↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/33

日常

御子神 零の日常。

轟く奇声、揺れる爆乳。

唸るガンドロワの鉄鍋。


今、マルクスの神話が秒殺される!

挿絵(By みてみん)

爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero- 第二話「レジスタンス・ラプソディ」








道行く人々の喧騒がこの寒村にはまだ生きた人間たちの生活が辛うじて残っていることを示している。



決して豊かな村ではないが、往来にはそれなりの活気がある。



一見すると比較的活気があるだけの寒村だが、この村の住民の多くは政府のやり方を快く思っておらず、表向きは政府に従うそぶりだが、その実は反乱軍の隠し拠点となっており、村全体が外からは分からないように各民家や公共の建物の地下には隠し倉庫などが増築され、拠点要塞化されている。



この村だけではない、表向きは政府軍に協力しつつ反乱軍を匿ったりする協力体制にある村々も付近には少なくない...。



村唯一の酒場にして反乱軍の拠点兼食堂として機能しているここは「白金の三日月亭」。



その隅のテーブルに座る女性がほっぺたをハムスターのように膨らませて食事を掻き込んでいる。



「んぐっ....んぐっ...おやっさん!! ウラカン追加でもう一杯!! むぐっ...んぐふぅっ...」



その声に振り向いたカウンターの向こうで作業をしているこの店のオーナー、ガンドロワが振り向く。



「はいよ、つーか口の中のモン飲み込んでからしゃべれよ...」



「まったくだ、もーちょいこう、お淑やかにだな...ヤマトナデシコって言葉があんだろ日本にはよ。」



隣のテーブルに座る偵察兵ザックがあきれたように言うが、どうせいつもの光景だ。



「んぐっ...もがっ...ごくんっ、うっさいわね、花より団子って言葉もあんのよ日本には!! 」



挿絵(By みてみん)




ハムスターほっぺの女性はつい数時間前政府軍根拠地の一つ、第13基地で多数の敵兵、重戦車二両、対戦車攻撃ヘリ一機を撃墜する戦果を挙げた狙撃兵、御子神(みこがみ) 零(れい)、コードネーム、ホルスタイン・ゼロだ。



尋常な戦果では無い、狙撃兵一人による一度の出撃での戦果としてはあまりに異常な戦果と言っていい。



爆乳の死神、ミルタンクデス...それが姿なき襲撃者に対して政府軍の兵士達が送った恐怖と畏怖の称号だった。



彼女はつい先ほど前線での敵戦力漸減を目的とした狙撃ミッションより帰還するなり、戦果報告もそこそこに、いつもの三日月亭に駆け込み、いつものメニューを注文し、いつものようにハムスターのようにそれを頬張っていたのだ。



「ねぇガンドロワ、いい加減外のあの店の看板、新しいのに変えたほうが良いんじゃない? もう100年ぐらい変えてないんでしょ? ペンキは剥げてるし聖騎士様の加護の盾だっけ?かすれてほとんど見えなくなってるじゃん。」



一息ついたのか、店の名物テキーラベースの高アルコール度数を誇るエル・ウラカンを全く気にもならないかのようにゴッキュゴッキュと飲み干す零。



「うるせぇよ、あの看板は俺の爺様の代からある俺のガキの頃からの自慢の看板なんだ、そうそう簡単に変えられるかってんだ、伝統ってもんがあらぁな。」



カウンターでグラスやジョッキを拭き、料理の仕込みをしつつガンドロワが応じる。



「伝統ったって...「白金の」(しろがね)の部分の文字もかすれて、今じゃ略してただの三日月亭って呼ばれてるじゃん、伝統にこだわるならちゃんと「白金の三日月亭」って正式な名前が読めるほうが良いと思うんだけどなぁ...」



かつてこの村のあたりには、遥か昔から伝えられる英雄譚があった、恐ろしい邪龍を神の加護を受けた聖なる三日月の紋章があしらわれた盾を携えた一人の英雄、聖騎士がその邪龍を打ち倒し、あたりに平和をもたらした...どこにでもある、よくある英雄伝説だ。



長い間にその伝説も半ば忘れ去られ、聖騎士が邪龍討伐の後立ち寄ったこの村で愛馬を休めた故事に由来する由緒ある白金の三日月亭の名前もまた、伝説の風化とともに誰も正式な名前では呼ばなくなっていった。



なにより長きにわたるこの国の内乱が人々からそのような細かいことを気にする余裕を奪っていた。



「とにかく、俺の目の黒いうちはあの看板は変えさせねぇ、それが俺の誇りと伝統の重みってやつだ。」



零の目の前に新しいジョッキを置き、親父は腕組みをする、見た目にたがわず頑固な親父だ。



「ふーん...まぁ良いけどさ...おっちゃん、サビ鉄鍋のガツ煮込みも追加ね。」



さらに名物のガツ煮込みを追加する零。



ガンドロワの異様に広い味覚のストライクゾーンのせいで三日月亭のメニューは異様に美味いか異様に不味いかの両極端だが、牛や豚のモツをニンニクと村でとれる特産物のハーブ類で一日かけてグツグツと煮込んだこの看板メニューの一つ、『サビ鉄鍋のガツ煮込み』は人気メニュー、つまり前者の方だ。



