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消えたティナ

村長の家から帰る途中。

私はアレンさんの後ろをとことこ歩いていた。

もう外は夕方だ。

空がオレンジ色に染まっている。

「……疲れた。」

「そりゃそうだろ。」

アレンさんが少し笑う。

「村長怖かった……」

「慣れればただのおっさんだ。」

「慣れたくない。」

私は即答した。

するとアレンさんが吹き出す。

「ははっ。」

なんだか少し安心した。

でも――

私はちらりと後ろを見る。

誰もいない。

……なのに。

さっきから視線を感じる。

「……どうした?」

「え?」

「さっきからキョロキョロしてる。」

私は少し迷ってから口を開いた。

「……誰かに見られてる気がする。」

その瞬間、アレンさんの表情が変わった。

笑っていた顔が、一気に真剣になる。

「どっちだ。」

「えっ?」

「視線。」

私は慌てて辺りを見回す。

「わ、わかんない……」

しばらく沈黙。

するとアレンさんが小さく息を吐いた。

「……気のせいならいい。」

でもその声は少し低かった。

私はなんとなく不安になって、そっとアレンさんの服を掴む。

「今日は俺から離れるな。」

「……うん。」

◇ ◇ ◇

次の日。

「えっ、一人でおつかい?」

私は目を丸くした。

朝ご飯を食べながら、アレンさんが頷く。

「あぁ。パン屋に行ってきてくれ。」

「でも私方向音痴だよ?」

「村の一本道で迷うな。」

「失礼だなぁ。」

「あと絶対フードは取るな。」

「それは分かってる!」

私はむっと頬を膨らませる。

アレンさんは小さな袋を渡してきた。

「これでパンを買ってこい。」

「はーい!」

私は元気よく立ち上がる。

久しぶりのおつかいだ。

なんだか少しワクワクする。

◇ ◇ ◇

「こんにちはー!」

パン屋のおばさんが笑顔を向けてくれる。

「あら、アレンのところの子?」

「うん!」

「可愛い声ねぇ。」

私はフードをぎゅっと押さえながらパンを受け取った。

危ない危ない。

耳見えたら終わる。

「ありがとうございました!」

私はパンを抱えて店を出る。

その時。

「……白か。」

後ろから低い声が聞こえた。

私はぴたりと止まる。

ゆっくり振り返ると、黒いローブの男が立っていた。

昨日、村長の家にいた男だ。

「え……」

男はじっとこちらを見ている。

フードの奥の目だけが不気味に細められていた。

「珍しい色だ。」

「な、なんのこと……?」

私は一歩後ろへ下がる。

男が近付いてくる。

「そんなに警戒しなくてもいい。」

「…………」

怖い。

本能がそう叫んでいた。

私は踵を返して走り出す。

「っ!」

「おや。」

後ろで男の声が聞こえる。

私は全力で走った。

パンが揺れる。

フードがずれそうになる。

「アレンさん……!」

すると――

ガシッ。

突然後ろから腕を掴まれた。

「きゃっ!?」

「静かに。」

低い声。

私は反射的に暴れた。

「離して!!」

「暴れるな。」

男の手が口を塞ぐ。

息が苦しい。

怖い。

嫌だ。

私は必死に魔法を使おうとして――

(ダメ!!)

アレンさんの言葉が頭をよぎる。

『人前で魔法を使うな。』

でも。

でもっ……!

「んっ……!」

男が私を抱え上げる。

景色がぐらりと揺れた。

「やっぱり獣人か。」

ドクンッ。

心臓が止まりそうになる。

フードが少しずれていた。

「白猫……しかも子供とは。」

男が小さく笑う。

「運がいい。」

嫌だ。

怖い。

助けて。

私は震えながらアレンさんの服をぎゅっと思い出す。

その頃――

「……遅いな。」

アレンさんは家の前で空を見上げていた。

パン屋までなら、とっくに帰って来ている時間だ。

嫌な予感がする。

その時だった。

ヒュオォォ……

小さな風が吹く。

アレンさんの足元に、紙袋が転がってきた。

中には潰れたパン。

そして。

白い毛が一本。

「……ティナ?」

空気が変わる。

アレンさんの目が鋭く細められた。

次の瞬間。

ドンッ!!

地面が割れるほどの勢いで、アレンさんが駆け出した。

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