↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/33

九尾の女狐

挿絵(By みてみん)

零が最優先で狙撃するべきは、スケルトンなどの反乱軍の標準火器では対処しきれない脅威度の高い標的の排除が最優先だ。


他の兵士達の標準火器で対処可能な、目標の狙撃優先順位は低いのだ。


もっとも、責任を取らされることを恐れて、部下も指揮も見捨てて放り出し、逃亡したフェルナンド・ガルシア特務上級少佐が軍に戻ることはなく、そのまま敵前逃亡で行方不明の逃亡兵となるのだが....。


「おや、通信兵君、君の上官殿はなかなか危機管理能力がしっかりしている優秀な上官じゃないか。

我が身に危険が迫るとなればあっという間に現場から逃亡する....

えてしてああいう輩は保身にだけは目ざといものだけど....」


「君達はどうするんだい?」


「そのまま上官殿の代わりにスケープゴート役を引き受けるのかい?」


「悪いことは言わないよ、これは老婆心からの忠告ってやつだけどね。

君も身の振り方を考えたほうが良い、忠義だてするほどの上官とも思えないけど....?」


通信機から聞こえるホセのその言葉を、聞くべき者はすでにいなかった。


通信兵達もまた、彼の上官の後を追ってジャングルへと消えていたからだ。



渓谷ではすでに勝敗は決していた、岩から離れ、左右に大きく簡易バリケードを展開したペイルライダーが前進する。


それに合わせて、随伴歩兵達も前進しつつ銃撃を浴びせる。


破壊されたスケルトンの残骸に身を伏せて、未だ戦意を失わず抵抗を続ける兵もいるが、すでにほとんどの政府軍兵士は戦意を喪失している。


次々と武器を捨てて投降し始めていた。


撤退要請を無視して無謀な徹底抗戦を指示していた指揮官は逃亡。


通信兵も逃亡したらしく先ほどから通信も沈黙している。


楯となるスケルトンはすでに全機破壊されたか逃げ出している、もはや抵抗は無意味だ。


抵抗を続けていた兵士の遮蔽物となっていたスケルトンの残骸に、反乱軍兵士の放ったRPG7が命中し、チタン装甲を撃ち抜く。


スケルトン背部にマウントされていた高機動スラスター用の推進剤タンクが誘爆し、残骸の陰に隠れていた兵士が吹き飛ぶ。


それを見た残りの抵抗を続けていた政府軍兵士も、勝機がないことを悟り武器を捨て、次々と投降の意志を示した。








朝日が完全に上ったころ、渓谷は静けさを取り戻していた。


だが、また少しサンタァナが暴れ始めたようだ。


「さて、危なかったけれど、なんとか玉藻の前作戦は成功裏に終了ってとこだね。

みんなお疲れ様、本当よくやってくれたよ、感謝している。」


ペイルライダーの通信機からホセの言葉が、ラグランジュ大佐の耳に届く。


「今回ばかりは寿命が縮んだぞホセ、もちろんお前のことは信じていたが、さすがに本当にあの状況をひっくり返せるのかとヒヤヒヤした.....」


一息ついたラグランジュ大佐がタバコに火を付ける。


「こいつもよくしのぎ切ってくれた、改装されていなければ俺達は零が来る前に全滅していたな.....」


ペイルライダーの運転席から顔を出したガブリエルが、傷だらけになったペイルライダーの車体を片手でなでる。


「まったくだね、ボクの晩ご飯のおかずを一品減らしてまで予算を捻出した甲斐があったというものだよ。

渓谷の入り口で待機させていた輸送トラック部隊はすでにそちらに向けて移動を開始させてある。」


「サンタァナもこの程度なら問題ないから、上のルートを進ませているよ。

渓谷は政府軍による爆破工作で通行止めだしね。」


「君達は渓谷出口から地上に出て集積所を抑え、そのまま物資集積所で周囲の警戒に当たりつつ、輸送部隊への物資の積み込みを手伝ってくれ。」


「分かった、苦労しただけの甲斐のある物量だぞ。

これでしばらくは燃料弾薬、資材食糧に悩まなくて済むぞホセ。」


「お土産の内容に期待しているよ大佐。

あぁそれと物資の積み込みが終わったら忘れずに破壊されたスケルトンの残骸と盆地で水中オブジェになってる水没スケルトンの引き上げと回収も頼むよ。

クレーン付きの大型ユニック車を手配しておいたからね。」


「サンタァナの機嫌がまたぞろ悪くならないうちに、積み込みを終え帰投してくれ。」