「やれやれ、いつものことだが馬かお前は、どんだけ食う気だよ...」



「解ってやれよガンドロワ、零の場合喰ったもんの栄養全部あのバストに行くんだからよ、腹が減るんだよ。」



隣のテーブルで昼間っから一杯ひっかけている二人の偵察兵がからかう。



「お巡りさん、こいつらです。」



無遠慮に二人の方をフォークで指刺しながら零が応じる。



「オイ、俺は何も言ってねぇぞゼロ!! 俺まで流れ弾くらったじゃねぇかザック!! 」



「そうそう、ボク達何にもしてません、つかボク達二人は荒くれ部隊の中の最後の良心って言われてるぐらいの紳士なのに心外だなぁ。」



ルークの言葉に、すかさず先輩偵察兵のザックがボケるる



最近入隊したルークはベテラン偵察兵のザックと組んだばかりだが、反乱軍の最強戦力である零に随伴して任務遂行できる兵は多くはないため、ザックの希望で新兵のルークをゆくゆくは自分が零との任務が遂行できない場合に備えての予備のバックアップに育て上げておきたい、との理由で最近はルークを指名しての任務に連れ出すことが多いのだ。



ザックの気さくな人柄のおかげか、もともと馬が合うのか阿吽の呼吸の漫才、なかなか良いコンビだ。



「お巡りさん、そこの変態紳士二人です、早く逮捕してください、犠牲者が出てからじゃ遅いんです。」



特に本気で怒る風でもなく軽口で応じる零、この二人との掛け合い漫才はいつもの風景だ。



カランカランと店の入り口に仕掛けられた来客を知らせるガンドロワお気に入りの鈴の音が響く。



「おーい、補給物資届いたぞ、今回は酒もあるんで酒保(臨時の売店)も開くってよ。」



男の言葉を聞いた零が椅子から飛び上がらんばかりの勢いで反応する。



「ヤキソバパン!! 今度こそ買い占めちゃる!! 」



そう絶叫すると彼女は大きな胸をブルンブルンと揺らしながら店のドアを蹴り破らんばかりの勢いで知らせを届けに来た兵を押しのけて飛び出してゆく。



ドドドドドド...



地響きが遠ざかっていく、しかしすぐに地響きの原因が戻ってくる。



「おっちゃん!! ガツ煮込みはちゃんとそこ置いといてよ!! 」



店の入り口から顔だけを突っ込んでそう告げるとまた地響きの主は遠ざかっていく。



「......ハァ...」



小さくため息だけをつくと、何も言わずガンドロワは厨房に入っていく。



「そういやぁよ...」



エールのジョッキを傾けながらルークが口を開く。



「あいつの...ゼロのあのふざけたコードネームは何だ?」



「ああ、やっぱ気になるか?」



「誰でも気になるだろ、ホルスタイン・ゼロってコードネーム、なんでそんなふざけたコードネームに? まぁだいたい由来は想像はつくけどよ。」



ザックもエールを口に運びつつ答える。



「あぁ...なんでもホセ指令が志願兵の面接で一方的に押し付けたコードネームらしいわ。」



ホセ・モントゴメリー、かつては大企業の敏腕重役として名をはせた異色の経歴を持つ男だ、現在はこの村のかつての公民館をひそかに改装した司令部で反乱軍の指揮を執っている。



 表向きは商談のためにこの村に長期滞在中のビジネスマンとなっているが、重役時代はその昼行燈のような常に眠たそうな目と腰の低い態度からは想像もつかぬ冷徹な戦略で次々と社内の政敵を失脚に追い込み、数多くのライバル企業への敵対的買収を成功させ「人喰いクリオネ」の異名があったらしい。



「ホセ指令が零と面接した時にな...」



ザックが語り始める、エールは少し温くなっている。




◆◆





ヨルムンガンドを担いだ零が公民館の大会議室に偽装された司令官室に通された時、ホセ指令は椅子を横に向け零の簡単な履歴書に目を落としたまま彼女を迎えた。



「やぁ、よく来てくれたね。履歴書もご丁寧にありがとう、さすが几帳面な日本人だね。」



「まぁうちは正規軍じゃないし、履歴に関してはあまり見る必要はないんだけどね、力を貸してくれるなら誰でも大歓迎ってぐらい人手が足りてないんだ...」



「えーと、Missレイ・ミコガミ...ボクも多少は昔のビジネスの関係で日本語ができるんだけど、君の名前、確か零は日本語で数字のゼロって意味だよね?」



そういいながら、くるりと零の方に椅子を向け彼女を見やるホセの表情がギョッとする。



ヨルムンガンドを担いだままその視線に怪訝そうな表情を浮かべる零だが...



しばらく思案顔だったホセは、彼女が担いだ巨大な鉄塊と彼女自身の特定部位を交互に見やる。



「うん、良し!! 君のコードネームはホルスタイン・ゼロだ!! ハイ採用。」



何の躊躇もなくそう告げると、手元の書類にハンコを押し、あっさりと採用を告げる。



「え...? そんなテキトーでいいの? もっとこう素性について聞いたりとか志願の動機とか...」


「言ったでしょ?人手が足りないし、君みたいに愛用の武器まで自前で用意してくれる志願者は大歓迎なんだ、ボクらも贅沢言える立場じゃないしね。」



「なにより高潔な理想だけじゃ人間腹は膨れないからね、ボクらが必要としているのは実戦力と、貰った給料分はきっちり果たす責任感さ。」



「こう見えてボクは人を見る目はかなり自信があるんだ、君は裏切ったりするタイプじゃないことぐらいは目を見ればわかるさ。」



「理想とか聞いて欲しいなら、一応聞くだけ聞こうか? 聞き流すけど。」



「あ...うん、まぁあたしとしても余計な詮索されるよりは話が早いほうが助かる。」




それまで司令官のそばで控えていた大男が口を開く、傷だらけの顔、意思の強そうな角ばった顎、歴戦の兵士といった風貌だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。