傾国の美女
発動される玉藻の前作戦、そしてホセ司令によりオペレーションY.sの発動も命ぜられる。
恐るべきカルテルの怪物、パワードスケルトンが反乱軍を追い詰める。
その時、朝焼けの戦場にーーー
全てを欺いた恐るべき「九尾の女狐」が舞い降りるーーーフェルナンドを手玉に取った、傾国の美女の正体とは…
「なんだ...地震か?...まぁいい。」
フェルナンドの耳に男の声が突き刺さる。
「さぁ、そろそろ始めようじゃないか、歴史に残る奇跡の大逆転劇ってやつをさ!!」
「指揮官君も楽しんでくれたまえよ、ボクの演出した最高の舞台のクライマックスをね!!」
「さぁドラムを打ち鳴らせ!! ありったけのスモークをたけ!!」
「すべてのスポットライトを主役に向けろ!!」
「ふん、現実を認めたくなくて狂ったのか貴様...?」
勝利を確信したフェルナンドの表情には侮蔑の色が浮かんでいる。
カッ!! カカカカカカッ!! カカッ!!
通信機の向こうから革靴の踵が床を打ち鳴らすリズミカルな音が聞こえてくる。
タップダンスを踊っているのだ、この男は...
「貴様...さっきから、いったい何を...!!」
フェルナンドが吐き捨てるように言った。
通信兵がモニターを確認する。
戦場には変化がない。
スケルトン部隊は健在。
反乱軍もまだ、不格好な装甲車の陰で縮こまっている。
何も変わっていない。
「チェックメイトだ…」
フェルナンドが満足げにそう呟いた――
その直後。
――ドゴォォォォォォォォォォォォォッ!!
大気そのものが爆ぜたように感じられた。
「――――ッ!?」
轟いた音に驚いて、よろめいたフェルナンドの手から並々と注いだウイスキーがこぼれそうになる。
慌てて手近なパイプにつかまり、辛うじてウイスキーを死守する。
「な、なんだ!?」
「敵の砲撃ですか!?」
「どこからだ!?」
通信兵たちが一斉にモニターへ飛びつく。
だが――
砲撃ではない。
少なくとも、誰にもそうは見えなかった。
モニターの中で。
通信機を操りながらモニタを見ていた通信兵一名にだけは理解できた。
反乱軍の目前にまで迫りつつあったスケルトンが――
二体。
まるで何か見えない巨大な槌で横殴りにされたかのように、同時に吹き飛んでいた。
「…………」
誰も声を出さなかった。
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
戦場の時間そのものが止まったようだった。
モニタの向こうで黒光りする800kgの巨体が宙を舞っている様子が、フェルナンドにはまるでスローモーションのように感じられた。
一体のスケルトンが頭部を失い、もう一体は胸部装甲を大きくひしゃげさせながら回転している。
そして――
二体とも、地面へ叩きつけられた。
ガァンッ!!
ガコンッ!!
ガガカガ……
金属の残骸が岩肌を削りながら転がっていく。
「…………え?」
通信兵の口から、間の抜けた声が漏れた。
「な……なんだ……?」
「今……何が……?」
フェルナンドは答えられなかった。
モニターを凝視する。
スケルトンが倒れている。
二体とも。
先ほどまで反乱軍を一方的に追い詰めていた、あの無敵のスケルトンが。
「…………」
フェルナンドの顔から、ゆっくりと血の気が引いていく。
「おい……」
ようやく声を絞り出す。
「おい……今のは、何だ……?」
誰も答えない。
「何が撃った!?」
通信兵が慌てて各種センサーを確認する。
「確認できません!!」
「何だと!?」
「どこから攻撃されたのか、判別できません!!」
「馬鹿な!!」
フェルナンドがモニターへ顔を近づける。
「そんなはずがあるか!! 誰かが撃ったんだろうが!!」
その時――
通信機から、再びあの声が聞こえてきた。
「さぁ皆様万雷の拍手を持ってお迎えください、当劇場の誇る真打、スーパースタァの登場です!!」
フェルナンドの顔が引きつる。
「……貴様……」
「さあ」
ホセの声が響く。
先ほどまでと何も変わらない、のんびりした声だった。
「お待ちかねの幕が上がったようだよ、ヒーロー...もとい、ヒロインは遅れてやってくる。ハリウッドの常識だろう?」
「何を言って――」
――ドゴォォォォォォォォォォッ!!!!