「スケルトンもか? それはまぁトラックの積載量には十分余裕があるから構わんが....」


背後から近づいてくる輸送トラック部隊の音を聞きながら、タバコを深く吸い込む、ニコチンが大佐の肺に染みわたる。


「ああ、スケルトンもだよ。」


「カルテルにとっては商品価値を失ったただのガラクタだろうが、ボク達貧乏ゲリラにとってはあれも貴重な資材だからね。」


「特に水没した方は電装系はもう駄目だろうけど、それ以外は傷一つついてない上物だよ。」


「分かった、すべて回収しておく、あとは....生き残った奴らはどうする?

生き残った一般の生身の歩兵はもう戦意を失って投降しているが、捕虜に取るとなるとメシも食わさにゃならんし監視の兵もつけにゃならん。」


「強制労働させるにしてもやはり監視の兵が必要だ、正直俺としては少々惜しいが捕虜には取らずに放免するしかないかと思っている。」


「捕虜交換の取引材料にしようにも政府軍のやつらが応じないのはもう経験済みだからな。」


「投降兵なぞ奴らにしてみればトカゲのしっぽ切りの対象でしかない....俺達にとっちゃ多すぎる捕虜はホセ、お前流に言えば不良債権ってやつだ....」


運転席から降りてきたガブリエルがくわえているタバコに、自分の火のついたタバコを近づけ、火を移しつけてやる大佐。


「いや、彼らも投降を希望する者は全員回収してほしい、捕虜についてはボクにちょっとしたアイデアがあるんだ。」


「ふむ、分かった、ではまた後でな」


タバコの火を踏み消すと、大佐はペイルライダーに乗り込み指揮を再開する。




「はぁ.....はぁ.....こ、これは敵前逃亡ではない!! 私のような名将を失うのは大損失なのだ....」


「あんな無能でたやすく戦意を喪失するような部下共と違ってこのフライングタイガーが失われるのは軍にとって、いや!! 国家にとっての大損失なのだ.....」


「だから私は何としてでも生き延びねばならんのだ....それが私に課せられた責任であり義務なのだ!!」


「そうだ、私は無能な部下どもの失態を最小限の損害で抑えるために、適切なダメージコントロールとして一時的に戦線から戦略的転進をしているにすぎん....!!」


フェルナンドは、必死でそう呟きながら片手に握ったジャックダニエルを煽り、ジャングルの奥へと消えていった。








ミゲルは目を覚ました、辺りはすでに動く者はなく、惨劇の残骸があちこちに転がっている。


粉砕されたスケルトンの装甲の一部


機体の部品


ちぎれ飛んだ人体の一部


あちこちにできている血だまり.....



ミゲルの体を辛うじて数百kgからの圧死から救ってくれたのは愛銃だった。


偶然銃身がつっかえ棒となり、スケルトンの巨体をギリギリで支え衝撃を緩和してくれていた。


ミゲルは、傍らに落ちた無残にひん曲がった愛銃を見やる。



「俺....生きてるのか....?」




意識を失う前まで彼の体にのしかかっていた破壊され、引きちぎられたスケルトン上半身の残骸はすでになかった。


立ち上がろうとする彼の脇腹に、激痛が走る。


「.....ぐっ!?....アバラにヒビが入った....?」



よろよろと立ち上がるミゲル、彼はフェルナンド特務上級少佐を指揮官とした反乱軍殲滅作戦に従事していた。


反乱軍の装甲車両をスケルトン部隊が追い詰め、作戦は成功直前だったはず.....


だが突然ミゲルの前面に展開し、楯となってくれていたスケルトン兵士が、異様な轟音とともに紙屑のように吹き飛び粉砕された。


その数百kgの巨体の残骸が彼の上に崩れ落ちてきた、正直何が起こったのかは今でも正確には分からない、思い出せない。


押しつぶされ、遠のいていく意識の中で先ほどまで余裕に満ちていたはずの戦友たちの悲鳴と怒号が聞こえていたことだけは覚えている。


すでに友軍はおろか反乱軍の姿もなく、生きているのは自分だけのようだ。


しかし、散らばったスケルトンの残骸と思われる装甲片や部品、息絶えた戦友達の遺体と、地面を染めるどす黒い血の跡が作戦の結末を物語っていた。


事情は分からないが、俺達の作戦は失敗したのだ、と。


死神の降臨直後に粉砕されたスケルトンの下敷きとなり、身動き取れないまま意識を失ったミゲルは、零の脅威度判定の最下位に置かれ、そうそうに零の狙撃のターゲットから外された。


