危険な予感…
「森でゴブリンを倒した子供がいるって話、もう村中に広まってる。」
門番の男の人の言葉に、アレンさんが盛大に顔をしかめた。
「あいつら口軽すぎるだろ……」
「いや、だって普通信じねぇって!4歳だぞ!?」
「それはそうだが……」
二人が何やら話している横で、私はそっとフードを深く被り直した。
嫌な予感しかしない。
「……行かないとダメ?」
私は小さな声で聞く。
アレンさんは少し困った顔をした。
「断ると余計怪しまれる。」
「うぅ……」
私はしゅんと肩を落とす。
するとアレンさんが私の頭をぽんっと軽く叩いた。
「そんな顔するな。俺も行く。」
「……ほんと?」
「あぁ。」
その言葉に少しだけ安心する。
私は小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
村長の家は、村の中心にある大きな建物だった。
他の家よりずっと立派で、壁には綺麗な装飾まである。
(村長ってすごいんだなぁ……)
私はアレンさんの後ろに隠れながら建物を見上げた。
「そんなに緊張するな。」
「だって怖そう……」
「まあ顔は怖い。」
「怖いんだ。」
「でも悪い人じゃない。」
それ、フォローになってる?
アレンさんが扉をノックする。
コンコンッ。
「入れ。」
低い声が返ってきた。
アレンさんが扉を開ける。
「失礼します。」
部屋の奥には、大きな机に座った男の人がいた。
白髪混じりの黒い髪。
鋭い目。
確かにちょっと怖い。
「……その子か。」
村長さんの視線がこちらへ向く。
私は思わずアレンさんの服を掴んだ。
「そんな警戒しなくても取って食ったりせん。」
「村長、顔が怖いんだよ。」
「うるさい。」
村長さんはため息をついた。
「……まあ座れ。」
私はアレンさんの隣へちょこんと座る。
村長さんはじっと私を見ていた。
なんか気まずい。
「名前は?」
「ティナです……」
「年齢。」
「4歳。」
「……本当に4歳か?」
「ほんとです。」
村長さんの眉がぴくっと動く。
「ゴブリンを倒したと聞いたが。」
「えっと……たまたまです。」
「森の一部を吹き飛ばしたのも?」
「……たまたま?」
「疑問形にするな。」
うぅ。
アレンさんが頭を押さえている。
「村長、ティナは悪気があるわけじゃない。」
「それは見ればわかる。」
村長さんは椅子に深く座り直した。
「問題はそこじゃない。」
部屋の空気が少し変わる。
私は無意識にフードをぎゅっと握った。
「ティナ。」
「は、はい。」
「お前、自分の魔力量が異常だと理解しているか?」
「……なんとなく?」
「なんとなくか……」
村長さんは深いため息をつく。
「普通、魔法を使えるようになるのは15歳前後だ。」
それはアレンさんにも聞いた。
「しかも、魔法が使える人間自体そこまで多くない。」
「え?」
私は思わず顔を上げた。
「属性を持たず、一生魔法を使えない者も普通にいる。」
「そうなの!?」
「一つ属性を持っていれば十分すごい。二つあれば天才扱いだ。」
私はそっと目を逸らした。
全属性です。
なんて言えない。
絶対言えない。
「……アレン。」
「なんだ。」
「本当にこの子、森で一人だったのか?」
「あぁ。親は魔物に襲われて亡くなってる。」
その瞬間、村長さんの表情が少しだけ和らいだ。
「そうか……」
重い空気が流れる。
私は膝の上で手を握った。
すると村長さんがぽつりと言った。
「この村で引き取ることはできる。」
「え?」
私は顔を上げる。
「一人で生きていける年齢じゃない。住む場所くらいは用意する。」
「……!」
私は思わず目を輝かせた。
でも次の瞬間。
「ただし。」
村長さんが真剣な顔になる。
「その力は隠せ。」
私は固まる。
「……やっぱり危ないの?」
「危ない。」
即答だった。
「力を持ちすぎた者は利用される。特にな、お前みたいな子供は。」
私はぎゅっとフードを握る。
なんだか胸がざわざわした。
するとアレンさんが口を開いた。
「俺も同意見だ。」
「アレンさんまで……」
「ティナ。」
アレンさんは真っ直ぐ私を見る。
「お前の力はすごい。でも、だからこそ簡単に見せるな。」
その言葉は思ったより重かった。
私は小さく頷く。
「……わかった。」
その時だった。
コンコンッ。
突然、部屋の扉がノックされた。
「失礼します。」
入ってきたのは、黒いローブを着た男だった。
フードを深く被っていて顔はよく見えない。
「……誰?」
私は思わず呟く。
男の人の視線が、一瞬こちらへ向いた。
その瞬間。
ゾワッ。
背筋が寒くなった。
まるで値踏みされるみたいな目だった。
「村長、依頼の件で――」
男は途中で言葉を止めた。
じっとこちらを見ている。
私は思わずアレンさんの後ろへ隠れた。
すると男が小さく笑った気がした。
「……珍しい子ですね。」
「関係ないだろ。」
アレンさんの声が低くなる。
部屋の空気が一気に張り詰めた。
男は肩をすくめる。
「失礼。ただ少し気になっただけですよ。」
その言い方が妙に気持ち悪かった。
私はフードの中で耳をぺたんと下げる。
男の視線が、フードへ向く。
「……その子、どうして顔を隠しているんです?」
ドクンッ。
心臓が大きく跳ねた。




