玉藻の前作戦後始末
明かされていく玉藻の前作戦の裏舞台、完成したRC改・ミブロの諸元。
傭兵時代編後半へと物語は加速していく。
場面は変わり、反乱軍総司令部。
ラグランジュ大佐がティーカップ片手に新聞紙を広げている。
「しかし昨日は驚いたぞホセ、あのオズワルドが急死とはな、玉藻の前作戦の成功と言い、最近俺達はツイてるな。」
たっぷりと砂糖を入れた特製のミルクティーを飲む、外は雨だ。
「ハハ、そうだねラグ、このまま末長く、このツキの女神様にご逗留頂きたいものだね。」
「まったくだ、ただ贅沢を言えばオズワルドの豚野郎は、俺達の手で仕留めたかったなぁ。零の狙撃ミッションには、実際に派遣したのはルークだったから、やむを得ないのは分かっちゃいるんだが...」
「まぁあまり欲張りすぎると女神様にも嫌われちまうかな?」
大佐は上機嫌だ、お気に入りのミルクティーには分捕ってきた、取って置きの上物のアッサム茶葉を使っている。
ミルクの味に負けていない、実に濃厚な味わいだ。
「まぁ女神様はともかく、あの狙撃ミッションはどのみちオズワルドを仕留められるチャンスなんか無かったよ、派遣したのが本物の零君だったとしても、ね。」
「ああ、まぁルークの報告だと、すさまじい制圧射撃で頭をあげる余裕すらなかったらしいからな、零でもちょっと狙撃は無理だったかも知れんな....」
「いや、そういう意味じゃないよ。」
ホセ指令が金の懐中時計を目の前で鎖で吊るす。
吊るされた懐中時計が蛍光灯をキラキラと反射しながらくるくると回る。
「あの狙撃ミッションは、あくまで零君を本隊から引き離して足止めすることが目的だった、 ならばそんな危険な囮役を、あのオズワルドに自らやる度胸なんかあると思うかい?」
「...じゃあ...」
「そう、あの囮のオズワルドは偽物だろうね。おおかた収容所の収監者の中から自分に似た背格好の人間でも見つけて、収容所からの解放辺りを餌に、高価なオベベを着せて仕立て上げた、影武者だったはずだよ。」
「...なるほど、確かにオズワルドの豚野郎にそんな度胸は無いな...」
「つまりあの時、政府軍もボク達も、お互いに影武者を仕立てていたわけだね。」
「...だがホセ、お前はオズワルドの影武者を見破り、罠を喝破した。そして政府軍のやつらはこちらの仕立てた死神の影武者を本物と誤認したまま、狭い渓谷にスケルトンを全機突入させ、本物の死神の鎌の餌食となった..」
大佐は作戦を思い出しているのか、思案顔でうなる。
「そういうことだね、考えてもみてよ、作戦実行直前になって入ってきたオズワルドの狙撃チャンス。もう作戦の変更は効かないタイミング、しかも並みの狙撃兵では実行不可能な超長距離狙撃の移動ルート...」
「ここまで綺麗にお膳立てしていれば、普通の狙撃兵ではなく、死神をご指名で寄こせ、と言っているのも同然だよ。」
「招待状の文面が親切すぎたのさ。」
「なるほどな...お前があの時、何かに気づいていたのは俺にも分かったが、お前そこまで読んでいたのか...」
大佐はミルクティーを飲みながら、あらためて戦友の底知れなさを感じていた。
「あの時はラグや兵士達もヒヤヒヤさせてしまって申し訳なかったね。でも、どうしても全てのスケルトンを渓谷内に引き込んでから、死神に仕事を始めてもらう必要があったんだ。」
「スケルトンの3分の1ぐらいは最初、渓谷出口の外で待機していたからな。」
「うん、そいつらが残ったまま渓谷の外に出るとなると、ちょっと厄介だったからね、渓谷の外は障害物の少ない開けた地形だ。そうなると例のスラスター機動で動き回られては、いかに零君でも狙撃しきれなかったんだ、一機や二機ならともかくね。」
「確かに....いかに零でも全機狙撃しきる前に、俺達はペイルライダーの側面に回り込まれて全滅していたな...」
「うん、盆地に伏せてあった方はオペレーションY.sで対処できたけどね。あの場にいたスケルトンは何としてでもスラスターが使えない狭い渓谷内におびき出して、全滅させておく必要があったんだ。」