そのおかげで生き延びたのだ。


作戦終了時に彼の体を押さえつけていたスケルトンの残骸は、反乱軍によってすでに回収取り除かれていた。


その際にもミゲルは圧死した兵とみなされ、捕虜に取られることもなく、戦場跡に取り残されていたのだ。



カーゴパンツのポケットから支給された救急キットを取り出し、鎮痛剤を取り出し、水筒の水で喉に流し込む。


5分ほどで効果が表れ、脇腹の激痛が少しだけ和らぐ。


脇腹を抑えつつ、近隣の友軍基地を目指してミゲルは移動を開始した。




挿絵(By みてみん)





地獄の渓谷より生還できたパワードスケルトン兵は一体だけだった。


左腕を失い、命からがら友軍基地へたどり着いた兵士は、大量の出血で危険な状態ではあったものの、辛うじて命だけはとりとめた。


スケルトンは燃料バッテリー切れで途中で投棄したらしい。


基地にたどり着いた時には兵士は生身で、左腕に真っ赤に染まった止血帯を巻いた姿だったのだ。


手当の後、彼に軍による聞き取り調査も行われたが、作戦の後半部分、特に死神と思われる狙撃兵が現れて以降の状況については、何も聞き出せなかった。


基地にたどり着いた時、兵士は疲労と出血と恐怖で歯をがちがちと鳴らしながら倒れ込んだらしい。


「ヤツだ....死神だ....スケルトンの装甲なんぞあいつには関係ない....俺以外はみんな死んだ....死神の鎌に狩り殺された....」


ただ、そう繰り返していたという。


彼は重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、さらに閉所恐怖症も発症していたため、スケルトンのパイロットとしてももはや復帰不能となった。


作戦司令官に任ぜられていたフェルナンド特務上級少佐は行方が分からなくなっており、状況から責任の追及を恐れ逃亡したと判断され、逃亡兵として手配される事となった。


彼のお付きの通信兵何名かも同様であった。


ゆえにこの作戦の全貌を俯瞰し、報告できる責任者は不在であり、軍の初動調査でも何が起きたのかは不明のままであった。


この作戦自体が一部の高級官位にある者にしか知らされていなかった極秘作戦であった事と、スケルトンの商品価値の失墜を恐れたカルテルの意向もあり、この作戦はその顛末も含めて一切の調査が禁じられ、蓋がされた。



真相は闇へと葬り去られた.......



挿絵(By みてみん)




◆◆










物資を搭載したトラックとペイルライダーが次々と拠点に帰投してくる。


いくつかのトラックは、協力関係にある近隣の村や隠蔽された隠し倉庫などにも分散され、夜間の目立たない時間を使って運び込まれる。


予想以上の大量の物資だったため、この措置が取られたのだ。


一度に運び込むと目立つため、時間をかけて何日かに分けて搬入作業を行う。


軽量な物資は行商人に偽装して、人力で運び込む。


指令室の窓からその様を見下ろしながら、手に入れたばかりのエメラルドマウンテンを楽しむホセ。


「俺の紅茶も手に入ったぞ、もう10日も切らせていたからなぁ。」


傍らではラグランジュ大佐がうまそうに紅茶を飲んでいる、


テーブルの上に載っているアッサムの袋は、とっておきのミルクティー用だ。


「ホセ司令、捕虜の面接ルームへの移動完了しました。」


傍のデスクで作業をしていたクレアがホセに告げる。


「やぁ、ありがとうクレア、君用のアイスティーもしばらくは心配いらないな。」


「はい、お陰様で、ガンドロワさんも店の食材がタダで補充出来てホクホク顔でしたよ。」


クレアを伴い面接室へと移動する。


これは特殊な面接相手用に用意させている部屋だ。


壁一面がマジックミラーになっており、面接相手からはこちらの顔などは見えないようになっている。


仕掛けられた変声機を通して会話するのだ。


マジックミラーで仕切られた隣の部屋には30人を超える捕虜たちが集められていた。


ドアのすぐそばには銃を構えた警備兵二名が、油断なく彼らに銃口を向けている。


みんな不安そうな表情だ。


彼らは先の玉藻の前作戦で戦意を喪失し投降、捕虜となった政府軍の兵達だ。


全員目隠しがされている。


やがて鏡の向こうからマイクを通して話しかけられた。


「やぁ、政府軍の諸君、とりあえずその目隠しはもう取ってもらって結構だよ、初めまして、ボクは反乱軍の幹部の一人だ。

とりあえず、Mr.ノンケと名乗っておこうかな。」




グッ.....今度は隣に立つクレアも奥歯をかみしめてこらえた。


腐闘士に一度見た技は通用しないのだ。




挿絵(By みてみん)





