本人も堅苦しいのは苦手みたいだよ、ボク以上にね。」
「あ、こちらは前線指揮の最高責任者、ラグランジュ大佐だ、君にとってはボクよりお世話になることは多いはずだよ、よろしくね。」
「う、うん...よろしく大佐...殿。」
零が少し緊張気味に大男に挨拶をする。
「ああ、殿まではいらんよ、ここは正規軍じゃないからな。」
大男なりに目の前のまだ若い女性を怖がらせたくないのだろうか、気を使っているようだ。
無骨だが意外と話せる、兵達から信頼されるタイプなのかもしれない。
「よし、なら契約成立だね。ああ、申し遅れたね、ボクの名前はホセ・モントゴメリー、一応反乱軍の総司令官をやっているが、気にせず長年の友人のよーに、モンモンって親しみを込めて呼んで欲しいな。」
おどけた調子でふざけ気味の提案をする指令、こちらはなかなか食えない人物のようだ。
(こりゃ相当なタヌキ親父みたいね...)
内心そう思いつつも話を合わせる零。
「了解、でも総司令官殿をモンモン呼ばわりするのは気が引けるし、かといってホセ・モントゴメリーは長くて呼びづらいし...」
顎に手を当てて思案顔の零。
「ははっ、君達日本人は本当に生真面目で礼儀正しいなぁ、なんならホセでも...」
「じゃ略してMr.ホモって呼ばせてもらおうかな。」
「............みすたぁほも? いやいや、せめてゴメりんぐらいにして...」
「ハイ決定、じゃーねMr.ホモ指令。」
有無を言わせぬ口調でそう告げると、零は相手のことなどお構いなしに退室する。
その場に残されたホセ指令の、引き留めようとする右手がワキワキと空しく空気をつかむ。
「ふう...やれやれ、かなりの女狐みたいだねあの娘、でも面白い人材が加わってくれたな。」
「ああ、あの担いでたバケモノ...あんなもの汗一つかかず平然と担いでる時点で基礎体力はしっかりあるようだしな。ウチはどうしても重火砲の類が足りとらんからな...」
「そうだね、期待のルーキーってところだね。もっとも...」
「ラグ、君の胃痛の種は増えそうだけどね?」
ニヤニヤしながら大佐を見る総司令。
◆◆
「...てなことがあったみたいだぜ、同席してたおしゃべり秘書のクレアからの噂話で聞いたんだけどよ。」
「それ以来零だけは総司令相手でもMr.ホモ呼ばわりだ、まぁコードネームの零らしい意趣返しなんだろうけどな。」
エールのお代わりを注文しつつ、ザックが笑う。
「み...みすたーほも...ひでぇあだ名だが...でもそういや、俺が面接した時も総司令モンモンって呼んでくれって言ってたぞ...意外と本気でそう呼んで欲しいのか? さすがに呼べねぇけどよ...」
新しいエールのジョッキを持ち、困惑するルークに笑いかける。
「ウチの総司令官殿はどこか底の見えん御仁だからなぁ、けど侮るなよ?
見た目は無害な昼行燈だが、とんでもない戦略家だ。」
「ウチみたいな弱小ゲリラ風情が今まで政府軍相手に何とかやってこられたのは、総司令とラグランジュ大佐の二人の手腕によるところが大きいんだ。」
「特に指令は油断してると頭っからガブリと捕食されるぜ? ナメてたらいくつ命があっても足りゃせんぜ。」
「だろうな...いままで反乱軍が潰されることなく政府軍相手に変幻自在、神出鬼没の戦いで翻弄してる噂は俺も聞いてたさ。」
ルークもザックに続きお代わりを頼む、ついでにツマミのタコスも注文する。
ドドドドドドド...
「帰ってきたな...」
2人が同時に呟く。
「よっしゃぁぁぁ!! ヤキソバパン全部買い占めたったwww資本主義の豚バンザイ!! ハーラショー!!」
国籍不明な奇声をあげながら、店のドアに地響きの主が近づいてくる気配がする。
すぐに満面の笑みを浮かべた零が、マルクスの横っ面を全力で助走付きグーパンで殴りつけるが如き勝利宣言の雄叫びを上げ、入店してくる。
口にはすでにヤキソバパン一個を咥え、両手にまで山のようなヤキソバパンを抱え込んでいる。
それでも抱えきれなかったのか、豊かな胸の谷間に押し込まれたヤキソバパンが、縦列駐車でいくつかサンドイッチホールドされている。
零の帰還と同時にタイミング良く、ガンドロワが厨房より錆鍋のガツ煮込みを持ってくる。
そのまま元の席に着き、大事そうにヤキソバパンをテーブルの脇に寄せ、ヤキソバパンをおかずにガツ煮込みを頬張り始める零。
「あぁ、そういえばよ零、お前政府軍のやつらから『爆乳の死神』ってあだ名を頂戴してるらしいぜ、ヨルムンガンドにいたっては死神の鎌だってよ。」
エールのジョッキをあおりながらザックが言う。
「…….んぐっ!? ぐが....ぐっぐっ...!!!!!」
ガツ煮込みを喉に詰まらせた零は、慌ててウラカンを喉に流し込む。
「なんだよオイ!? そりゃマズくねぇか? どっから情報が漏れたんだ!?」
慌ててルークがザックに詰め寄る。
「いや、それがよ...ほら、いつぞやの作戦の後、零が帰り道で立ち寄った村の子供から花を買ってやったことがあったろ?」
「あ...三か月くらい前のやつか?」
「そうそう、それだ。あのあと政府軍の監察兵が来て、あの時の子供に事情を聴いてたらしくてよ、子供がうっかり答えちまったんだとさ。」
「『ママよりずっとおっぱいが大っきいきれーなお姉ちゃんだった、なんかでっかい鉄砲も担いでた!!』ってよ。」
「ちなみにその子供が『ずっと大っきい』の時、両手を広げて表現したらしいんだが、自分の頭より大きく両手を広げてたらしいぞ。」
「あー...まぁしょうがねぇか...そりゃ見たやつは絶対忘れられんビジュアルだろうしな、ましてや子供じゃなぁ...」
ふと気づくと隣のテーブルで、零が顎に手をあてて真剣な表情で何やら考え込んでいる。
(まさか、反乱軍内にスパイが...? いや、それならあたしの名前も人相もばれてなきゃおかしい...爆乳の死神...ヨルムンガンドの牛柄からの連想...?)
