↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/35

障害

挿絵(By みてみん)


爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero- 第二十三話 障害





「やはり、距離の近さが問題だね...」



ホセ司令が卓上の戦術マップの前で腕組みをしてうなる。



「あぁ、どちらかにちょっかいを出せば、必ずもう片方から短時間で援軍が駆け付けられる距離だ。」



ラグランジュ大佐も同じく腕組みをして眉間にしわを寄せる。



拠点戦略作戦指令室に、主だった反乱軍の将兵が集まっていた。



問題になっているのは第三、第六収容所だった。



この二つは位置的に距離が近い、もともと第三収容所は古くからある大規模収容所だが、常に収容率は150%前後となっており、そのための受け皿として第六収容所がつくられた経緯がある。



そのため第六収容所は、工期短縮とコストを抑えるため、かつての民間の鉱山跡の施設を政府軍が接収し、改装して収容所としたものだ。



もともと移送先として作られたため二つの収容所は距離が近く、深い谷に隔てられてはいるものの、有事にはお互いに援軍を出し合ってカバーできる距離になっているのだ。





「ですが、ここが我々にとっては最後の大規模な収容所です、ここさえ解放できれば不知火隊員たちの家族も、ほぼ全員救い出せますね司令。」



クレアがテーブルの上にコーヒーと紅茶のカップを置く。




「すでに潜伏済みの生霊達のおかげで、どちらの収容所も情報は集まりつつあるけれど...」



司令の言葉をラグランジュ大佐が続ける。



「第三は兵力こそ多いが、軍規は乱れ切っていて錬度も士気も低い。第六は兵力は比較的少ないが錬度士気ともに第三よりは上、何より...」



「カルテルのスケルトンも配備されていて、地形的にも守るに易く攻めるに難しなのが第六、どちらも一筋縄ではいかないな。」



「しかも第三は背後に川がある、天然の障害になっているから、攻めるにしてもルートは限られる...」



「うん。片方の攻略に時間をかけすぎると援軍もだけど...もう片方の人質が危険にさらされる問題もあるね...」



「強いて言うなら、先に仕掛けるべきなのは第三の方からだが...」



ホセ司令は手元で懐中時計を弄びながら、視線はマップを睨み続ける。



パチンッ!



「やはり...どうにかして二か所を同時に落とすしかないね。」



司令室が静まり返る。



誰も一言も発しない、全員分かっているのだ。



随分戦力は増強されたとはいえ、反乱軍に二か所同時作戦を行えるだけの戦力は無いことを。



「突入は俺に任せてくれ、ミブロも完成しているしな。」



ガブリエルとミゲルが頷く。




「あたしもヨルムンガンドでサポートする、火力支援はまかせてよ。」




零を見て頼もしげに頷くラグランジュ大佐だが、やはり眉間のしわは消えていない。



「だが、それでもやはり戦力不足はいかんともしがたいな...」




「うん、正面からの戦いでは、無理だね。」




マップを見つめるホセ司令の眼が細くなる。




「だからボクはこの作戦。」




「使える物は何でも利用するつもりだ。」





最後に、もう一度ポツリと呟いた。



挿絵(By みてみん)







◆◆







執務室の空気は、表面上は穏やかだった。


クルーガーは高級なブランデーを手元に置き、上機嫌にグラスを傾ける。


ゾルゲもいつものように丁寧に微笑み、グラスを受け取ってはいたが、中身にはほとんど口をつけない。


「そういえばゾルゲ君、またスケルトンが失態を犯したと聞きましたよ」


「はて、どのような?」


「いくつかの現場で、思わぬ損害が出たとか。これでは私としても、国軍への本格導入の口利きがしづらい状態でしてね……」


クルーガーは遗憾そうに肩をすくめてみせる。


だが、その眼は笑っていた。


「導入そのものに反対するつもりはありませんよ。ただ……こちらにも立場というものがありますからな」


ゾルゲは穏やかに首を傾げる。


「約束をたがえるおつもりですかな?」


「いいえ、そういう意味ではありません。賄賂で言いなりになる者は、いくらでもおりますからな」


クルーガーは意味ありげにグラスを傾ける。


「ただ、評判を落としつつあるものを強行して通すためには……色々と必要経費がかかる、ということです」


ゾルゲは静かにその言葉を受け止める。


「もっとよこせ」とは、あえて口に出さない。


クルーガーも、何も言わない。


言えば言った分だけの甘い汁しか得られないことを、彼はよく知っていた。


「あなたが勝手に渡してきただけでしょう? 私はこれだけ欲しいなどとは、一言も言っていませんよ。それに、この程度のはした金ではねぇ...」


――そう言い張れる余地を、常に残しておく。


自分からは要求した覚えはない、と。


ゾルゲは笑顔を崩さず、静かに頷いた。


「なるほど。ご事情はよく分かりました。ただ、これ以上となりますと、さすがに私の権限の範疇を超えておりますのでな。わがマスターのご決済をいただく必要がございます」


ゾルゲの瞳の奥に底光りする粘ついた光が浮かぶが、クルーガーは気づかない。


「マスターの……?」


「ええ。私個人に任されている裁量権でお約束できる範囲を、すでに超えておりますのでな。できる限り早くお返事を差し上げますので、今しばらくお待ちいただければ」


ゾルゲは丁寧に頭を下げ、笑顔のまま席を立つ。


ドアの前で一度振り返り、もう一度、穏やかに微笑んだ。


「それでは、ご機嫌よう長官。お酒はほどほどに、健康に良くありませんぞ。」



扉が静かに閉まる。






爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero-

第二十三話 障害

終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。