二発目。
今度はフェルナンドもはっきりと目撃した、その瞬間を。
渓谷の前方。
また一体のスケルトンが――
まるで透明な巨人の手に、正面から殴り飛ばされたように弾け飛んだ。
後方にいたもう一体のスケルトンの左腕が装甲ごとちぎれ飛ぶ、内部の兵士の悲鳴が聞こえた。
装甲がひしゃげる。
赤黒い何かが飛び散る。
そしてその巨体が、後方の仲間を巻き込みながら岩壁へ激突した。
「…………な....ぁ....」
フェルナンドの口が開く。
だが、声にはならない。
その時になって初めて。
戦場にいた誰もが気づいた。
何かがいる。
無敵のスケルトンを一撃で屠りさる、恐るべき何かがそこに潜んでいる。
そしてそいつの眼は――
自分たちの想定していた戦場の遥か外側から、こちらをじっと捉えている。
フェルナンドは思わず装甲指揮車から飛び出す。
引き出し式テーブルの上に置かれたグラスに手が触れ床に落ち、耳障りな音を立てて琥珀色の液体とともに割れ飛び散る。
フェルナンドが震える手で双眼鏡を掴む。
「……どこだ……?」
「どこから撃っている…!?」
双眼鏡を上げる。
渓谷
岩壁
朝焼け
そして――
その向こう側
――高台
フェルナンドの眼下で、ペイルライダーの目前まで迫っていたスケルトン二体が、まるで大型トラックに跳ね飛ばされたかのような勢いで吹き飛び、バラバラに粉砕される。
「.........なっ!?」
….ォォオオオオオオオン......
その光景からわずかに遅れて、異様な音が渓谷を震わせる。
双眼鏡を目に当てるフェルナンド、反乱軍の背後はるか後方の高台に向けられた双眼鏡が映し出す光景の中...
上り始めた朝日を背に
なにかが立っていた...
朝日の中逆光に浮かび上がるそいつは、巨大な『なにか』を携えているのが分かった。
フード付きのマントがバタバタとサンタァナの残滓に煽られなびいている。
ギリースーツでも隠し切れないその特徴的な胸部のシルエット。
その表情は逆光とフードに隠れてうかがい知れない。
そいつのニヤリと笑う口元から覗く歯の白さだけが、やけに鮮烈にフェルナンドの網膜に焼き付いた。
フェルナンドの呼吸が止まった。
「…………」
そして――
そいつの口元が
さらに大きく吊り上がった。
『.......し.....死神........!?』
フェルナンドの喉から、本能が紡ぎ出すかすれた声が漏れる。
ありえない
奴は遥か離れた戦線で、足止めされているはず...
だが、本能が叫ぶ
「あれは本物だ」と。
ドゴォォォォォッッ!!
再び辺りの大気を震わせる異様な獣声とともに、前列で生身の歩兵の盾となっていたパワードスケルトン二体と歩兵一名がまとめて串刺しにされたように吹き飛び、粉砕される。
吹き飛んだスケルトン上半身の残骸に巻き込まれた歩兵が下敷きとなり、数百kgの重量に悲鳴が上がる。
黒光りする巨体が空中で砕け、鋼鉄と肉片が朝焼けの空のもと、撒き散らされ、地面に赤黒いものと一緒にブチ撒けられる。
「し、死神がどうしてここに...バカな...死神は遥か彼方で...」
うわ言のようにつぶやくフェルナンドの耳にホセの声が響く。
「驚いてもらえたかな指揮官君? 君達が死神だと思い込んでいたのは、ウチの優秀なる偵察兵君さ。」
「胸にタオルやらなんやらギュウギュウ詰めにして、メイクまでして爆乳美女に仕立て上げたんだ。」
「あぁ、『彼』の名誉のために言っておくけど、彼本当はなかなかのイケメンなんだよ?」
「 なんせメイクをしたら、ウチの兵士達までたぶらかされたぐらいだからね。...」
「彼に持たせた死神の鎌もなかなか良くできているだろう? 貴重なドルをつぎ込んで作らせた精巧な実物大の鎌にうまく騙されてくれたようで、ボクも嬉しいよ。」
零は最初から主力部隊の後方より少数の随伴歩兵とともに、送り狼のごとく身をひそめ、主力をカバーできる後方から本隊を追尾していたのだ。
「バカな...バカな...こんな...こんなこと...」
声が震える。
「死神は……あそこにいるはずがない……」
その言葉を聞いたホセが、楽しそうに笑った。
「そうだね。」
その響きには、明らかに嘲笑が含まれていた。