「それまで本当にみんなよく耐えて時間を稼いでくれたよ。お陰で、しびれを切らせたあの愚かな指揮官君...なんていったっけ?」
「 えーと...フライド...ハンバーガー君...?いや、ちょっと違うな...」
「赤い狐がどうとか...」
「 確か、ご丁寧に本名も名乗ってくれていたような...まぁどうでもいいか。」
一瞬だけ思い出そうとするそぶりを見せたが、極めてあっさりと諦める。
「ともかく、彼の判断ミスのお陰で、スケルトンを引き込むことができたわけだ。」
ホセ指令はあの時の通信のやり取りを思い出しているのか、クスクスと笑う。
「古来より、大軍にとって隘路は死地なり、と言われているのにね。」
「彼は桶狭間の今川義元と同じ愚を犯したわけだ、ボク達はさしずめ信長ってところだね。」
「良く解らんが、また日本の歴史か? お前の知識と見識の深さにはあきれるよ。」
PCを叩いていたクレアが口をはさむ。
「せめて彼の名前ぐらい、覚えておいてあげないと、かわいそうですよ司令?」
「そういう君は、覚えているのかいクレア?」
「もちろん、私はちゃんと覚えていますよ。」
「ウィリアム・ウィリアムズさんです。」
メガネのフレームをキラリと輝かせながら、クレアが厳かに断言する。
ほとんどAIのハルシネーションだ、どこからそんな名前が生えてきた...?
「それは絶対違うだろ、そんなガリレオ・ガリレイみたいな響きだったか?」
ラグランジュ大佐が訂正する。
「確か...ほら、もっとこう、モブっぽい名前というか...ガリクソン?」
顎に手を当て、大佐がうなる。
「まぁ、どうでも良いですね。」
「そうだな、どうでも良いか。」
ほぼ原形をとどめていない名前のまま、二人共極めてあっさりと2秒で諦める。
「たった今整備班より連絡です、復元したスケルトンが組みあがったそうですよ。」
直後にクレアが告げる。
「分かった、すぐに第三倉庫に向かおう。」
三人は連れ立って第三倉庫を訪れる。
そこにはーーーー
復元されたパワードスケルトン一機が。
ライトの光を反射して。
降着姿勢で、ただ静かに佇んでいた。
メタリックブラックのカルテルオリジナルから、友軍からの誤射を避けるために白を基調とした塗装にリペイントされている。
シルエットもそっけない直線を基調とした、箱型を組み合わせたような角ばった印象を与えるオリジナルとは、ずいぶん印象が変わっている。
大量に鹵獲した破損した機体や、水没機体からはぎ取った9mm厚複合チタン装甲を重ねた、計18mmの積層複合チタン装甲へと作り変えてある。
一次装甲と二次装甲の間にはアラミド繊維の層をサンドイッチすることで、空間装甲としての役割と、耐衝撃緩和性能を持たせた。
一次装甲の避弾経始をも運悪く撃ち抜いて来た12.7mm弾は、アラミド繊維による衝撃吸収と空間装甲により、本命の二次装甲チタンで食い止める設計だ。
そしてすべての装甲を傾斜装甲とすることで、避弾経始の効果が最大化されるように計算配置されている。
そのせいでオリジナルに比べてソリッドで鋭角的なシルエットへと、随分と印象が変化しているのだ。
そして整備班の提言でオリジナルにはない、いくつかの装備機能も組み込んである。
パワードスケルトンRC(Resistance Custom)改・ミブロである。
降着状態で頭部を取り外せば全高は1.4m程度となり、輸送車両に積み込んでの迅速な輸送も可能だ。
ただしスラスター周りの制御用の精密機器は、反乱軍の技術と生産設備では手に負えず、再現は断念されたためオミットされている。
スラスターとその推進剤のタンクを降ろしたことで、浮いた重量リソースとスペースを活用し、追加傾斜装甲化したのだ。
しかし改装によりオリジナルの重量約800kgに対して、最終的なミブロの重量はやや増加して840kgとなっている。
恐るべき力を秘めたその白銀の機体は、ホセ指令達の目の前で、静かにまだ眠りについている。