挿絵(By みてみん)






そんなクレアになぜか少しだけ残念そうな表情を浮かべながら、ホセ指令がミラー越しの捕虜達に話しかける。


捕虜たちの目隠しを警備の兵が取り外していく。


「さて、君達は言うまでもなくボク達反乱軍の捕虜となってもらったわけだが、まずは保証をさせてもらう。」


「君達の身柄は国際的な捕虜規定に従って、最低限の正当な権利と身柄の取り扱いが保証される、それだけはまず伝えておきたい。」


捕虜たちは顔を見合わせるが、その表情からはまだ完全に不安の影は消えていない。


「ただ、言うまでもないがボク達は貧乏ゲリラでね、高級ホテルのような待遇は期待しないで欲しい。」


「分捕ってきた物資はあるけど、君達に回せる食事はダブついている特製レーション定食がメインになるだろうからね、ボクが言うのもなんだが、不味いよ?」


「おい、ますます兵が不安になるようなことは.....」


ラグランジュ大佐がたしなめる。


「あははは、ごめんごめん、さて、ここからが本題だ、ボクは腹の探り合いってやつが苦手なんだ、だから単刀直入に言おう。」


「君たち政府軍の徴収兵の多くは、家族や恋人を強制収容所に人質に取られて無理やり政府軍に忠誠を強いられていることは、知っているよ。」


「そこで取引、といこうじゃないか。」


捕虜たちは困惑の表情でお互いの顔を見合わせる。


やがて一人の捕虜が前に進み出る、記章は大尉だ、おそらく捕虜たちの中で一番階級が高いのだろう。


ミラーに向かって敬礼をする。


「Mr.ノンケ殿、まずは我々の待遇に関しての保証をして頂いたことに感謝いたします、そちらの言われる人質の件も確かに事実でありますが.....