「でも現実にその死神は、今まさに君達の眼前に舞い降り、確実にそこに存在している。」
「君達は――死神が、あそこにいると思い込んでいたんだ」
その意味を理解するより早く
朝焼けの高台で
もう一度
巨大な砲身のシルエットが――
ゆっくりと、その鎌首を持ち上げるのが見えた
その長大な砲身が、再び渓谷を睨みつける
まるで本物の死神が持つ鎌が、その鋭い鎌首をもたげて
ようやく仕事を始めたかのように。
ワナワナと唇を震わせるフェルナンド、双眼鏡を持つ右手は震えている。
その目の前で今度はスケルトン三体が吹き飛び、血と肉と鋼鉄の入り交じった赤黒く濡れたスクラップと化す。
兵達の悲鳴が、朝焼けに染まるあたりを引き裂く。
◆◆
戦略指揮室ではクレアがルークに指示を伝える。
「ルークさん、作戦は成功です、もう敵の目を引き付ける必要はありませんので、予定通り塹壕の下のトンネルを使って後方へ離脱してください。危険な囮任務ご苦労様でした。」
「りょ、了解した、撤退する!! あとは頼んだぞゼロ...!!」
「塹壕の底で泥にまみれて爆乳カカシやってる息子のこんな姿見られた日にゃ、親に泣かれるぜまったく...!!」
◆◆
渓谷は、悲鳴と血飛沫と肉片にまみれた地獄と化していた、
ヨルムンガンドから放たれる35mm砲弾はスケルトンの9mmチタン装甲を濡れたティッシュのようにたやすく撃ち抜きボロ切れのように引き裂いていく。
最前列で生身の一般歩兵の盾となっていたスケルトン達はその役割を放棄し我先に後退し、渓谷の狭い出口へと殺到する。
想像してみてほしい、我々がサファリパークで猛獣たちを至近距離で安心して観察できるのは、絶対に襲われる心配がないからだ。
だがそのバスの壁や強化ガラスが突然消える、いや、猛獣達の爪や牙を防げるだけの強度を持ってない段ボール製だと気づいたら...?
スケルトン達はまさにその状態だ、一般歩兵の盾となれていたのはその装甲に絶対の自信があったからだ。
だがいまやその装甲は死神の鎌の前には何の役にも立たないことを、目の前で次々と吹き飛びバラバラに解体されていく仲間が証明してしまった。
こうなればスケルトンは、ただのデカい的でしかない。
自慢の重装甲は、鈍重さにしかならない。
無理なスラスター機動を使い回避を試みたスケルトンの何機かが、渓谷の壁に激突した。
仲間と衝突し、倒れて動きが止まったところをペイルライダーの陰から反乱軍兵士の放つRPG7に撃ち抜かれて沈黙する。
「撃て撃てぇ!! 生身の歩兵が相手なら、こちらの銃火器でも倒せる!!
戦意を失わずこちらに銃口を向けてくる奴から優先的に仕留めるんだ!!」
「もう弾薬を惜しむ必要はないぞ、ありったけ撃ち尽くせ!! この先にはいくらでも食料弾薬が貯蔵されているからな!!」
ラグランジュ大佐の指揮のもと、反乱軍兵士がペイルライダーを盾としつつ猛烈な弾幕を浴びせかけ、反撃に転ずる。
完全なる恐慌状態。
今や戦局の盤面は、完全にひっくり返ったのだ。
スケルトン達は楯役を放棄し、我先に狭い出口を目指して殺到する。
出口の渋滞で将棋倒しになった戦友の背中を、スケルトンの鋼鉄の踵が踏み砕きながら出口を目指す。
もはや、誰一人として他人の身を案じている余裕などない。
完全に戦意を喪失している。
勝利を確信し、ただ目の前の無力な獲物をしとめることしか頭になかった彼らは、いまや自分たちの方こそが逃げ場のないエサ箱の中で、ただ死神の鎌に刈り取られるだけの哀れな獲物になってしまったことを理解してしまった。
安全確実な勝利を確信していた人間ほど、それが逆転した時には容易に戦意は砕かれるものなのだ。
だが出口付近に到達したスケルトンから順に巨大蛇の毒牙が撃ち抜いてゆく。
零は前線の盾となっていたスケルトン、ペイルライダーに迫る最大の脅威を排除した後は、狙撃の優先順位を脱出しようと出口付近に到達したスケルトンに切り替えていた。
ただでさえ狭い出口に殺到し、次々と赤黒いスクラップに変わってゆくスケルトンの全高2.4mにも達する巨体が、狭い出口付近に折り重なってゆく。
その残骸がバリケードを形成し、さらに迅速な脱出を困難にしていた。
「へぇ...こりゃ良いや、狭い通路上に敵が直線状にひしめき合ってる...
