障害
爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero- 第二十三話 障害
「やはり、距離の近さが問題だね...」
ホセ司令が卓上の戦術マップの前で腕組みをしてうなる。
「あぁ、どちらかにちょっかいを出せば、必ずもう片方から短時間で援軍が駆け付けられる距離だ。」
ラグランジュ大佐も同じく腕組みをして眉間にしわを寄せる。
拠点戦略作戦指令室に、主だった反乱軍の将兵が集まっていた。
問題になっているのは第三、第六収容所だった。
この二つは位置的に距離が近い、もともと第三収容所は古くからある大規模収容所だが、常に収容率は150%前後となっており、そのための受け皿として第六収容所がつくられた経緯がある。
そのため第六収容所は、工期短縮とコストを抑えるため、かつての民間の鉱山跡の施設を政府軍が接収し、改装して収容所としたものだ。
もともと移送先として作られたため二つの収容所は距離が近く、深い谷に隔てられてはいるものの、有事にはお互いに援軍を出し合ってカバーできる距離になっているのだ。
「ですが、ここが我々にとっては最後の大規模な収容所です、ここさえ解放できれば不知火隊員たちの家族も、ほぼ全員救い出せますね司令。」
クレアがテーブルの上にコーヒーと紅茶のカップを置く。
「すでに潜伏済みの生霊達のおかげで、どちらの収容所も情報は集まりつつあるけれど...」
司令の言葉をラグランジュ大佐が続ける。
「第三は兵力こそ多いが、軍規は乱れ切っていて錬度も士気も低い。第六は兵力は比較的少ないが錬度士気ともに第三よりは上、何より...」
「カルテルのスケルトンも配備されていて、地形的にも守るに易く攻めるに難しなのが第六、どちらも一筋縄ではいかないな。」
「しかも第三は背後に川がある、天然の障害になっているから、攻めるにしてもルートは限られる...」
「うん。片方の攻略に時間をかけすぎると援軍もだけど...もう片方の人質が危険にさらされる問題もあるね...」
「強いて言うなら、先に仕掛けるべきなのは第三の方からだが...」
ホセ司令は手元で懐中時計を弄びながら、視線はマップを睨み続ける。
パチンッ!
「やはり...どうにかして二か所を同時に落とすしかないね。」
司令室が静まり返る。
誰も一言も発しない、全員分かっているのだ。
随分戦力は増強されたとはいえ、反乱軍に二か所同時作戦を行えるだけの戦力は無いことを。
「突入は俺に任せてくれ、ミブロも完成しているしな。」
ガブリエルとミゲルが頷く。
「あたしもヨルムンガンドでサポートする、火力支援はまかせてよ。」
零を見て頼もしげに頷くラグランジュ大佐だが、やはり眉間のしわは消えていない。
「だが、それでもやはり戦力不足はいかんともしがたいな...」
「うん、正面からの戦いでは、無理だね。」
マップを見つめるホセ司令の眼が細くなる。
「だからボクはこの作戦。」
「使える物は何でも利用するつもりだ。」
最後に、もう一度ポツリと呟いた。
◆◆
執務室の空気は、表面上は穏やかだった。
クルーガーは高級なブランデーを手元に置き、上機嫌にグラスを傾ける。
ゾルゲもいつものように丁寧に微笑み、グラスを受け取ってはいたが、中身にはほとんど口をつけない。
「そういえばゾルゲ君、またスケルトンが失態を犯したと聞きましたよ」
「はて、どのような?」
「いくつかの現場で、思わぬ損害が出たとか。これでは私としても、国軍への本格導入の口利きがしづらい状態でしてね……」
クルーガーは遗憾そうに肩をすくめてみせる。
だが、その眼は笑っていた。
「導入そのものに反対するつもりはありませんよ。ただ……こちらにも立場というものがありますからな」
ゾルゲは穏やかに首を傾げる。
「約束をたがえるおつもりですかな?」
「いいえ、そういう意味ではありません。賄賂で言いなりになる者は、いくらでもおりますからな」
クルーガーは意味ありげにグラスを傾ける。
「ただ、評判を落としつつあるものを強行して通すためには……色々と必要経費がかかる、ということです」
ゾルゲは静かにその言葉を受け止める。
「もっとよこせ」とは、あえて口に出さない。
クルーガーも、何も言わない。
言えば言った分だけの甘い汁しか得られないことを、彼はよく知っていた。
「あなたが勝手に渡してきただけでしょう? 私はこれだけ欲しいなどとは、一言も言っていませんよ。それに、この程度のはした金ではねぇ...」
――そう言い張れる余地を、常に残しておく。
自分からは要求した覚えはない、と。
ゾルゲは笑顔を崩さず、静かに頷いた。
「なるほど。ご事情はよく分かりました。ただ、これ以上となりますと、さすがに私の権限の範疇を超えておりますのでな。わがマスターのご決済をいただく必要がございます」
ゾルゲの瞳の奥に底光りする粘ついた光が浮かぶが、クルーガーは気づかない。
「マスターの……?」
「ええ。私個人に任されている裁量権でお約束できる範囲を、すでに超えておりますのでな。できる限り早くお返事を差し上げますので、今しばらくお待ちいただければ」
ゾルゲは丁寧に頭を下げ、笑顔のまま席を立つ。
ドアの前で一度振り返り、もう一度、穏やかに微笑んだ。
「それでは、ご機嫌よう長官。お酒はほどほどに、健康に良くありませんぞ。」
扉が静かに閉まる。
爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero-
第二十三話 障害
終わり