(まさか、実家が酪農農家なのがバレた!? だとしたらあたしの個人情報が...となると、ここからの情報流出より本国ルートからの流出を疑うべき...?)
(はっ!? まさかペンタゴン(米国国防総省)にまでスパイが!? あるいはCIA(中央情報局)ルートという可能性も...)
「オイ...ゼロの奴、なんか考え込んでんぞ...」
「多分、とんでもねぇ斜め上のこと考えてる顔だなアレは...」
「表情で分かるのか? さすがに付き合い長ぇだけのことはあるな...」
ヒソヒソと言葉を交わすザックとルーク。
親指の爪を噛みながら、眉間にしわを寄せていた零が突然立ち上がり叫ぶ。
「シャドウガバメント...いや、300人委員会の陰謀だ!! ぅおのれぃ! イルミナティィィィィ!!!!」
絶叫しながら、拳をプルプルと震わせている。
「なんか良く解らん陰謀論に落ち着いたみたいだぞ。」
「シャドウガバメントって、なんスかゼロさん?」
ルークが笑いをかみ殺しながら尋ねる。
「シャドウなガバメントに決まってるでしょうが!! 影の政府よ!! 知らないのルーク? アトランティスでも特集組まれるぐらい有名なんだから!! 宇宙人と取引してんのよ!!」
「あたし達は今こうしてる間にも奴らの掌の上で転がされてるのよ!! 奴らは自分達だけで火星に移住しようとしてんのよ!! 世界を牛耳る影の政府...」
「またの名をディープスロート!! 」
零の絶叫とともに、店内にいた事態を静観していた何人かの兵士が、鼻や口からドリンクと食べ物を一斉に噴出する。
ディープステートと言いたいのだろうが、うろ覚えで年頃の娘がとんでもない単語を口走っている。
(作者注※ホルゼロは健全なコンテンツを目指しています。)
一字違いで大・惨・事である。
「一体何がどうなって、そんな場末のピンサロみたいな名前の組織にたどり着いた...?」
笑い転げるザックとルーク。
顔面蒼白のガンドロワが包丁片手に、厨房からすごい勢いで飛び出してくる。
「オイてめぇ零!! ウチは健全な店なんだぞ!! 公共良俗に反するとんでもねぇセリフ大声で叫んでんじゃ...」
「ここここうしちゃいられない!! ゴリさーーーーん!!!!」
ガンドロワの言葉を、最後まで聞くことなく三日月亭を飛び出して行く。
偽装された司令部の方角に激走していく零。
すぐに店内に駆け戻ってきて、ヤキソバパンを抱え胸の谷間にありったけ押し込むと、また飛び出していく。
「CIAじゃなくてもあいつ見りゃ、誰でも真っ先に爆乳とかホルスタインとかって単語連想するよな...」
タコスをパクつきながらザックが呟く。
「...あとで大佐に差し入れ届けてやってくれや、胃腸薬な。」
二人の前にルーク用のタコスと胃薬を置きながら、ガンドロワは憐みの眼を司令部の方に向けるのだった。
◆◆
「たたたた大変だよぅゴリさん!! ついに影の政府があたしたちに牙をむいたんだよ!! 人類洗脳計画だよ!!」
「ピラミッドパワーでゴンドワナ大陸が浮上するのよ!! あたしのこのスマホの個人情報もダダ漏れになるぅぅぅぅぅ!!!!」
「アルミホイルはどこ!? 皆もあれで帽子を作って洗脳電波を遮断しないと...!!」
「HAARPだよ!! 三沢基地からガメラレーダーに狙われるぅぅぅ!!!!」
司令官室に入室するなり、頭を抱えて何やら喚く零。
【作者より】零がスマホで読んで頭をバグり散らかせている『アトランティス紙の陰謀論記事』の正体、実は本編の隣にある資料集『九十九令和奇譚シリーズ』で読めちゃったりします。
エアコン代をケチって汗だくになりながらアサヒスーパードライを飲んでいるあのライターが書いた与太話のせいで、ラグランジュ大佐の胃が破壊されていると思うと感慨深いですね。
気になる方はぜひ、息抜きに隣の資料集ものぞいてみてください。
九十九令和奇譚 真説・耳嚢シリーズは、基本的には本編と今後予定されているホルゼロ外伝、妖刀奇譚の世界観を補足するために作成された補強資料です。
ただ数字やキャラの履歴を羅列しただけの設定集では面白くないので、架空の三流オカルト雑誌「月刊アトランティス」に寄稿された、オカルトルポライター荒吐 九十九氏によるオカルトルポ風記事の体裁にしてみました。
ただの設定資料としてだけでなく、単純なオカルトテイストの読み物としても面白いものとして、試験的に作成されたものなのです。
よろしければ読んで頂き、感想などお聞かせ願えれば幸いです。