適当に照準合わせてぶっ放すだけで、シュラスコみたいにまとめて串刺しにできる...」
「狩り放題あぶり放題の焼肉パーティね!!」
零の照準の中で、またスケルトンが一体粉砕される。
零の隣に随伴していた偵察兵が、予備の35mm砲弾を傍らに置く。
「持ってきた砲弾だけで足りるかなぁ...今日だけで三か月分ぐらいのキルスコア稼げちゃいそう♥」
「指揮官殿!! 指示をお願いします、このままでは部隊が全滅します!!
指揮官殿!!」
フェルナンドの耳に通信兵の悲鳴が響く、だがフェルナンドの思考はうまく回らない。
何も考えがまとまらない。
思考がフリーズしている。
ただ目の前で起きている惨劇を前に、うわ言をつぶやくことしかできない。
「こんなバカな...俺の完璧な作戦が...大統領の椅子が...」
「そうだ!!後詰のスケルトン部隊を呼び戻せ!! 撤退は許さん!! 」
「後詰の部隊が到着するまで、その場を死守せよ!!」
大声で喚き散らす最後列の勇者。
後詰の部隊は万が一にも渓谷を突破された場合に備えて、この先の物資貯蔵所の背後にある盆地に伏せておいた予備戦力だ。
渓谷を突破した反乱軍が、ボロボロになってたどり着いたところを襲撃して、確実にとどめを刺すためのものだ。
「ああ、後詰のスケルトンって、あの盆地に伏せてある奴だよね?
気の毒だけど、彼らは今頃深い水底で溺死してると思うよ。」
通信機からホセののんびりした口調で最悪の事実が告げられる。
「で、溺死だと!?」
フェルナンドの眼が絶望に見開かれ、その口から驚愕の声が漏れる。
「うん、ごめんね。知らなかったかな? サンタァナがこちら側で起きてるってことは、山の向こうは大雨になってるんだよ。」
「それがフェーン現象のメカニズムだからね。」
「それにスケルトンを伏せてある盆地は度々水没してる地形なのさ。手柄を渡すのを惜しんで、軍内でも極秘にこの作戦を進めたのがアダになったね。」
「この付近に配備されている部隊の誰かに意見を求めてれば、あんな危険な盆地に予備兵力を配置するのは、自殺行為だと教えてもらえただろうにねぇ。」
「そんな...おい!! 後詰部隊に連絡を取れ!! 今すぐだ!急げ!!」
「そ、それが...先ほどから通信を試みてはいるのですが...後詰部隊の応答がありません!!」
数日前から山向こうに偵察兵を派遣していたホセは、山向こうが連日の豪雨で大量の雨水を天然のダムにため込んでいるのを把握していた。
工作部隊の爆破によりその天然のダムは決壊し、ため込まれた膨大な水量は谷を走り、集積所後方に位置する盆地へと、猛烈な鉄砲水となってなだれ込んだのだ。
その水は渓谷にも流れ込んではいたが、距離が遠いこともありくるぶし程度の水深までで敵味方ともに支障はない。
しかし盆地に配置されていた、スケルトン部隊10機はたまったものではない。
地鳴りとともに押し寄せてきた膨大な鉄砲水が瞬時になだれ込み、ものの数分で盆地を湖に変え、彼らを水底へと押し流し、飲み込んだのだ。
スケルトンはあくまで陸戦兵器である、自然の豪雨程度なら問題ないが、完全な水没などは想定していない。
鉄砲水に飲み込まれ瞬時に完全に水没したスケルトンの中にも泥水が流れ込み、スケルトンのハイテク装備の数々を制御するための精密電子部品は次々とショートした。
彼らの生命線ともいえるパワーアシスト機能は、またたくまに沈黙した。
こうなれば、とても人力で動かせるような重量ではない。
水没したスケルトンは泥濘と化した水底の軟らかい地盤に足を取られ、立ち尽くしたまま水中で重さ800kgのチタン製の棺桶と化した。
ロックした機体はもはや人力では指一本動かすこともできないのだ。