取引とは、具体的に何でありましょうか?」


「うん、君達、これから『幽霊』になるつもりはないかい?」


捕虜達の顔に困惑の色が広がっていく。


「その....ミスター.....幽霊とはどういう意味でありますか?」


当然の質問だ。


「うん、実は君達のあの作戦での行方に関しては、すでにこちらで欺瞞情報を流してあってね、君達はすでに公式には全員戦死したことになってるんだ。」


捕虜たちの間に、動揺とどよめきが広がっていく。


「つまり今の君達の身分は、すでに死んでこの世にはいないことになっている幽霊、という訳だ、ハハッ。」


愉快そうにホセが笑う。


「幽霊ならば人質にされている家族に危害が及ぶことは無いはずだ。

なんなら、もう人質としての利用価値がなくなったと判断されれば、解放される者もいるかもしれない。」



「正直我々としてもこれだけの大量の捕虜を抱えるのは負担でしかなくてね、ボクとしてはその不良債権の処理をうまくやりたいわけだ。」


「そこでだ、君達に今後我々の協力者として、仲間になって欲しいと考えているんだ。」


「君達の持つ政府軍の内情や、配属されていた基地の機密情報を提供してもらいたい。」


「我々に.....軍を裏切れ、と?」


大尉が苦しそうに返事をする。


「家族を人質を取るような軍に君達が本当の意味で忠誠心を感じているとは思えないけど?」


「それともこのまま君達を捨て駒のように死地に送り込み、安全な後方でふんぞり返っているだけの腐った連中の駒として生きていくかい?」


「裏切るも何も、人質を取って君達に忠誠を強要する、先に裏切っているのは軍や政府の方じゃないのかね?」


ホセの言葉に捕虜達の表情が、徐々に変化していくのがミラー越しでも分かった。


「もしこの取引に応じてもらえるのなら、すでに君達も知っていると思うが、人質が収監されている強制収容所の解放作戦も、我々の重要な戦略目標だ....」


「君達の家族が収容されている施設への解放作戦時には、申告してもらえれば君達を最優先でその作戦に配置することを約束させてもらうよ。」


ホセがゆっくりと続ける。


「さあ、このまま腐敗した奴らの下で家族を人質にされたまま犬死にさせられるか、幽霊となってボクたちとともに家族を救い出すか、選んで欲しい。」


大尉と周りの兵士たちが議論を始めたようだ。


「悪くない条件だ、このまま軍に戻ったところで腐った軍のやつらの手柄と保身のために、いずれ俺達は戦場ですりつぶされ殺されるだけだ....」


「だが、俺達は兵士なんだ.....軍と祖国に忠誠を誓った身なんだぞ....!!」


「だがそれでは人質はどうなる? 俺達が生きている限り人質が解放されることはない。

解放されるのは俺達が戦死して人質としての利用価値が無くなった時だけだ...」


「俺達を先に裏切ったのはミスターの言う通り、軍の方じゃないか!!」


「......色々と君達にも考えがあることと思う、ボクは別室で待機しているから、よく議論して総意が得られたら、声をかけて欲しい。」


「そう簡単に決められるような決断じゃないことは、分かっているからね。」


そういうとホセ指令はクレアと大佐を伴い、司令官室へと戻る。


バタン。


ドアが閉められると同時に、大佐がホセ指令を見やる。


「ホセ.....お前って男は、とんでもない取引を考え付いたものだな....」


その表情は驚愕と共に、半ば呆れているようにも見える。


「ボク達貧乏ゲリラにとって多すぎる捕虜の管理コストは不良債権でしかないってのは君も言っていた通りだよラグ。」


「すでに政府軍に捕虜にされたボク達の仲間との捕虜交換提案にも政府は応じないのだから取引のカードにもならないしね。」


「ならば彼らの持つ情報と土地勘をこちらの資産にしたい。」


「特に収容所解放作戦の時には、彼らの知識は大きな武器になってくれるはずだよ、なんなら軍内の暗号プロトコルに関する知識を持っている者もいるだろう。」


「味方にできれば、一気に有利になるからね.....。」


闇に包まれた窓の外を眺めながら、ホセはすっかり冷たくなった飲み残しのブルーマウンテンを飲み干した。





◆◆






拠点地下に設置された第三倉庫内は異様な緊張感に包まれていた。


そこには日中運び込まれた破壊されたスケルトンと、水没ショートしたスケルトンが積み上げられている。


破壊されたスケルトンを分解している整備兵が悲鳴を上げる。


彼の足元には、血まみれの人間の指や耳が転がり落ちている。


零の狙撃で撃ち抜かれたスケルトンの内部の隙間には、かつて人間だったものの残骸がまだ残っている。


事前にある程度の清掃はしてあるが、完全には取り除けていないのだ。


整備長が水没したスケルトンの山を見上げる。


「さて....いよいよ問題の水没機体の方だが.....」


周りを取り囲む部下の整備兵達を見回す、全員緊張した面持ちで黙っている。


スパナ片手に腕組みをした整備長が口を開く。


「もちろん俺が率先して解体するが、一人じゃいつまでたっても終わるような数じゃないからな、複数人数で同時に解体作業を進めなきゃならんが.....」


水没したスケルトンの中には溺死したカルテル私兵の溺死死体が入っているはずだ、解体すれば当然『彼』らと対面することになる。


整備兵達がしり込みするのも当然だ、トラウマになりかねない。


彼らの表情を見ながら、ため息をついた整備長が右手を差し出す。


「仕方がない、解体に当たる者は公平にクジ引きで決めよう、もちろん俺は確定だ。」


整備長の右手から、次々とクジの紐を祈りながら引き抜いていく整備兵達。


「よし、残念だがクジを引き当てちまった者はさっそく解体作業にかかってくれ。」


「使えそうなパーツはこっち、使用不能だが復元の見込みがありそうなパーツはこっち、復元も無理そうなパーツはジャンクボックスだ。」


「今夜中にパーツの選別と装甲の分離ぐらいは済ませておきたい、徹夜になるが心配するな。」


「分捕ってきた物資の中には、上物の眠気覚まし用コーヒーもたっぷりあったようだからな.....では作業を始めてくれ。」


赤い印が付けられたクジを恨めしそうに見ながら、それでも彼らは覚悟を決めてスケルトンの解体作業に取り掛かった。





挿絵(By みてみん)




爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero- 「玉藻の前作戦」・ 完




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。