この場合、内部の兵士の手動操作による自力脱出には10分はかかる。
不幸にも彼らの中にそれだけの肺活量を持つ兵士は一人もいなかった。
彼らは立ったままの姿勢で、チタンの棺桶の中に流れ込んでくる泥水に沈み、一発も撃つことなく溺死全滅していた――
「指揮官殿!! 撤退の許可を!! このままでは全滅します!! 撤退命令を!!」
フェルナンドのそばの通信機がけたたましい悲鳴を上げている。
「...ダメだ!! 撤退は許さん!! ふざけたことを言うんじゃないこの腰抜けどもが!! 俺の大統領の椅子はどうなる!? 撤退など許さん!!」
「あの高台だ、あの死神に反撃しろ!! 奴を殺せ!! 死神さえ仕留めればまだ十分勝機はある!!」
高台を指さしながら喚くフェルナンド。
「無理です!! 距離があり過ぎます!! 我々にはあの高台に陣取る死神を狙撃できるような長射程の武器はありません!!」
「一方的に狙い撃ちされています!! 撤退許可を!! せめて、今からでも空軍に空爆要請を!!」
通信機からは悲鳴交じりの返答しか返ってこない。
もっとも撤退許可など得るまでもなく、もはや留まって戦おうとする意思のあるものはほとんど残っていない。
「空軍の馬鹿どもに手柄をくれてやれというのか!? ふざけるな無能ども!! 」
「私の大統領の夢を邪魔するつもりか!! 上官侮辱罪と敵前逃亡罪で軍法会議にかけてやる!!」
「いや、この場で特務上級権限で、私の手で殺してやる!!」
眼下の遠く離れた戦場の部下達に向けて、腰のホルスターから引き抜いたピストルを乱射するフェルナンド。
完全に正気を失っている。
通信機から、ホセの小馬鹿にしきった声が聞こえる。
「おやおや、大損害だねぇ...カルテルの損益はざっと数億ドル...いや、下手したら十数億ドルってところかな? さらに一般歩兵もほぼ全滅...。」
「どうするつもりなんだろうね?」
「ボクが経営者なら、責任者はただでは済まさないけどねぇ...」
「おやぁ?」
「そういえばそこに、全ての責任をひっかぶせて、口封じも兼ねられる生贄の羊には、もってこいの便利な人材が一人いるようだけど...」
「大丈夫かい、フライドタイガー君?」
「指揮官殿!? 空軍に援軍を要請しますか? もうメンツにこだわっている場合ではありません!! せめて部隊が壊滅する前に...」
「.......特務上級指揮官殿...?」
通信兵が背後の気配の異変に気付き、振り向いた時にはすでに彼の上官の姿はなかった。
ウイスキーのボトルを片手に、ジャングルの中へと消えていくフェルナンドの後姿が最後にちらりと見えた。
ヨルムンガンドの照準が、ヨタヨタとジャングルの方に走っていく小太りの男の背中に合わせられる。
しかし....その照準は、スッと男の背中から外される。
「...まぁいいか、あんな小物指揮官....弾、もったいないし。」
興味を失ったようなつぶやきとともに、零の照準は再び残ったスケルトンとまだ戦意を喪失していない歩兵に向けられる。
敵ならば殺せばそれで片が付く。
しかし味方であれば、そう簡単に殺して排除するわけにもいかない。
古今東西言われている言葉だ。
「無能な味方は、優秀な敵より始末に負えない」と。
あれほどの無能な逸材、むしろ生き残らせて、敵の中枢で今後も政府軍の足を内部から引っ張ってもらったほうが良い...
零は、そう判断した。
専用弾薬故に補充が望めず、数が限られているヨルムンガンドの専用弾薬は戦場に持ち込める数も限られている。
一発たりとも無駄弾を浪費できる余裕はない。
戦術的プライオリティーの問題だ。




